⑭-24-433
⑭-24-433
「うああ!またゴブリンだぁ!」
「くそっ!罠もウザい!」
「ぐっ!」
「クロスボウも撃って来やがる!」
「あいつ!分かってて魔物の群れに突っ込んでるんじゃないのか!」
「逃げる先が偶々魔物の群れじゃぁねーってのか!?」
「じゃねーと、こんなに何度も襲撃を受けねーだろ!」
「うるせー!兎に角手ぇ動かせ手ぇー!」
「奴は!?」
「また見失った!」
「クソったれがっ!」
だったら早く帰れよ。
俺は奴等の様子を木の陰から窺っていた。
見失ったと報告すりゃぁ良いだろーに。
見失ったくらいで処刑されたりしないだろ。
『新選組』の連中は流石、ゴブリンなんか敵でもないって感じだな。
しかし一般の兵士は藪の中から突然出て来る魔物に混乱だ。
「ちきしょう!もうやってられねぇ!」
「俺もだ!こんな所で死んで堪るか!」
「そうだ!街で略奪出来ねぇじゃねぇか!」
一般兵達が音を上げて引き返し始めた。
残るは『新選組』の4人のみ。
ここまで長かったな。
数時間の逃亡劇もここで終わりか。
しかし『新選組』は帰らない。
魔物を片付けて尚も進んでくる。
やはり日本人だ、真面目過ぎる。
命令に忠実過ぎて状況の変化に対応出来ない。
まぁいいか。
俺はこのままトンヅラだ。
そう思って体を屈めてその場を去ろうとした時、
俺の側に『新選組』の1人が立っていた。
「うおっ!?」
俺は飛び退る。
「そこかっ!《ソニックブレード》!」
「ぐおっ!」
左肩に真空斬りを受けてしまった。
そして側に居た男は消える。
「んな!?」
「ふっふっふ。光魔法。幻影に惑わされたな」
「幻影・・・」
左肩を押さえながら4人の男と向き合う。
「追いかけっこも此処までだな」
「長い間走らせやがって」
「マラソンより走ったんじゃねーの」
「直ぐに殺すなよ。色々聞きださなきゃならん」
「分かってるよ」
1人、雨の中俺に近付いて来る。
明らかに近接職だな。
水魔法使いか。
その男が話しかけて来る。
「どこまで聞いてたんだ?」
「話して分かるのか?」
「・・・確かに。居なかったからな。じゃぁ何時から居たんだ?」
「今日からだ」
「本当か?」
「俺ん所にもスケルトンが来たからな。その処理を終えて来た」
「なるほど」
「南からバウガルディ王国に移ったって聞いたぜ?」
「・・・あぁ。貴族のクソ共にウンザリしてな。おめぇも冒険者か」
「あぁ」
「駐屯地に忍び込むだけじゃなく天幕に入るとはな。中々やるじゃねーの」
「だから依頼されるのよ」
後ろの3人が遠巻きに俺の背後に回って行く。
「こっちに移っちゃぁどうだ?良ければ口を利いてやるが?」
「口を利けなくするんじゃねーのか?」
「情報は引き出さなきゃな。その後に生きてたらって話だ」
「悪いが北部は大っ嫌いでねぇ」
「気持ちは分かるがそう捨てたもんじゃねーぞ」
「貴族とか宗教とか差別とか、もう色々と合わないんだよなぁ」
「そりゃぁ南も一緒だろうが」
「南はまだマシだよ」
「大して変わんねーよ!特に貴族はな」
「移った理由はその辺か?」
「・・・まぁな。強欲で狡く、報酬なんて払わないのもザラだ。そのくせプライドだきゃ高ぇときてる。冒険者と見下し、見下してんのに金も払わねぇ。糞共だよ」
「北も一緒だろう?」
「国の依頼だからな。先ず払いやがるよ。桁も違う」
「消される危険も有るんじゃねーのか?」
「そうなりゃ返り討ちにしてゲリラ活動よ。散々暴れまわって河岸変えるだけさ」
「何なら南に口利いてやるが?」
「はっはっは!まぁソルトレイク王国には行ってみたかったがな」
「今からでも間に合うぜ?」
「いや。これから忙しくなるだろうからな、止めとくわ」
「忙しく?」
「それに俺達に手を出せば『7人の侍』も黙ってねーしな」
「『7人の侍』?関係が有るのか?」
「まぁ、同郷って感じだ。協力関係なのさ」
「・・・なるほど。じゃぁ一緒に来れば良い」
「はっはっは!俺等は兎も角、『7人の侍』は無理だろうよ」
「何故だ?」
「あいつ等は4人しか居ない。なのに『7人の侍』だ。何故か知ってるか?」
「いや」
「南部で活動してた頃は7人だったのさ。それがギルドや貴族の無理な依頼で1人死に、2人死に。それでも南部の為だって言って我慢してたらしい。しかしメンバーの女が貴族に手籠めにされてな、反抗して南を抜けたのさ。その時に女も死んだらしいが」
「何だと!?」
「そうだろう、それが普通の感情だ。しかし奴等にゃぁ冒険者は使い捨ての道具に過ぎねぇんだよ」
「・・・」
「おめぇも今は重用されてるかもしれねぇが、いずれ手の平返される。おめぇは腕は良さそうだ。ソロか?」
「あぁ」
「2つ名とか、名前は有んのか?」
「いや。諜報メインなんでな。無い方がやり易い」
「だったら尚更だ。有名じゃなきゃ始末しても問題にならん。使い捨てにされて何事も無かったかのように闇に葬られて終わりだな」
「・・・」
「実際『7人の侍』は貴族に手向かった犯罪者の烙印を押されて逃げた。そこで勧誘を受けたらしいが」
「うーん」
「どうだ。その様子だとおめぇにも色々有ったようだが」
「うーん」
「悩んでるって事は迷ってるって事だろ」
「それでも俺は北部は無理だ。家族を殺されてるんでな」
「・・・なるほど。お互い様って訳か」
「どこも同じだ。だったら家族の仇を討つのを優先する」
「まぁ仕方ねぇ。じゃぁ死んでくれ」
「最後に1つ聞きたい事が有る」
「うん?」
「何故バレた?」
「ふっ。自分のスキルに自信が有ったんだろうな。『7人の侍』の1人に《熱探知》持ちが居る」
「《熱探知》!?・・・なるほどな」
「じゃぁお別れだ」
「『新選組』って言うと」
「うん?」
「お前が近藤勇か?」
「あぁ。コンドウ・イサミだ」
「後2人は分かる。もう1人は誰なんだ?」
「うん?」
「山南敬助か伊東甲子太郎か永倉新八、斎藤一?まさか芹沢鴨」
「なっ!お前まさか!」
「まさか清河八郎とか言うなよ」
「転生っぃぷえ!?」
俺は砂を投げつけた。
ブオッ
結晶魔石に魔力を送り、後ろに飛んだ。
「なっ!《バリ》あっ!?」
男の胸にマチェーテが突き刺さる。
マチェーテは抜かずに更に右に飛ぶ。
「てめ!《サンダ》「《雷撃》!」!?」
バリバリバリッ
更に右に飛ぶ。
「てめぇ!雷使い!死ねや!《ファイヤー》「《雷撃》!」!?」
バリバリバリッ
「お前はファイアじゃなくファイヤって言うんだな」
「ぶぇーっぷ!」
水魔法使いが水で砂を落としたようだ。
「て、てめぇ・・・雷魔法を・・・しかも無詠唱連続発動だと!?」
バッグから治癒ポーションを取り出して左肩に掛ける。
「これでタイマンだな。お前は水魔法使い、と」
「くっ!何故だ!無詠唱はスキルか!?」
「悪いが秘密だ。諜報部員なんでね」
「くそっ!~~~・・・」
「おうおうおう。ボールかなウォールかな」
「~~~。《フォギー・ボギー》!」
「何っ!?」
固有魔法だと!?
奴を中心に霧が広がってゆく!
霧が広がってゆく速度が尋常じゃない!
今は雨!雨を利用してやがる!
それにこの霧!視えない!
見えないだけじゃなく視えない!
魔力を帯びているな!
その所為で正に靄がかかったように視えない!
一種のジャマーだ!
サク
背中に疼痛を感じた。
「《神経強化》!」
刺された!
背中からだ!
振り返っては駄目だ。傷口が広がる。
勿論抵抗なんて無理だ。同様に傷口が広がる。
前だ!
前に飛ぶしかない!
ブオッ!
「うぐっ!」
何かが背中から抜ける感覚の後に出血を感じた。




