⑭-23-432
⑭-23-432
昨日は色々調べて回った。
緒戦を負けて結構な被害だが士気は低くない。
各国の援軍もそうだが何よりティラミルティ帝国の看板の効果が高かった。
やはり大国だからだろう。
南部の大国と言えば、東のルボアール王国に西のソルスキア王国。
今回ルボアール王国の援軍が無かったのは単純に距離的な問題らしかったな。
・・・確かに遠かった。旅して来たし。
援軍を出すにしても間に合わなかっただろうな。
そんな事を思いながら朝の兵士の様子を見ると味方と大して変わりが無い。
髭を剃る者。
賭博に興じる者。
頭蓋骨で遊んでいる者。
大して変わりが無い。
なんで考え方が変わるだけでこうも違うんだろうか。
戦争が起きる程に。
戦争は政治の手段の1つとか言ってる奴が居るが、だったら言ってるお前が先頭走って敵に突っ込めと言いたい。
言いたい事は分かる。
舐められたら負けだからな。この世界でも嫌と言う程身に染みてる。
しかし手段の1つって言うのが単なる言い訳じゃないのか。
政治外交で解決出来なかった、済まんみんな、戦争しかない、
そう言うんならまだ分かる。
手段の1つって言うんなら他の手段はどーした、ってなるだろ。
簡単に始めるんじゃねーよ。
キルフォヴァに侵攻してきた奴もそんな感じだったしな。
今回も奴隷が欲しくて攻めて来てるんだろ。
自分達の失政を認めず略奪で埋め合わせようとする。
自分の失火で財産失ったから他人の家に盗みに入る、その考えがムカつくんだよ。
俺は少しプンプンしながらまた大きな天幕に忍び込んだ。
念の為に女能面を着ける。
やがて昨日の顔ぶれが集まりだした。
「スケルトンの被害から施設はほぼ回復しました。怪我人は引き続き治療中です」
「大きな被害が無くて良かったな」
「全くですな」
「失礼します!『7人のサムライ』、『新選組』が参りました!」
「うむ。通せ」
「はっ!」
「冒険者ですか」
「あぁ。駐屯地周辺のスケルトン狩りに出していたのだよ」
「ほほぉ」
ほほぉ。
やがて案内の兵士に伴われ、冒険者風の男達が天幕に入って来る。
そして『7人の侍』の1人の男がこちらを見た。
驚いた表情をしている。
俺は小箱の後ろに隠れていたが完全に隠れていた訳ではなく顔を出していたのだ。
そして彼とは完全に目が合っていた。
あれっ。
俺を認識してる?
目が合ってるよね?
見えてるの?
「おま・・・え。そこで何してる?兵士か?何だその仮面は?能面?」
やばい!
完全に見えてる!
何故だ!
《偽装》してるのに!
完全ではないって事か!?
いや!今はそんな事は良い!
ここで姿を現しても拘束されるだけだろう。
迷っちゃったっていう言い訳は通じないだろう。
トイレどこですかって言い訳も通じないだろう。
捕まって連れてかれる。
その後は尋問と言う名の拷問だな。
やだっ。
人にやるのは良いがやられるのはやだっ!
俺は背後の天幕の布を捲って外に逃げた。
「逃げたぞ!追え!」
「何だ!何事だ!?」
「間者です!そこに潜んでいた!」
「何だと!」
「野郎!」
「待て!『新選組』が追うのだ!」
「はっ!」
「『7人のサムライ』は間者が他に居ないか捜索しろ!」
「畏まりました!」
『追え追えぇー!』
『北に逃げたぞぉー!』
くっそ!
ここは草原だ!
味方が居る南に逃げても合流する前にいずれ追いつかれる。
こっちは徒歩だ。
馬を出されれば万事休す。
ジェットパックで飛びながら逃げても魔力切れになってヤバい。
少し距離が有るが森が見える北に向かった方が良いだろう。
味方とは正反対の方角だが。
本陣の柵を飛び越え駐屯地の境も超えた。
振り返らず《魔力探知》で後方を探る。
う~ん・・・
追い掛けて来るのは目ぼしい奴で『新選組』だけだな、後は一般兵か。
『7人の侍』は来ていないようだ。
最初に会った時と同じ4人だったが何故『7人の侍』なのか。
いや!今はそんな事どうでも良い!兎に角あの森へ逃げろ!
ジャック「へぇー。ブラックドッグを!」
バイヨ「あぁ。一緒にね。あの時は世話になった」
ミキ 「お互い様よ」
ティア「キルフォヴァの防街戦にも参加したのよ」
カイル「えぇ!?激戦だったって聞いてるぜ!」
ミキ 「大変だったわね」
マヌイ「だったねぇ」
エマ 「一時は街壁突破されちゃったしね」
ジャック「良く守れたな」
ミキ 「ホントよね」
サーヤ「何とかなりましたわ」
何とかなる人数じゃない!
何で1人の間者に50人も追って来てるんだ!?
はぁー、軽装備で良かった。
これより重かったらキッついぞ!
よし!森に入れそうだ!
ミキ 「ソルトレイク王国ではどんな仕事してたの?」
ジャック「魔物退治や隊商の護衛だね。塩湖の北端に王都が有って、南東、南西に1つずつ街が有る。ソルトレイク王国はこの3つしか街は無いんだ。だからその往復だね」
ミキ 「街が3つしかないの?」
ジャック「あぁ。1番小さな国だからね。それに国土の半分が塩湖だ」
「「「「へー」」」」
ジャック「でもその分街に人口が集中して賑やかだよ。王都なんて10万人とか 20万人とか居るらしいし」
「「「「20万!?」」」」
ミキ 「10万と20万じゃ2倍も違うんだけど」
ジャック「そんなに多ければもう数えられないよ。だからその辺適当なのさ」
ミキ 「そんなに」
ジャック「商業が盛んだから定住者だけじゃなく旅人も多いんだ」
「「「「へー」」」」
ダナ 「観光客も多いわよ」
ティア「もう直ぐ海亀のシーズンだからね」
エマ 「もう直ぐね」
もう直ぐだ!
もう直ぐ森だ!
・・・
いよぉーし!入った!
もうちょい走ろう!少し進んだ所まで!
「野郎!森に入ったぞー!」
「見失うなー!」
「行け行けー!」
「ぐわっ!?」
「おわっ!」
何人かが俺の《罠》に足を取られたようだ。
明るい草原から薄暗い森に入って直ぐは暗さに慣れていない。
足元の《罠》にも気付きにくい。
すかさず木の陰からクロスボウを放つ。
「ぐわっ!」
「あっ!くそがっ!」
「追え追えー!」
「怯むなー!」
はぁー。
俺はまた走り出した。
クロスボウは1発しか撃てないのが辛いな。
連射式は近距離用だし今の状況には不向きだ。
これからどうするか。
東に行くと街道に出るがそれは不味いだろう。
だとすると西か。
西に行ってレイヴでミキ達に助けを呼ぶか。
レイヴは・・・付いて来てるな。
会議で《鷹の目》とか言ってたが恐らくスキルだろう。
鷹の目の視点から見るのか、或いは鷹の目と同調するのか。
正確には分からんが用心してレイヴには森の上空を飛ばずに森の中を移動してもらった方が良いだろう。
ミキ 「商業の街かぁ」
マヌイ「行ってみたいねぇ」
サーヤ「海亀が見たいですわ」
ケセラ「私も行ったことが無いな」
ダナ 「この戦争が終わったら行く?案内するわよ」
ミキ 「良いわね」
マヌイ「絶対勝たないと!」
ミキ 「ホントね」
ティア「あれ。雨ね」
エマ 「本当だ。いつの間に」
バイヨ「本格的に来そうだな」
「ぐあっ!」
「くそっ!」
「またかよ!」
「チョコマカチョコマカ逃げやがって!」
「罠を置きつつだ!」
「掛かったらクロスボウだ!」
「ブッ殺してやる!」
怒っとる怒っとる。
奴等も長距離走って来て更に森を走らされスタミナが無くなって来てるだろう。
更にさっきから雨も振りだした、余計に体力が削られるだろう。
俺はさっきスタミナポーションを1本飲んだからな。
とは言えまだまだ人数が残ってる。
少しずつ削って行こう。




