②-26-43
②-26-43
そうして今回も何事もなく野営地に到着したようだ。
森から少し離れた所にある野営地だ。
いつも使われているのだろう、そんな跡がそこかしこに見える。
荷を下ろし野営の準備を始める。
「まだ日はあるのに準備を始めるんですね」
「夕方になってからじゃ間に合わないからね」
馬車で一方に壁を作り風を防いでテントを張る。
テントから離れた所で火を焚き夕食の用意をする。スープのようだ。
「温かいのは有難いですね」
「ドライ系を入れよう」
「そうですね。昨日あまり食べませんでしたし、身体を回復させないと」
《頑健》さんや《病気耐性》のお陰だろうか、馬車酔いも大分慣れてきていた。
隊商のみんなも思い思いに夕食を食べている。
家族への土産の話をしている者。
商品の話をしている者。
帰ったら結婚するんだと言っている者・・・
・・・大丈夫だろうか、不安だ。
その中でひと際煩いのがいた。ジャンである。
「ジャン!酒は止めろって言ったろうが!」
「ってやんでー!こう寒きゃ飲まなきゃやってらんねぇーっつーの!」
護衛隊長が注意をしている。
酒を飲み始めたようだ。
村でならまだ許容できるが・・・野宿で?
そうこうしている内に周囲に臭いが立ちこみだした。
「肉を焼いてんのか?」
「あ~、焼いてますね」
マジか。
俺はリオンヌさんの所に行く。
「肉焼いてますけどいいんですか?」
「いや、良くないんですけどね。参ったな」
今度はジャンの所だ。
「おい。あんた!肉焼くのやめろ」
「あ~ん!なんだとー!俺達が何喰おうとおめぇに関係ねーだろ!」
「魔物が寄って来たらどうするんだ!」
「魔物だー?んなもん、俺達がブッ殺してやるよ!」
「これは護衛だ。討伐じゃない。余計な危険は作るんじゃない」
「うるせー!馬車も碌に乗れねークソガキがっ!俺に命令すんじゃねー!」
コイツは駄目だ。
酒が入って理性的に話し合えない。
いや、酒が入ってなくても無理か。
俺はリオンヌさんの所に戻る。
「酒が入って話し合いどころじゃないです。仕方ないので他の護衛の方達とで警戒します」
「はぁ。仕方ありませんな。全く・・・」
リオンヌさんと俺は護衛隊長と話し合うべく向かった。
話し合いの結果を菊池君に報告する。
「あいつらの分もカバーすることになった」
「はぁぁぁ。仕方ありませんね。被害が出れば私達の印象も悪くなるでしょうし」
「護衛依頼は全体を守るよりパート分けで守らせてもらった方がいいな」
「次の依頼からはそうしましょうか」
食事も終わり後片付けをして寝る準備に取り掛かっていたところ、そいつらは現れた。
グルルルゥ
「魔犬だっー!」
誰かが叫んだ。
片付けを放り出し逃げ惑う人々。
「事前に決めたように馬車の内側に固まって!」
俺達護衛は叫びながら誘導し馬車の壁を背に人々を1か所に纏める。
馬車の下からも潜ってくるのに備えて護衛を馬車側に3人配置する。
5人で魔犬に対峙することになった。左は俺達、中央にジャン達、右に隊長。
「菊池君、灯りの範囲外の奴らは魔法で殺そう。魔法とはバレないようにな」
「了解です!」
隊商とは結構離れているので魔法はバレないだろう。
俺は前に出て牽制をする。
無闇に飛び込んでくる魔犬は《見切り》で躱しざま斬り伏せる。
「・・・!」
菊池君を見ると聞き取りにくいように小声で詠唱している。
「・・・!」
ザシュッ
《風刃》だろう、灯りの外で倒れる音が聞こえる。
ズシュッ
「ギャン!」
ボルトが刺さる音が聞こえ、目の前の魔犬が倒れる。
やはり遠距離は便利だな。
俺が盾役で菊池君が後衛っていうスタイルが良いだろう。俺もうスキル取れないし。
近距離用の罠ってのも考えたいな。
と考えながらも、
ザシュッ
飛び掛かってきた魔犬をまたも見切って躱しざまに斬る。
その後も順調に数を減らし左側はいなくなった。
他の様子を見て見る。
後方の隊商たちは無事のようだ。
何匹か馬車を潜って来たみたいだが3人で対処出来たのだろう。
では中央と右側は、
「オイ!何ボーっとしてんだよ!助けろっ!」
ジャン達の前に1匹の魔犬が死んでいるがまだ3匹残っていた。
ジャンは犬の前でブンブン剣を振っている。
「・・・何してんの?」
「う、うるせー!早く助けろっ!」
「・・・行くぞミキティ」
「了解!」
ザシュッ
ボルトが刺さりよろめく犬。
俺は走り中央の魔犬の横に突っ込んだ。
俺が突然横から来たので犬はビックリし慌てて飛び掛かって来たので躱し斬り、
もう1匹も飛び掛かって来たので躱して逆袈裟。
これは斬れず骨を折るような感触。
しかし倒れ込んだのでそのまま突き刺して止めを刺した。
菊池君もボルトを撃ち込んだ犬に止めを刺している。
俺達はそのまま右側の隊長に加勢するため走った。
「見えてるので2匹、暗がりに2匹潜んでる」
「了解!」
暗がりの魔犬は《魔力感知》で分かる。
暗闇で見えにくいが全く見えない訳ではない。
俺はさっきと同じように隊長に対峙している犬の横に走り込んだ。
この犬は飛び掛かって来ず様子を窺っている。
ザシュッ
そこにボルトが刺さる。
俺はもう1匹を狙い、隊長はボルトが刺さった犬に止めを刺す。
いい連携だ。
魔犬もそう思ったのだろうか。
踵を返し逃げて行った。