⑭-18-427
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楔を打たれてベドルバクラ左翼軍が分かたれていく。
「よぉーし!ミキ!サーヤ!バリスタはもういい!弓で数を減らせ!」
「「了解!」」
「敵弓兵を撃つの!?」
「いや!歩兵だ!歩兵が崩れれば前線を突破出来る!歩兵を狙え!必ずしも殺す必要は無い!」
「「「「了解!」」」」
「ファーダネ様!中央突破したようです!」
「よぉーし!クルト!」
「・・・はっ!」
「兵達に《強化支援》を掛けて分断せよ!」
「・・・畏まりましたー!」
《うおおおぉぉぉ!》
「何か味方の勢いが凄いわね!」
「クルトさんの《強化支援》部隊だ!視えるぞ!」
「じゃぁ逆側に行って中央軍の横っ腹を攻撃する!?」
「いや!このまま敵左翼を潰走させる!そうすれば味方右翼は予備兵に集中出来る!」
「「「「了解!」」」」
「・・・敵軍奥深くに浸透成功!」
「よぉーし!レネ!」
「ははぁ!」
「騎兵隊で敵後方弓兵を襲え!」
「畏まりましたぁー!」
ドドドドドドドドド
「おっ!レネ嬢だ!」
「騎兵隊ね!」
「突っ込むのかな!?」
「狙いは恐らく弓兵だ!近接戦は出来んからな!」
「弓兵が逃げれば背中が涼しくなって歩兵も逃げ出すだろう!援護するぞ!」
「「「「了解!」」」」
レネ率いるソルスキア王国騎兵隊は戦場を東へ大きく迂回してベドルバクラ左翼軍の背後から突っ込んだ。
騎兵の強みは機動力だ。
単純に真正面から突撃して停まってしまっては意味が無い。
駆け抜けながら攻撃するのだ。
ナイフで木を削っていくように。
弓兵たちは背後から来る事を察知出来ず被害が大きくなる。
『ぎゃぁあ!』
騎兵隊は突撃当初の勢いを緩めつつもそのまま敵陣を浅く抉りながら走り去ってゆく。
「よぉーし!こっちにも注意を惹かせるぞ!本隊と騎兵隊と俺達!3つも注意しないといけないから混乱するだろう!」
「「「「了解!」」」」
その後数度のレネ騎兵隊の突撃で弓兵はバラバラになって敗走を始めた。
背後の人間が逃げ始めたのを見て歩兵達も少しずつ逃げ始める。
そうなると少しずつだったのが周りに波及して左翼軍の後方は総崩れとなった。
そうして左翼軍は後ろから蜘蛛の子散らすように逃げていく。
「よぉーし!味方盾隊はそのまま予備兵に向かわせろ!」
「・・・ははっ!」
「前戦の歩兵に敵左翼の追撃を任せ、疲れが軽い後方の歩兵を予備兵に向かわせろ!」
「・・・畏まりました!」
「ソルスキア軍の流れが変わった!予備兵に向かうようだ!」
「私達も移動する!?」
「そうしよう!」
「逃げる兵士は良いの!?」
「ほっとけ!勝負の行方は中央だ!」
ベドルバクラ本陣に伝令兵が入って来た。
「報告!左翼崩壊!潰走中です!」
「くそっ!」
「このままでは予備兵の側面を突かれますぞ!」
「如何致します!?」
「仕方ない!緒戦は奴等に花を持たせよう!全軍後退だ!」
「ははっ!」
「予備兵の一部は左翼を吸収しつつ後退!中央軍と予備兵は合流しつつ後退!右翼はそれを助けつつ後退だ!」
「フリーエ様!敵が撤退の準備を始めました!」
「よぉーし!追撃じゃ!削り取れ!」
「ははぁ!」
「敵が後退していくぞ!」
「後退!?撤退!?」
「ん~。味方が押してるな!追撃か!?」
「その様だな!」
「どうする!」
「一旦持ち場に戻るか!」
「「「「・・・(今更?)」」」」
「今後どうするか分からんしな!」
「そうね!疲れたし!」
「こんな所まで来ちゃったしね!」
「後は任せましょう!」
「そうしよう!」
「よぉーし!帰るぞー!」
「「「「おー!」」」」
フリーエ達首脳陣が砂埃舞う彼方を望遠鏡で見ていた。
「フリーエ様。その後の追撃で少なくない損害を与えましたがこれ以上は味方の被害も」
「うむ。流石ベドルバクラ軍と言った所かの。慌てない撤退は見事なものじゃ」
「然様ですな」
「追撃終了じゃ!」
「ははっ!」
僕達は荷台に座ってもう少しで夕陽になりそうな空を眺めていた。
「はぁー。終わった」
「やっぱり疲れるわね」
「魔物とはまた違うもんねぇ」
「熱気に当てられたと言うんでしょうか」
「まぁ、勝てて良かった」
周りは駐屯地に帰ろうとする味方兵士がいる。
負傷者を収容したり、戦友の遺体を収容したり。
「僕等も帰るか」
「「「「さんせーい」」」」
陽が落ちかけている駐屯地の幕下。
「ヴォーレ殿下。勝利、おめでとうございます!」
『おめでとうございます!』
「皆の奮闘に心より礼を言います」
「先ずは緒戦をモノにしましたな」
「幸先が良い」
「然様!」
「フリーエ様の差配も見事なものでしたな」
「然様!」
「先に有利な地形に陣地を敷いて相手を誘き寄せた」
「窪地の高低差を利用しての用兵も見事」
「援軍のファーダネ卿、クレティアン卿も良く戦ってくれました。礼を言います」
「「ありがとうございます。殿下」」
「敵敗走の切っ掛けはファーダネ様の突破からとか」
「敵左翼を退けたらしいですぞ」
「クレティアン殿も人数に劣りながらよく耐えられた」
「今後の事は明日話し合うとして今日は勝利を祝いましょうぞ」




