⑭-09-418
⑭-09-418
『不可解な点?』
「はい。資料は悪魔の経過観察と言った物だけでした。保守派の資料が見付からなかったのです」
「ふーむ」
「隠れ家はそこだけでは無かったと?」
「その通りですファーダネ閣下」
「では諜報員はまだ居ると?」
「いえ。燃える前の資料から全て死んだのはこの2体を含め間違い無いと思います」
『ふーむ』
「つまり、本来の諜報の資料が見付かっていないから本来の任務は分からんと」
「はい」
「うーむ。しかしティラミルティ帝国から悪魔の血を持って来たという事はやはり悪魔騒動が作戦じゃったのではないかの?」
「ブラックドッグもベルバキア公国で起きましたしな」
「じゃぁルンバキアでの悪魔騒動は何故?」
「どうやら試験的に起こしたみたいです。魔女もその一環みたいでした」
「本番はブラックドッグから始めようとしていたという訳か」
「恐らく。試験は大臣の専横でやり易かったと思われます」
「成る程」
「いい迷惑ですな」
「そういう事を言うものでは無いぞ、レヴィ」
「・・・・・・は」
「資料が無ければティラミルティ帝国の関与を問えないな」
「はい」
「全く!あのクソったれ共め!」
「後考えられるのが」
『うん?』
「ソルスキアからベルバキアに諜報員の情報が行ってる筈なのです」
「成る程!ベルバキア公国が資料を回収してるかも知れないと?」
「はい」
「それは有るな。本国を通して問い合わせてみるか」
「・・・然様ですな」
「今回の悪魔騒動は終わったとは思うんですが、」
「うん?」
「政府要人に悪魔の血を飲んだ方が居たら、もしくは飲まされた方が居た場合、どうなるのでしょう」
「うむ。政府要人を悪魔にさせれば混乱は大きなものになる。被害も相当なものになるだろう。しかし悪魔になれば発見は容易なのだ」
「それは、そうでしょうね」
「いや、容姿の事ではない。悪魔は欲望に抗えない。人間の理性で抑えられなくなるからだ。マコル君の懸念は魔女やブラックドッグの様な、人間が変身するものの事だろう」
「はい」
「魔女や他の変身系の悪魔に関しては分かっている事が有る。それは人間でなくなってから時間が経てば人間には戻れなくなるというものだ」
「戻れなくなる・・・」
「うむ。時間が経てば経つほど欲望に抗えなくなり悪魔の状態の時間が長くなる。そしていつか人間に戻れなくなるのだ」
「なるほど」
「ブラックドッグも変身系の悪魔であればその可能性が高い」
「あの村の魔女も1ヶ月ほど経っておったじゃろう」
「えぇ」
「影響は出ていたのではないかぃ?」
「確かに。つまり政府の要職に居続ける事は不可能という訳ですね」
「うむ。国を操るといった事は不可能だ。悪魔騒動というのはそういった調査もするから大変なのだが。悪食、財宝、女、そういった欲望に必ず反応する。調査は大変だが見つける事自体は簡単なのだ」
「なるほど」
「マコルなら何に反応するのかな?」
「僕ならぁ・・・女ですかね」
「ほぅ?」
「目がおっぱいになってるでしょうね」
「オラッ!」
「ぎゃふっ」
『はっはっは』
「では悪魔騒動は終息した、という事ですね」
「そうじゃな。公表するのは出来んが我々と各国の上層部で共有すれば良いじゃろう、良かろうと存じます」
「ふふっ」
「ヒェッヒェッヒェッ。まだ慣れぬ故」
「そのままで良いですよ」
「大公殿下には不味かろうと存じます」
「寂しいわ」
「何の、言葉だけなので。ヒェッヒェッヒェッ」
「うふふ」
「それで今まで溜まりに溜まってる報酬の件ですが」
「「「「「ドキッ!」」」」」
「この悪魔の解呪をフリーエ様にお願いして、所有権を僕等にもらいたくて」
「ほほぉ」
「それで報酬の一部と、ホントに一部とさせて頂きたいなと」
「そ、そうじゃのぉ。どうじゃ、カラッハ」
「はい。宜しいのではありませんか?悪魔の血の所有を調べる必要が有りますが今迄の功績や行動から彼らが悪魔の血を不正使用するとは思えませんし」
「何より今迄悪魔を保有していたのなら悪魔の血も何処ぞに隠しているだろうから今は持っているはずがないだろうし」
「やだなぁ。この2体はもうすっからかんでしたよ」
「・・・体液を抜き取られているからな」
「しかしもっと早く報告すべきだったのではないのか!」
「いやぁ報告する間も無く強引に呼ばれて強引に依頼を受けさせられたからなぁ」
「うぐっ!」
「藪蛇だったのぉ、レヴィ」
「はぐっ!」
「良いでしょう。悪魔の解呪とその所有権を認めます」
「ありがとうございます」
「店で売るのか」
「新装開店の目玉になるでしょう」
「違いない、目の玉が飛び出るだろう」
『はっはっは』
「それでは少々時間を貰おうかぇ」
「えぇ?もうやっちゃうんですか?大丈夫ですか?」
「なに、今日はもうソルトレイク王国からの援軍を迎えるだけじゃし、戦争の予定は無い。魔力を使っても大丈夫じゃろう」
「えぇ。報酬を払うのも上の役目ですしね」
「一部ですよ、一部」
「どれっ。ぱぱっとやってしまうかのぉ」
それから《カウンタラクト》による2体の悪魔の解呪を終えた。
「では後はドゥムルガの冒険者ギルドで証明書の発行をさせましょう」
「私がしましょう」
「そうですな。冒険者ギルドだと悪魔の出所を聞かれるでしょうからな」
「国からの、殿下から証明書が発行されれば無事に店でも売れるだろう」
「ありがとうございます」
「それでは仇は討てたという事か」
「いえ。直接はティラミルティ帝国です。北部を弱らせるのが仇討ちに繋がると思っています」
「そうか」
「ですので勝っていただきませんと」
「はっはっは。そうだな」
「マコル君達には索敵と斥候をメインに当たって貰おうと思っている」
「はい。それが得意なので僕等も助かります。戦闘は苦手でして」
『・・・』
「う、うむ。ではこれからも頼んだぞ」
「はい。それでは失礼いたします」
僕達はテントを出た。
「やったわね。これで大手を振って悪魔素材を売れるわ」
「そうだねぇ!だけどカズ兄ぃ。あたし欲しい部位が有るんだけど」
「ん?どこだ?」
「鰓」
「あぁ。1匹鰓持ちが居たな」
「あぁー!私も欲しいぃー!」
「良いぞ。他にも欲しい部位は取っとけよ。残りをキルカ商会で売るから」
「話は信じたでしょうか」
「信じざるを得ないだろう。証拠も無いんだし」
「大筋は事実なのだし大丈夫ではないか?」
「ティラミルティ帝国関係の書類が無いのも事実だしな。それはソルスキア王国経由で調べてくれるだろう」
「もし見つかったらバレないか?」
「ジュゼッペのティラミルティ帝国諜報員名からはエウベルトにもヨセフにも追跡出来ない。ましてやジュゼッペにもな。恐らく大丈夫だ」
「ジュゼッペの日記にも有ったけど、ティラミルティの書類と二重スパイとを関連させるようにはしていないはずよ」
「では戦争に集中ですね」
「でも飛行機ならキルカ商会まで一っ飛びで悪魔素材を渡せるんじゃない?」
「往きは良いが帰りがなぁ。牽引出来ないから離陸も難しいな」
「そっかー」
「自力で離陸出来たら良いのにね」
「うーん。となると水上かなぁ」
「5人乗る機体はどうなの?」
「軽くて丈夫な素材を探してる」
「進んではいるんだ」
「デザインはね。2人乗りが成功してるからな」
「早くみんなで乗りたいなー」
「ねー」
「ねー」
「菊池君が飛行機恐怖症を克服してからだな」
「ちょ!違うから!怖くないわよ!」
「まぁまぁミキ姉ぇ。誰にも怖いものって有るものだよぉ」
「そうです。恥じる事ではありませんよ」
「鳥になった気持ちを分かち合いたいものだ」
「だから違うから!」
もう直ぐ夕方になろうかという時間帯。
「うん?結構な数がこっちに来るぞ」
「敵?」
「・・・いや。方角的に味方かな。ソルトレイク王国の援軍が来るとか聞いたし」
ドドドドドドドドド
やがて東の彼方から砂埃を上げながら軍勢が駐屯地に近づいて来ていた。
やがて誰ともなく叫ぶ。
「ソルトレイク王国の竜騎兵だ!」
「竜騎兵だ!」
『おぉ!』
〈わあああぁぁぁ!〉
「竜騎兵?」
「みんな見に行こうよ!」
マヌイがはしゃぐ。
既に大勢の見物人で埋まっていた駐屯地の入り口付近に行き、騎兵を先頭に通って来る一団を見ていた。
「あれが竜騎兵・・・」
2足歩行の鳥に跨った騎士が堂々と入場していた。
「そうだ。クイール。竜の一種だとも言われている」
「竜!鳥じゃなく?確かに鳥と言うよりは蜥蜴顔だな。そう言えば前言ってた奴か」
「そうだ。馬よりも一回り大きいが馬より速くない」
「えっ。じゃぁ何でクイールに乗ってんの?」
「その機動力は馬以上、そして何よりあの羽だ」
「羽毛じゃないんだな」
「そうだ。そこも竜の近縁と言われる由縁だ」
「へー」
「あれで飛べる訳ではないが滑空するのだ」
「滑空」
「うん。実際竜騎兵の真骨頂は高所からの滑空突撃だ。台地の斜面で無類の強さを発揮する」
「へー」
「見ろ!」
「ん?」
「ソルトレイク王国が誇る虹の騎士、『レインボー・シックス』が1人、青の騎士
クレティアンだ!」
「へー。という事は後5人は色の名を冠した騎士が居るのかい?」
「その通りだ。彼らが言わば将軍の様な者だ」
「へー」
「でも青くないわね」
「シンボルカラーらしい。アクセントで入ってるらしいぞ。流石に全身青色という訳にはいかないだろう」
「「なるほどねー」」
「わー!竜騎士だぁ!」
「そういや竜騎士に憧れてたな。あれか?」
「うん!本物を見るのは初めてだけど!」
「なるほど、確かに兜は似てるな」
「でしょー!」
「これで援軍は揃ったって訳ね」
「そうだな。そろそろ軍事行動に移るかもしれんな」
「いよいよ戦争ね」




