⑭-07-416
⑭-07-416
ドゥムルガの街の北の幕下で会談をしていた。
「お久しぶりで御座いますなぁ」
「フリーエも。壮健で良かったわ」
「先ずは何より、ヴォーレ8世殿下。御即位おめでとう御座います」
「「おめでとう御座います」」
「ありがとう」
「色々大変だったと聞いとりますが」
「・・・・・・えぇ」
「しかし今は振り返る時間はありませんなぁ」
「えぇ」
「ただ・・・何故ここに参られたのか・・・」
「勿論勝つ為です!」
「いやそれは勿論なのですがのぉ」
「もう来てしまったのですからそれこそ振り返っても仕方ない事でしょう」
「はぁ。まぁ、そうですな」
「現在グデッペン要塞に8000人が集結しています」
「「「8000!?」」」
「えぇ。ベドルバクラ王国にバウガルディ王国、神聖リィ=イン教国と更にティラミルティ帝国の4カ国連合軍です」
「「「!?」」」
「何とまぁ・・・近年稀に見る大戦ですなぁ」
「えぇ」
「結果的に殿下が参られて良かったのではありませんか、おばば様」
「エリーテの嬢ちゃんも良く来てくれたねぇ」
「おばば様の為なら何時何処へでも」
「ヒェッヒェッヒェッ。ありがとなぁ。クルト坊も相変わらずそうじゃのぉ」
「・・・フリーエ様も変わらずの御様子で安心致しました」
「ヒェッヒェッヒェッ。キルフォヴァではちーっくと肝を冷やしたがなぁ。それでこの子が?」
「はい。うちの成長株です。レネ」
「は、ははっ!レネオーラ・ウルマンです!フリーエ様の御高名は兼ねがね御伺い致しておりました!本日は御会い出来て誠に光栄であります!」
「ヒェッヒェッヒェッ。元気な子じゃぁ。流石若さの炎で燃え滾るフランベルジュ」
「世間の過分なる評価に恥じ入るばかりです!」
「謙虚じゃのぉ。よかよか」
「こちらがフリーエの副官、ヴァルドゥレ卿」
「カラッハ・ヴァルドゥレです。お見知りおきを」
「近衛騎士、ブルーフ卿」
「レヴィアン・ブルーフです」
「ブルーフ・・・という事は?」
「はい。私、ラヴィアン・ブルーフの姉です」
「なるほど。そうでしたか姉妹で近衛騎士を。それは凄い」
「そしてバルドル・・・将軍かのぉ」
「はっ。本来は処刑されるべき身でありながら将軍の末席を汚す事を殿下の御情けにより賜りました。此度の戦で敵を道連れにしてでも撃退する覚悟で御座います」
「殿下が決めてここまで来たのなら最早何も言う事は無かろう」
「言う事はもう言われましたからな」
「どういう事かな、ラヴィアン卿」
「ここに来る前に嫌みを言われましたからね。冒険者に」
「「「・・・(あいつだな)」」」
「まっ、そういう事なら後は結果を出す事じゃ、バルドル将軍」
「はっ!」
「目下南下する敵は7000程になるでしょう。対するこちらは4700。ソルトレイク王国から500が来てくれるそうですが不利なのは変わりません。皆で一致団結して当たらなければドゥムルガの街はおろか、ルンバキア公国深くまで侵攻を許す事になるやもしれません。そこで総指揮はフリーエに任せます」
「うーん。本来ならバルドル将軍なのじゃろうが・・・」
「はい。私では皆が納得しますまい。『旋斧』も亡き今、フリーエ様をおいて居りませぬ」
「途中合流した将軍達も宜しいですね」
『ははっ!』
「魔導師が将軍かぁ。時代かのぉ」
「諸国に名を知れたおばば様であれば誰も文句は言いませぬよ」
「はぁ。大規模軍勢を率いた事は無いんじゃが・・・泣き言を言うとる場合でもなさそうじゃしの」
「副官はカラッハ・ヴァルドゥレ卿。並びに各将軍達」
『ははっ』
「レヴィアン卿は引き続きフリーエを護衛してもらいます」
「畏まりました」
「それではこれより軍の再編、作戦を協議しましょう」
『御意』
「ふわぁ」
「起きた?」
「二度寝しまーす」
「戦争に来てんのよ!」
「いででで!起きる!起きまーす!」
「カラッハさんから急ぐ必要は無いって言われてるわ」
「といっても物資の調達は無理だろうけどねぇ」
「敵は総勢8000だ」
『8000!?』
「ベドルバクラ6000。バウガルディ王国500、神聖リィ=イン教国500。そしてティラミルティ帝国1000」
『ティラミルティ帝国!?』
「そうだ」
「・・・」
「・・・マヌイ」
「負けられないわね」
「そうですね」
「うん。しかし神聖リィ=イン教国が来るとは」
「知ってるの?」
「ヒト族至上主義の宗教国家だ」
「宗教国家って・・・エリス教ね」
「うん」
「セーラが獣人ってのもあるんだろう」
「でしょうね」
「ヒト以外は漏れなく奴隷にする狂った国だ」
「問題は他にもある」
「他にも?」
「バウガルディ王国には『新選組』が、ティラミルティ帝国には『7人の侍』という冒険者達が居た」
「新選、って・・・」
「7人のさむらい?さむらいって何?」
「サムライ、ヒト族黄色人種の中で特にカズヒコやミキと同じ様な民族の武闘派権力階級だな」
「知ってるのかケセラ」
「うん」
「うーん。やっぱり転生者の子孫?」
「まぁ騎士ってのもそうだろうしな」
「そうね。でも『7人の侍』は偶然にしてはピンポイント過ぎない?」
「そう思う。『新選組』もな。恐らく僕達と同期の転生者だろう」
「「「転生者!」」」
「見た目も20歳前後だった。先ず間違いないだろう」
「また『フォー・キングス』みたいに全員魔術士かなぁ」
「あぁ、そうだろうよ」
「人数でも不利だし、厳しい戦いになりそうね」
「飛行機はまぁ良いとして。馬車をもう少し改良するか」
「まだ改良の余地が?」
「街道用だったが草原用に作ってみようと思う」
「草原用ねぇ。そういえばサーヤが《馬術》を習得したわよ」
「何だと!」
「はい!」
「やっぱり天才だな」
「そんな・・・」
「じゃぁ、もしもの場合。2人は飛行機で逃げるとして、3人は改良馬車でも逃げられるな」
「えぇ。でも飛行機に《馬術》乗るの?」
「そんな感じはしたぞ」
「凄いね!」
「魔法と一緒でイメージかしら?」
「まぁ可能性を狭めて考える事は無いって事は確かだろうね」
「じゃぁ今日は馬車の改良ね」
「後、地図も作ろうと思ってる」
「地図?」
「あぁ。《EOM》で作った砂の模型で型を取って立体地図を作ろうと思ってる」
「ドゥムルガ草原のだな」
「あぁ」
「正確な地図が有れば有利になるわね」
「だと思う」
「あ、それと。馬車の精算終わらせといたわよ。フリーエさんが払ってくれたわ」
「助かる。借金生活って嫌だからな」
「そういえばバイヨ達に会ったわよ」
「へぇ。元気だったかい」
「えぇ。もう街の外に出ちゃったけど」
「感謝してたよ」
「感謝?何で?」
「ティアの闇魔法がレベルアップして《バインド》で拘束できる数が5つになったんだって!」
「へー!そりゃ凄い!」
「魔虫やらキルフォヴァで経験値積められたからだって」
「彼女の努力の賜物だって言っといてくれ」
「そう言うと思って言っておいたわ」
その日はドゥムルガの街の街軍の兵舎で過ごした。
兵の数は少ない。
郊外に野営している本隊に合流しているからだ。
なので生産も気兼ねなく出来た。
出来た物をみんなにも披露していた。
「この馬車何が違うの?」
「石とかに乗り上げても上下振動を抑えるようにした。走行中でも弓を扱い易くなっただろう」
「あぁ。草原だから」
「あぁ。後はこの模型だ」
『リアル!』
「それにおっきいねぇ!」
「そうだろう。縮尺してるとはいえ、それなりになった。持ち運びやすい様に9分割出来るようにしてある」
「全体が馬車の荷車以上の広さですものね」
「そうなんだ。後は色を塗って完成だな。みんなで塗っていこう」
『わーい!』
「それではドゥムルガ草原で撃退するという事で宜しいな」
『異議無し』
「出発は何時に致しますか」
「斥候の情報ではまだグデッペン要塞を出てはいないようじゃ。出て来てからでえぇじゃろうのぉ」
「ソルトレイク王国からの援軍が明日にも着くそうです」
「では先ずは合流を待ちましょう」
「斥候と言えば、殿下。マコル達をグデッペン要塞に潜入させたそうじゃな」
『!?』
「え!?今何て言ったの!」
「うん?マコル達を、正確にはマコル1人がグデッペン要塞に潜入したと」
「要塞に潜入!?」
「え、えぇ。何じゃ知らなかったのかえ?」
「偵察に行くと言ってましたがまさか要塞の中に・・・」
「それじゃぁ今までの情報は要塞の中から?」
「・・・相変わらずだな」
「であれば敵の数も情報も正確と思って良いのではないでしょうか」
「そうなのだが、一体どうやって潜入したのだ」
「全くだ。南から来る道には厳しい監視が有るというのに」
「まぁ本人も、索敵・奇襲が得意と言っていましたし」
「そうだったわね。それでマコル達は?」
「街で休んでおります。今朝マコル君も無事帰って来たようで」
「そう。要塞に潜入したのなら疲れていたでしょうね。でも御蔭で情報が手に入って協議の時間が出来ました」
「ほんに、敵が近くに来てから敵の状態が判明しては余裕がありませんからのぉ」
「公都でも城に潜入して『猪』と『旋斧』将軍を討ったのもマコル達です」
「「「何と!?」」」
「私もやられました」
「バルドルもかや!」
「はい・・・」
「武闘派将軍が・・・」
「はぁー!どーしたらええぇんじゃー!」
「フ、フリーエ!?」
「フリーエ様はマコル達へのツケが溜まりに溜まっているのを心配しておられます」
「叙勲は断らたそうよ」
「ソルスキア王国でかや!?」
「えぇ、おばば様。縛られるのが嫌いみたいですな」
「マコル君達らしいですね」
「はぁー!」
「ま、まぁフリーエ様。それは戦が終わった後に悩めば宜しいではありませんか」
「そ、そうじゃのぅ。先ずは勝たねばな」




