⑬-36-406
⑬-36-406
翌朝。
13人ではなく14人で朝食を摂っていた。
「私も良かったのかしら」
「歓迎だよ、ダリア」
「なら良いけど」
「キルケさん、どうでした」
「えぇ。誠実そうで良く働いてくれそうです」
「だってさ」
「ご期待に沿える様頑張らせて頂きます、わ」ニコッ
「キルケさんは奥さんと子供も居るから変な気起こさない様に」
「ふふっ」
「ちょ、ちょっとマコルさん!」
「キルケさんも駄目ですよ。変な気起こしちゃ」
「起こしませんよ!」
「それで私は何をすれば良いの?」
「キルケさん達のサポートだ。当分ね」
「えぇ。これから大勢の面接を控えているので、そのサポートをお願いしますね」
「分かりました。でも人数に対して大き過ぎない?このお店」
「だから雇うんだよ」
「最初は少ない商いから始めるつもりです。徐々に大きくする予定だったのですがね」
「予定外に大きな商館が手に入ったもんでね」
「ふーん。でも助かったわ」
「ん?」
「給仕の給金だと苦しかったのよ」
「ウチは実力主義だ。人種は関係無い。結果を出せばそれに報いる方針だ。ね、キルケさん」
「はい。南部商人の心得ですよ」
「へー」
「あっ。僕達は自由にやってるから気にしないでね」
「へ、へー」
朝食後、各々仕事に移る。
僕等と冒険者は街外へ。
キルケさんら4人は解散した商会の元商員達の面接が今日から始まるのだった。
僕等とキルケさんらは午前中の仕事が一段落し、一緒に昼食を摂っていた。
面接の具合を聞いていると誰か尋ねて来たようだ。
応対に出ていたダリアが部屋に戻って来た。
「衛兵がマコルに言伝だって」
「うん?」
「参内されたし、だって」
「そうか。じゃぁちょっと行って来ますね」
「分かりました。お気を付けて」
「えぇ」
僕等は急いで準備を整え商館を出た。
「お城から呼ばれるってマコル達何をしてるんですか?」
「国の仕事を請け負っているらしいよ」
「へぇ。ホントだったんだ」
「ん?」
「あ、いや、こっちの話です。そんな風に見えないなって」
「はっはっは。見えないよねぇ。私もそう思うよ。でもね」
「え?」
「そういう人が1番怖いんだよ」
「マコル!挨拶も無く出て行くなんて無礼ですよ!」
セーラがお冠だった。
「実に気持ち良さそうに寝ておられたものですから」
「なっ!み、見てないでしょっ」
「ラーン様に伺いまして」
「ラーン!」
「勘弁してくれ、マコル!」
「商会を払い下げ頂いてようやく本来の仕事を始められるようになりました。殿下にはお礼の言葉も御座いません」
「またおべっかですか!」
「最近レベルが上がりまして」
「ふふふ」
「ニャー」
「「「「「えっ」」」」」
どこからかやって来た黒猫がソファーに座っていたセーラの膝に飛び乗った。
「「「「「ジョゼ!」」」」」
「ジョゼフィーナって言うのね。可愛いわ」
「ナー」
「キルフォヴァのフリーエが送ってくれたの」
「そうですか」
「フリーエがマコル達に礼を言っていたわ」
「あのお婆さんには一杯食わされましたからね」
「ふふふ。怒らないで。そのお陰で今の私があるんだから」
「ナー」
セーラがジョゼを撫でている。
「今日呼んだのはそれもあるが退役軍人の件だ」
「ほほぉ」
「《伝書鳩》や《馬術》、他に希望したスキルを持つ者をリストアップした。どうする、望むならキルカ商会に面接に行かせるが」
「はい。それでお願いします」
「分かった。そう取り計らおう」
「ありがとうございます」
「うむ。それとだ」
「?」
「入れ!」
ドアを開けて少年少女が入って来た。
「殿下の新たな侍従兼近衛騎士見習いだ」
「こんなちっこいのが!?」
「「ちっこい言うな!」」
ゲスッ
「いった!?中々のローキック!」
「ナー」
「はっはっは。2人共自己紹介を」
「ふん!スクルド!13歳だ!」
「ヒルダ12歳ですー!」
「こりゃまた元気の良いお子様達だ。ラーンさんのお子さん達で?」
「「お子様言うな!」」
「結婚もしとらんわ!」
ゲスッガスッ
「いったぁ!ダブル、いやトリプルローキック!?」
「今回の騒動で功が有った貴族の子弟から殿下の近習に就かせる事になってな」
「ほぉ。中々のものをお持ちで。殿下もご安心なされますでしょう」
「ふふふ」
「ブルーフ様!全然強そうに見えませんが、本当に強いのですか?コイツ!」
「そうですー。今の蹴りも避けられませんしー」
「ラーン様。秘密は・・・」
「私ではない。城での戦いはやはり大勢が居たからな。全ては」
「・・・ですか」
「うむ」
「おじさんは強くないんだよー。この女の人達が強いんだー」
「ふん!やっぱりな!」
「ですよねー」
「ですですー」
「真似しないで下さーい!」
ガスッ
「あつっ!良いローキック!」
「これから殿下の近習として顔を合わせる機会も多かろう。以後、見知りおくように」
「「「「「はい」」」」」
「ふん!いずれ背丈もお前を抜いてやる!剣はもう勝ってるしな!」
「殿下はー、私が護るのでー、お前は必要無いのですわー」
「どーゆー教育を受けてるんですか!」
「はっはっは。将来有望だろう」
「マコル」
「はい」
「あなたの宗教は?」
「精霊信仰です」
「そう・・・」
「あのエリス教のピエロですか」
「うむ。扱いに苦慮していてな」
「蜂起自体は知らなかったようですしね。しかしかと言って自分の教会で蜂起の相談をされていた訳ですし。諜報員と繋がっていたと見られても仕方ないですよね」
「うむ。蜂起の工作員もベドルバクラから来たそうだ。教会を捜索したが繋がっていた証拠は見つかっていない。かと言って無実という訳にもいかない。祝辞の席を穢した訳だからな」
「しかし多様性を認める以上エリス教自体を罰する訳にはいかない」
「えぇ・・・」
「恩赦という事で放ったらどうですかね」
「恩赦?」
「罪は問わないのか」
「公都を火の海にしようとしたベドルバクラの工作員の会合の場所を提供したから、以降重要な式典や行事にエリス教は呼ばない。そう御触れを出すとか」
「ふむ」
「大公就任の恩赦でエリス教と教会長自身に罰は与えないとも」
「ふむ」
「殿下の寛大さを民衆に知らしめると共にあのピエロの居心地を悪くさせる。エリス教への扱いが悪くなったのはあの教会長のせいだと教徒は思うでしょう。いずれ失脚するでしょうから次の教会長の人となりを見て行事への復帰も検討する、とか」
「なるほどな。検討の余地は有ります」
「そうですね」
「話は変わりますがマコル。北部国境街に少しずつ兵を送り出しています」
「公都の防衛は大丈夫ですか?」
「ソルスキア王国にも事情を連絡し更なる援軍を乞う予定です」
「それが良いでしょうね」
「両隣のベルバキア公国とソルトレイク王国にも援軍を要請した」
「3カ国に援軍を?それだけの規模になると?」
「うむ。それに弟妹殿下達を幽閉している。担ぎ出す輩も出るかもしれん」
「集中出来ないのは厄介ですね」
「そうなのだ。それも有っての3カ国への援軍要請なのだ」
「ベルバキアとソルスキアの馴染みの商会に食料武器弾薬の輸送を伝えています」
「うむ。聞いている」
「礼を言いますわ、マコル」
「タダじゃないですよ」
「ふふふ。分かっています」
「僕等が参戦している間もキルカ商会が物資の調達をしてくれるでしょう」
「うむ。公都の商会を幾つか潰したからな。経済力が落ちている。その辺も頼む」
「畏まりました。前以上に復興させて見せますよ」
「ふふふ。頼もしいわ」
「フリーエさんはどんな調子ですか」
「ベドルバクラを注視して貰っています。何か動きが有れば知らせてくれるでしょう」
「ナー」
「そういえばジョゼはフリーエさんに可愛がってもらってたのか?」
「ナァ」
「そうか」
「ふふふ」
「殿下の事も好きになったみたいだな」
「ナー」スリスリ
「良かったわ」
良い笑顔。
「よろしければジョゼに入城許可をいただけませんか?」
「入城許可?」
「ジョゼが殿下の下に来れるように」
「あら。良いのかしら」
「殿下さえ良ければ。な?」
「ナー」
「うふふ。良いわ。いつでもいらっしゃい、ジョゼ」
「ナオ」




