⑬-35-405
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『でっか!』
大手の商会とは聞いていたが正直ここまでとは思ってなかった。
ビグレット商会よりも大きい。
「やってくれたな・・・」
「何が?」
「大き過ぎる」
「良いじゃない!おっきくて!」
「達成感が有りますね!」
「一国一城って感じがするな!」
「それがあいつ等の思惑だよ」
『思惑?』
「僕達をルンバキアに縛るつもりだ。こんなに大きいと暫くつきっきりになってしまうだろう」
「行商は無理って事?」
「あぁ。分割払いもそのつもりだったんだろう。しかし負けんぞ!」
「何に対してだろ」
「さぁ」
「まぁ入ろうではないか」
「そうね」
「負けんぞー」
「行くわよ」
入り口に居た衛兵に証明書を見せ引換書を渡し城に帰って行くのを見て中に入る。
中は広かった。
それは誰も居ないのがそう感じさせていたのもある。
確かに安そうな物は接収されずにそのまま置かれていた。
みんなで一通り見て回る。
これまで家なんて手に入れた事の無い僕達もはしゃぎながら見て回った。
大体見て回り少し落ち着いたのでテーブルに着いて協議を始める。
「キルケさん、どうですか」
「えぇ。直ぐにでも始められます。人が居れば」
「大臣に言って解雇になった商員を雇う手筈になってます」
「面接で忙しくなりますね」
「とりあえず全員宿を引き払ってここに住み込みましょう」
「そうですね。では伝書鳩の飼育小屋も作りますか」
「えぇ。そうしましょう。マリア君が《木工》スキルを習得しているので僕等で作ってみますよ」
「ほぉ!」
「城の飼育小屋をちょっと覗かせてもらったのでね」
「そうでしたか」
「それから冒険者諸君らも、これからは礼儀作法を習ってもらいますよ」
「「「「「えっ」」」」」
「国との取引が有るかもしれないんでね」
「くっ、国との!?」
「何せ大物商会だから。なーっはっはっは!」
「まだお店開いてもいないのに」
「そうだ。庭に離れが有りますよね」
「えぇ」
「あそこに僕達は住もうかと」
「えっ。本館には住まないので?」
「行商で空ける事が多いですから離れで十分ですよ。有意義に使って下さい」
「分かりました、そうさせて頂きます」
「じゃぁ僕等はこれから離れの掃除をして、午後は魔物を殺すか」
「そうね。じゃぁ鳩小屋は明日から作るのね」
「では我々は宿を引き払って馬車もここに移しますよ」
「そうだ。キルケさん。1人面接して欲しい人が居るんですけど」
「いいですよ。連れて来て下さい」
「分かりました」
解散した後は各々散って行った。
僕達は離れの掃除をし、キルケさんは諸々の手続きを、冒険者達は宿を引き払った後街外へ魔物狩りに。
思っていたよりも早く、そして大きな規模で公都オラキアでの拠点は回り始めた。
僕等は離れを掃除していた。
「離れにお風呂が有るなんてね」
「贅沢だねー」
「生産スキル部屋も有りますし」
「庭も壁で囲まれてるしな」
「そういえば面接して欲しい人って誰?」
「言ってたねぇ」
「あぁ、ダリアだよ」
「諜報員の彼女の?」
「あぁ」
「どうして?」
「付き合った諜報員も真人間になるって、誠実なんじゃないかなってね」
「「「「うーん」」」」
「悪い人間同士惹かれあったって線も有るわよ」
「そんなに悪そうな人じゃなかったよ」
「そうねぇ」
「まぁ私は会った事が無いから判断出来ないがキルケさんが面接して雇えばそれで良いのではないか?」
「「「「おっとなー!」」」」
掃除後に昼食を摂り、午後は魔物狩りと食料調達。
夕方に街に帰って来てダリアを訪問する。
「やぁ」
「どうしたの」
「話があってね」
「・・・どうぞ」
部屋に通された。
「5人。パーティ?」
「あぁ。行商人なんだ」
「ふっ」
「ん?」
「行商人が諜報員を生け捕りにする?」
「副業で冒険者もやってる」
「どっちが副業だか」
「本当は吟遊詩人なんだけどね」
「ぷっ」
「楽器も作ってるんだぜ」
「ホントに?」
「なぁ」
「笛と」
「リュートと」
「オルゴールも作りましたね」
「おるごーる?」
「今度見せよう」
「それで。今日は何?」
「これからどうするんだい?」
「んー。変わらずかな」
「ん?」
「朝起きて働いて夜帰ってきて寝る。彼が居ないだけ」
「・・・面接を受けてみないか」
「・・・面接?何の?」
「僕が商品を卸してる商会が新しくオラキアに店を出すんだ。商員を募集してる」
「その面接?」
「あぁ」
「何で?」
「新しい生活送るはずだったんだろ。そうしてみたら?」
「・・・」
俺は席を立った。
「今の仕事を休んで来る必要は無いよ。朝仕事に行く前、夕方仕事終わった後。何時でも来てくれ、まだ店は開いてないから大丈夫だ」
「・・・」
「店の名前はキルカ商会。場所は~~~だ。マコルの紹介って言えば良い。じゃぁ待ってるよ」
ダリアは席を立たなかった。
離れ家に帰る。
「来るかしら」
「さぁね」
「声掛ける必要は有ったの?」
「諜報員に大事な人を殺された、からかな」
「「「「・・・」」」」
翌朝も午前中は街外へ。
午後は鳩小屋の製作に充てた。
本館のバルコニーの一角に作った。
午後の時間と《木工》スキルのお陰で1日で作業は終わった。
「冬は寒そうだから何か防寒具を用意しよう」
「そうね」
「あれ?」
「・・・」
「来たみたいね」
「あぁ」
「来ると思ってたの?」
「分からないな。彼女次第さ」
「そう」
ダリアは明後日から働く事になった。




