⑬-33-403
⑬-33-403
翌朝。
セーラはまだ眠っているようだ。
無理もないだろう。
しかし依頼は即位式までだった。
つまり昨日で終了だ。
ラーンと契約終了の確認だ。
「世話になった。そしてまた世話になる」
「今までと違って戦争なら僕達の出番はありませんよ」
「ふふふ。謙遜だな。聞けばバルドル将軍を負かしたそうじゃないか」
「不意打ちでね」
「勝ちは勝ちだ」
「あっ、そういえば」
「どうした」
「猪みたいな奴と旋斧将軍って奴も袋に入ってるんですけど」
「ぶっ!さ、3将軍と戦ったのか!?」
「秘密ですよ」
「はぁー」
「それで遺体はどうしましょう」
「預かろう。報酬の査定も有るし」
「払われるのかなー」
「戦争後を楽しみにしていろ」
「いつになる事やら。あっ、斧と槍は頂いても良いですかね?」
「他の装備は良いのか?防具とか」
「えぇ。騎士装備を着る人間はうちには居ませんから」
「売る事も出来ただろう」
「必要でしょう?これから」
「そう言ってくれるのは助かるが」
「武器も本当は必要無いんですが、何か使い易いんですよねぇ」
「うむ。ミスリルが使われているからだろう」
「「ミスリル!?」」
「うむ。魔力伝導率が高いと評判の金属だ。武器にも使われる。勿論防具にも」
「魔力伝導率。高いとどうなるんです?」
「うむ。例えばミスリル含有の剣を持っていたとして、《身体強化》を発動させると剣にもある程度《身体強化》が乗るのだ」
『な、何だってー!』
「じゃ、じゃぁ剣が強化されるんですか!?」
「そういう事だ。ただし含有率100%でも《身体強化》本来の20%くらいしか乗らないらしい」
「だいたい5分の1か。それでも凄いな」
「だから高い。というよりも中々手に入らない」
「でしょうねぇ」
「ここらでは採れんな。隣のソルトレイク王国か西のベオグランデ公国あたりか」
「ベオグランデ公国は鉱山とか有りそうなんで分かるんですが、ソルトレイク王国も?」
「うむ、何故かな。採れるらしい。海亀で塩も取れるから国の規模は小さいが経済的にそれを遥かに凌駕する」
「なるほど。是非行って見たいですね」
「ふふふ。行商人としては行く価値は大いにあろう」
「ルンバキア復興の為にも戦争後にでも行って来ますよ」
「はっはっは。頼むぞ」
「そうそう。護衛依頼時に馬車を預けたままなんで返して頂こうかと」
「そうだったな。あの屋敷は私の、ブルーフ家の屋敷なのだ」
「そうだったんですね」
「うむ。話は通しておこう。昼以降にでも取りに行ってくれ」
「ありがとうございます」
「それとこの許可証を渡しておく」
「許可証?」
「城へのパスだ。これで城へはある程度自由に出入り出来る。今後の協議の為に何かと参内が必要になろうとのバグレスク大臣の仰せだ」
「分かりました。お預かりします」
「反乱に与した商会はこの数日の内に処分するらしい。追って知らせる故に。退役軍人リストも同様だそうだ」
「分かりました」
「それでは其方達も準備を急いでくれ」
「畏まりました」
キルケさん達がいる宿に向かった。
8人全員揃っている。
「おぉ!マコルさん達も御無事で何よりです!」
「キルケさん達も無事で良かった」
「私等商員は足手纏いだったんですが護衛が5人も居てそれが輜重隊には助かったらしく、世話して頂きました」
「それは良かった」
「護衛依頼は終了で?」
「そうなんですがね。近々また依頼されるみたいなんで公都オラキアを離れられないんですよ」
「ほほぉ。商売繁盛で何よりですね」
「報酬が入らないんですがね」
「はっはっは」
「それで商会設立の件ですが」
「えぇ。今物件を探していますよ」
「これは秘密なんですが」
「畏まりました」
「反乱に与した商会を潰してその商会を払い下げてもらえる事になりました」
「「「「「「「「えっ!?」」」」」」」」
「とととという事は、ある程度大きな商会なのでは?」
「その通りです。立地も規模も良い所をって頼んでるので期待して・・・良いよな?」
「多分ね。報酬1エナも貰ってないしね。向こうには潰した商会の財産を接収した残りを私達に払い下げるだけで損はないでしょうから」
「なるほど。因みに商員はどうなるのでしょう」
「潰された商会の?うーん、どうだろ」
「出来るならば面接して雇いたいと思いますが」
「なるほど。直ぐ商売が出来ますね」
「はい」
「幹部は無理でしょうね」
「反乱に参加した事情を知ってる者達は此方としても雇いたくはありませんな」
「ですよね」
「それでは物件探しは止めるとして、商会の設立ですか」
「えぇ。先ずはキルケさんの商会を設立してもらってその後で僕等が登録しようかと」
「最初にラグリ商会を登録した方が良いのでは?親商会でしょう?」
「とある事情でまだ登録出来ないんですよ。後からでも傘下にはなれますよね」
「えぇ。権利関係は大丈夫ですが、しかし親商会がラグリ商会ならラグリ商会のオラキアでの登録は必須です。登録が無ければ権利は認められませんね」
「分かりました。後から必ず登録します」
「御願いします」
「それでこれからなんですが」
「はい」
「これも秘密ですが」
「畏まりました。あなた達もその様に」
「「「「「「「はい」」」」」」」
「これから戦争が起こります」
「「「「「「「「えぇー!?」」」」」」」」
「せせせ戦争!?」
「えぇ。ハッキリとした事はまだ分からないんですがね。反乱軍の件も有りますし」
「な、なるほど。オラキア内だけじゃなく外にも協力者は居たでしょうしね」
「それで、商売のチャンスです」
「!?」
「物資を集めると」
「その通りです」
「しかし伝手が有りません」
「伝書鳩の使用許可を得ました。魔術師ギルドや冒険者ギルドの伝書鳩を使えます」
「おぉ!それは素晴らしい!」
「早速タリルコルさんやベルバキア公都ムルキアのウリク商会オランドさんに飛ばして物資を送ってもらおうかと思っています」
「良いですね!彼方から物資が来る頃には商会も手に入っている予定ですか」
「はい」
「素晴らしい!」
「それで差し当たって暗号ですね」
「なるほど。今後に必要ですね。しかし今回は間に合わないのでは」
「そうなんですよ。なので今回は直接書くって事で」
「分かりました。では私が必要な物を挙げれば良いのですね」
「はい。僕等は素人なんでお任せします。暗号製作はお任せしたいんですよ、これから戦争の準備に入るので」
「畏まりました」
「公都の様子はどうですか」
「反乱の割には、って所でしょうか」
「割と落ち着いている」
「えぇ。戦闘が城だけで行われたので市街に被害が殆ど無かったのも大きいでしょう」
「商売上、問題は無さそうですか」
「恐らく大丈夫でしょう。反乱に与した商会が潰れれば物流に混乱が起きるでしょうが、逆に中小の商会にとってはチャンスなので問題無いでしょう」
「僕等にとっても」
「そういう事です」
「魔物なんかは大丈夫ですか」
「護衛リーダーに話して貰いましょう」
「報告します。冒険者ギルドに登録して情報を収集したんですが、ここ最近冒険者の減少が有ったらしいです」
「ほぉ」
「それに春になって魔物も増えて公都周辺の魔物の数が増えていると」
「冒険者の減少。恐らく殿下襲撃の為でしょうね」
「えっ!しかし自国の姫様を!?」
「冒険者なんてゴロツキですよ」
「へっへっへ、違ぇねぇ」
「ゴロツキの中にも筋を通すか通さないか。通さない奴等が襲撃に加わったんでしょう」
「・・・なるほど。反乱に加わった商人も同じって事ですか」
「職業は関係ないみたいですね」
「全くです」
「僕達は対北部で協力、その為にルンバキアを援助。この目的の為の通商同盟で一致してます。冒険者は魔物を倒し、商人は物資の調達を、農民は畑を、職人は物を作る事。それぞれがそれぞれの職業で頑張ればそれが南部を援助する事に繋がる。1つの大きな筋を通せばみんなが幸せになる。その仕組みを作るんです」
「えぇ。頑張りましょう」
「俺達も頑張りますぜ!」
「えぇ。それで話は戻りますが公都の周辺の魔物が増加してると」
「えぇ、勿論スタンピードなんかが起こる程じゃないですがね」
「食える魔物を狩っておくか」
「戦争準備ですか」
「えぇ。護衛のみんなも、しばらく商会は作れないから冒険者ギルドランク上げる為にも魔物を狩ってみたらどうでしょう」
「分かりました。しばらく狩っておきますよ」
「食えそうな魔物は持って帰ってください。備蓄しますから」
「分かりました」
「それで預けていた改造馬車が昼に返って来るんです」
「ほぉ。というとあの速くて乗り心地の良い?」
「そうです。これで合計3台になります」
「3台も」
「1台は戦争で僕等が使うとして、当面2台はキルケさんに預けます。活用してください」
「良いんですか!」
「えぇ。速いので運搬時間短縮出来て儲け易いでしょう」
「それにあの乗り心地ですよ!」
「そうです!冒険者稼業もそこそこ経ってますがあんな乗り心地の良い馬車は初めてですよ!」
「そうでしょうとも!そうでしょうとも!」
「では我々は商会の設立を済ませておきましょう。店舗の登記は後日で良いとして」
「お願いします」
「名前はどうします?」
「キルケさんが決めてください」
「良いんですか!?」
「えぇ。お好きな様に」
「ありがとうございます」




