⑬-32-402
⑬-32-402
「はぁー!大変な事になった」
「うーん、戦争か」
「戦争ねぇ」
「でもキルフォヴァで経験しましたわ」
「そうだがあの様子だともっと大規模な物かも知れんぞ」
「「「「えぇー」」」」
「今回はキルフォヴァみたいに有利って訳じゃなさそうだしな」
「カズヒコ」
「ん?」
「もし参加したとして、最終的にはどうするの?」
「最終的って、不利な場面でって事か?」
「えぇ」
「勿論逃げる。命を捨てて敵を殺すって、俺たちゃぁ兵士じゃねーっての」
「敵前逃亡?」
「負ける時はな。当然だろ」
「そうだね。私達の仕事は通商同盟だもんねぇ」
「そうですね。でも・・・」
「フリーエさんか」
「・・・はい」
「良いんだ。サーヤ君の意見が聞きたい」
「カズヒコさんなら何とかしてくれると信じています」
「荷が重いよ。戦争だぞ。個人で何とかなるものじゃない」
「キルフォヴァでも何とかしてくれたが」
「俺達に有利だったろ。それに規模も東門限定、逃げ道も考えてあったしな」
「でも今までの報酬取りっぱぐれるわよ」
「損切は必要だ。失敗は人の本質だ。金稼ぐ為に働いてるが金の為に命は捨てたくねーだろ。失敗を受け入れるのも人生だぞ」
「でも戦争に負けたらあんな奴等が街を支配するんだよ」
「子供も殺され、孤児が沢山出ますわ」
「首を吊った老人のような者も沢山生まれるかもしれん」
「俺達が死んじゃぁ意味ねーだろ」
「そこはリーダーの腕次第よ」
「はぁー。好きな事言ってくれちゃって、まぁ」
「いざとなったら《雷撃》連発で逃げましょ」
「うーん。俺の命令は聞けよ。俺を置いて逃げろと言ったら逃げろ、いいな」
「「「「うん」」」」
「交渉は任せてもらう、いいな」
「「「「うん」」」」
「くそっ!とんだリバースデイプレゼントだ」
俺はバグレスク大臣の下に戻る。
「条件があります」
「うむ」
「条件!?冒険者が条件だと!?」
「煩い!黙っておれ!それで?」
「あぁいう人間の下では僕達の力は発揮出来ません。参加するならある程度自由にさせてくれる人の下に」
「なっ!き、貴様!」
「良かろう!お前達の戦力を十分発揮出来るよう最大限考慮しよう」
「僕達は死ぬ気は有りません。もし負けそうなら逃げます」
「むぅ・・・そ、それは」
「臆病者が!」
「良いでしょう」
「殿下!?」
「マコル達は私とラーンを守って常に自分達より強い者達と戦って来ました。逃げようと思えばいつでも逃げ出せたのにです。つまりマコルは勝てると思って戦っていた。そうですよね」
「負ける気なら最初から戦いませんね。逃げますよ」
「でしょう、それがマコルです。もし戦争でマコルが逃げた所為で負けるくらいなら我々の力はその程度という事です」
「うーむ。とても兵には聞かせられませぬが。殿下が仰っておる。良かろう」
「報酬を一部頂きたい」
「成る程。聞けば全く払っていないらしいな」
「そーなんですよー!キルフォヴァ以来全くですよぉ!」
「う、うむ!してその報酬とは?」
「僕等はオラキアに店舗を持ちに来ました」
「そ、そうでしたわね」
「その店舗を買う為の紹介状を頂きたい」
「紹介状?」
「えぇ。今回反乱に参加したのは貴族だけじゃないでしょう」
「うん?」
「恐らく金銭面で商人も参加しているはずです」
「そうか成る程!」
「そいつらが捕まったら商会は?」
「解散だな」
「その店舗を、ということですか」
「はい」
「大臣」
「可能です。しかし紹介状で良いのか?丸々渡す事も出来るが」
「それでは僕等が恨みを買います。正式な手順に則って乗っ取ります」
『・・・』
「ま、まぁ良いでしょう。他には」
「退役した軍人で僕達の欲しいスキル持ちを商員や職人、護衛として雇いたいと思っています。そのスキル持ちのリスト等はありますか」
「退役した者で良いのか」
「現役を引き抜くのは国を弱体化させるでしょう」
「ふむ。殿下、構わないと思います」
「そうですか。他には」
「戦争に参加する事になったと連絡を入れたい人達が居ます。伝書鳩の使用許可を」
「良いでしょう。他には」
「以上で御座います」
「・・・・・・それだけですか?」
「はい」
「金銭的に殆ど払う事が無いのですが」
「お金無いでしょう」
「むむっ」
「貴様!無礼だぞ!」
「強いて言うならば店を持った時に贔屓にして頂けると嬉しいですね」
「ふふふ。分かりました、良いでしょう。大臣」
「ははっ!では以上の条件で戦争への参加依頼とする!良いな」
「承りました」
「宜しく御願いしますね」
「はぁー当分タダ働きだなこりゃ」
しばらくして蜂起の結果報告が入って来た。
全ての箇所で鎮圧し全員捕縛出来たらしい。
情報通りだったとの事だ。
まだ残務処理が行われていたがセーラはうつらうつらと舟を漕いでいる。
無理もないだろう。
まだ15歳だ。
即位の儀の後に各宗派の祝辞、そこであんな目に遭って蜂起の対処。
そこに戦争の準備も加わり真夜中過ぎても終わりが来ない。
公都オラキアからソルスキア王国までの逃避行で幼い頃からの侍女を失い、街主に裏切られ・・・
そうだ、あの街主に目にもの見せんとな。
とまれ、ここ数カ月は緊張続きで碌に休む間も無かっただろう。
青春のせの字も知らん娘に酷な人生だ。全くあの連中は許せんな。
北部め。
うちの娘達も護らなければ。
そう思って彼女達を見る。
寝とる!?
お前ら寝とるな!?
マヌイなんか鼻提灯まで作って!?水魔法か?
みんなセーラと同じ状態!
他の3人は仕方ないとしても菊池君!
君は寝てはいかんだろ!
そい!
肘を入れる。
「ふがっ。な、何?」
「ちょっと大臣と話してくる」
「わ、分かったわ」
バグレスク大臣の下に向かう。
「大臣」
「どうした」
「殿下はそろそろお休みになられては」
大臣がセーラを振り返る。
「おぉ。そうだな。連日御疲れであったから」
「まだ15歳なのに」
「うむ。責任感が強い御方なのだ。それ故フリーエ様も推されたのだ」
「なるほどねぇ」
「マコルよ。頼む。セルラムディ殿下、いや。ヴォーレ8世殿下を頼んだぞ」
「依頼ですからね。キッチリこなしますよ」
「ふっふっふ。それで構わん。では殿下を寝室に」
「えっ。僕が!?」
「うむ。随分と信頼されているようなのでな」
「はぁ、まぁ、分かりましたよ」
セーラの寝室までお姫様抱っこで運んだ。
先導する近衛騎士が苦々しそうだ。
後ろからゾンビのようにフラフラしながら尾いて来る4人の女達。
セーラを見る。
軽い体に大きな責任、重い重圧。
お気楽な俺には想像も出来ないプレッシャーだろう。
また今度、何か作ってやろう。
ベッドに寝かせながらそう思うのだった。




