⑬-25-395
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『公弟を捕らえた!?』
「グァ!」
陣所でレイヴから手紙を受け取ったセーラ達が叫んだ。
「反乱は終わったという事でしょうか!?」
「そうなるな!」
「・・・兵達に触れ回らせましょう!」
「うむ!最早勝敗は決した!潔く投降するようにな!」
「・・・は!」
「セルラムディ殿下!」
「マコルが・・・」
「あいつがやりましたよ!」
「・・・・・・マコル」
セーラは王城を見上げていた。
その後しばらく局所的な反抗は有ったが大した被害も無く戦闘は終結した。
元々弟妹の私兵と将軍麾下の兵達とで急襲して王城、並びに家宝の奪取をして速やかに実権を握る算段だったらしいが、思いもよらぬ大臣の抵抗、そしてソルスキア軍の行動の速さで狙いは潰えた。
そしてその後、公都の弟妹並びにその親族の屋敷を急襲して弟妹派を捕縛した。
そういった報告を今、部屋で聞いていた。
セーラの護衛の為に隅に控えながら。
今部屋に居るのはソルスキア関係者は勿論、最後の部屋に居たバグレスク大臣とその一党。
バグレスクは事情をセーラに話し、跪いてこれまでの事を詫びた。
セーラはそれを聞いてバグレスク大臣を赦し、これから国の再建を共に頑張る事で一致した。
「本来なら引退すべき所ではありますが、それはセルラムディ殿下の統治が一段落した後に致したく。それまでは民に犠牲を強いた分、民の為に働きたいと思います」
「よく言ってくれました。あなたの行動は私が不甲斐ない為に已むに已まれず起こしたもの。これからは私を助けこの国の為にその職務を果たして下さい」
「ははぁ。仰せのままに」
「殿下。それではこれからの事を考えましょう」
「ファーダネ将軍。宜しく御願いします」
「はい。公都の反乱首謀者及びその関係者は捕らえる事が出来ました。しかし尚潜伏、もしくは公都外に居る関係者の捕縛がありますが喫緊として先ずは殿下の大公即位をしなければなりません」
「はい。バグレスク」
「はい。然様、ファーダネ様の仰る通り、先ずは殿下が正統なる大公継承者であると国内外に示さねばなりません。その後、今回の反乱の処罰を大公の名の下、行うのが宜しかろうと存じます」
「先ずはリーダーを決めるのが重要だという事ですね」
「はい。国のトップが居ないというのが民心の不安定化、行政の遅延、責任の不在化を招いており、急ぎこれらを解決する事が先決です」
「宜しい。では即位について話し合いましょう」
会議の結果、即位は3日後と決まった。
本来なら何カ月も前から準備をするらしいが反乱も起きて混乱が大きい為、直ぐにした方が良いという事で決まった。
そして継承という問題に行き当たる。
「家宝が無い!?」
セーラが思わず叫んだ。
バグレスクが答える。
「はい。家宝保管係も一緒に行動していたのですが途中ではぐれてしまい・・・彼は弟妹派に渡さぬよう自分で持っていました。しかし・・・」
大臣と一緒に居た近衛騎士が続ける。
「彼の遺体が城中で発見されました。しかし家宝は遺体の付近には無かったとの事です」
「奪われたのでしょうか」
「いえ。捕虜からはそういった事は聞こえて来ません。恐らく保管係が何処かに隠したのではないかと思われます」
『ふーむ』
「仮に奪われたとして使われる可能性は?」
「それはありません。あれは魔導保管庫に入れられております故、鍵が無いと開かないのです」
「鍵」
「はい。先程マコルに託しました」
『マコルに』
視線が痛い。
「あぁ、あれね。お返ししますよ」
大臣から預かっていた小箱を渡す。
大臣はそれを恭しくセーラに渡した。
パカッ
「なるほど、鍵ですね」
「はい。その鍵で開けるのですが・・・」
「肝心の魔導保管庫が無い」
「はい・・・」
『うーん』
「遺体は城内にあった訳ですから城の外には出ていないでしょう」
「・・・それは分かりませんな。手引きをして城外に逃がした、という事も考えられます」
『うーん』
「エチ、マコル!何とかならんか!」
レネが無茶振りだ。
「うーん。どんな物なんです?」
「大きな物ではない。抱えられる程の物だ」
「ふーん。抱えられ・・・る・・・ほど」
「「「「!?」」」」
僕達は目を見合わせる。
「マーラ君?」
「は、はい!」
サーヤ君が収納袋から一抱えの箱を取り出した。
「おぉ!それだ!それが魔導保管庫!家宝が入った魔導保管庫だ!」
『おぉ!』
「開けて見ましょう!」
「そ、そうですな!セルラムディ殿下!早速確かめましょう!」
「はい!」
セーラは鍵を使って保管庫を開けて中身をみんなに見せた。
「おぉ!確かに継承の聖遺物!間違いありません!これで即位出来ます!」
『やった!』
みんな笑顔だ。
しかしその喜びも一段落した後に余計な声が掛かる。
近衛騎士だ。
「しかし何故お前が持っていたのだ!」
『そういえば』
「僕達が城中の情報収集をしていた所、妙な気配に遭いまして」
「妙な気配?」
「はい。その部屋を調べようとドアを開けたらなんとゴーストが・・・」
『ゴースト!?』
「えぇ。そのゴーストが棚を指しながら消えていったんです。で、その棚を調べるとその箱が有ったという事です」
「そんな事を信じるとでも思っているのか!大方ドサクサに紛れて盗んだに違いない!」
「お前は馬鹿だな」
「何だと!」
「盗むんなら鍵が掛かってない物を盗むわ。何で鍵も持ってない物盗むんだよ」
「ぐっ!ほとぼりが冷めた所で鍵を壊して開けるつもりだったのだろう!」
「やっぱり馬鹿だな」
「何だと!」
「だったら今渡さないだろう」
「ぐっ!」
「お前が言うように、ほとぼりが冷めるまで黙ってるだろうよ」
「ぬぬぬ!」
「確かにマコルの言う通りです」
「殿下!?」
「それにゴーストの話、あながち嘘とも言い切れません」
「どういう事です?」
「王城の8不思議というのを卿は御存じでしょうか?」
「あー、なるほど。ソルスキアにも似た話は在りますよ」
「ふふふ、どこも一緒なのですね。ここでは、昔苛められて自殺した侍従のゴーストがトイレに出るとか」
『うわー』
「絵画の騎士が夜中に首が無くなるとか」
『えー』
「嫌いな食材を入れた所為で処刑された料理人が夜の厨房で自分の腕を包丁で微塵切りしていたとか」
『お、おぅ・・・』
「そして80年程前に御家騒動で保管庫を渡さずに殺された保管係が、奪われた箱の代わりに自分の首を持って城中を彷徨っているとか」
『ぶっ!』
「セ、セーラ様、似たような事が起こってるんですね、実話ですか」
「えぇ、残念ながら」
「ピンポイント過ぎる」
「今回の保管係も殺されたって言うけど、じゃぁあのゴーストって・・・」
「そんな馬鹿な。だったら今頃この城の中はゴーストだらけだぞ」
今は夜中、遺体の搬出も行われている最中だ。
何人か背筋に寒気が走ったのだろうか、ぶるっとした。
かく言う俺も。
・・・というか僕のパーティ全員そうだった。
実際見たからな。
「ま、まぁ継承は出来るんですから良いじゃないですか!」
「そ、そうだな!」
「えぇ!何も問題ありませんわ。ほほほ」
『はっはっは』
それから解散となって長い一日は終わったのだった。




