②-22-39
②-22-39
「リオンヌ商会の主、ミシェル・リオンヌと申します。どうぞお掛け下さい」
ミシェルと名乗った男の後に続いて入ってきた男、これまた50代くらいだろうか、がお茶を淹れてくる。
「カズーです」
「ミキティです」
「本日はヴィヴィエントまでの護衛依頼の件でいらしたとか」
「はい。これが依頼票です」
「確かに。失礼ですがお2人のお年は?」
「2人共20歳です」
「なるほど。冒険者カードを拝見出来ますか?」
「?はい、分かりました」
「お2人共Dランクですか・・・」
そう言ってミシェル・リオンヌはカードに魔力を注ぐ。
名前やギルドランクやカード裏の依頼達成欄に記載されているこの世界の画線文字が淡い色を持って光りだす。
なるほど!そんな機能知らなかった!
偽造出来ないってのはこの事なんだな。
それで個人情報をわざわざ照会しなくてもいいのか。
「確かにDランクですね。しかし依頼は採集のみですか・・・」
「採集だけだと受注は無理ですか?」
「いえ、そんなことはありません。失礼ですがスキルを教えて頂くことは・・・」
「残念ですが」
「そうですか。武器は見たところ、ショートソードとそちらはクロスボウで?」
「はい、そうです」
「他の依頼、特に護衛の経験が無いですし採集も比較的入手し易い物ばかりで・・・残念ですが」
「そうですか。お時間を取らせました。これで失礼します」
「えっ!?もう帰るので?」
「はい。リオンヌさんはお店も忙しいようですし無用な時間を過ごすのは申し訳ないので」
「そ、そうですか。申し訳ありません」
「いえ、こちらこそ。では」
僕達は早々に話を切り上げ店を出た。
「先輩、よかったんですか?さっさと切り上げて」
「無理して受けてもな。別に金に困ってる訳じゃなし。定期便の乗合馬車の方を受けよう。たいして報酬違わないしな」
「そうですか、先輩がそれでいいなら良いんですけど」
「しかしカードが光るなんて知らなかったよ」
「私もです!あれが偽造防止なんですね!」
2人して自分のカードに魔力を注いで反応を確かめていた。
「所でどこに行くんだい?」
「ギルド本館です。依頼票を返して受注できなかった旨、報告しないと」
「そうなんだね」
本館に入り依頼票を返そうと受付のお姉さんに話しかける。
「そうでしたか、残念でしたね。他の護衛依頼を受けます?」
「そうですね、折角ですから定期便の乗合馬車の護衛を受けます」
「分かりました。ではこの依頼票を厩舎棟に持って行ってください」
「はい、分かりました。ありがとうございました」
厩舎棟は街の中央付近に在り、商業区や住宅区に隣接しないように建てられている。
臭い対策の為だろうか、付近は結構空き地が広がってる。
棟に入って手続きを受け、こちらは受注を了承されて3日後の朝2つに出発となった。
定期便は寒くなると本数を減らすのだという。
本館に戻って受注了承を報告し、後は旅の為の物品を買ってその日に備えた。
一応、最後のマヒマイタケの毒袋は売らずに僕達が受け取っておいた。
翌日、出発が2日後なので街をブラつくよりも狩りをしようということになり、もう少しこの街で稼ぐ事になった。
「そうか。ヴィヴィエントへ行くのか」
「はい。お世話になりました」
「狙いはコロリタケか?」
「何番でしょー!」
「わーかったって!まぁ、気を付けろよ」
「はい。お兄っちゃんもお体に気を付けて、ってまた明日来るかもしれませんけどね」
「ギリギリまで狩るのか?タフだねー」
「若いんで。へへへ」
「へっ、羨ましいぜ。俺らももっと若けりゃ一緒に組んでやるのによぉ」
「そう言えば元冒険者なんでしたっけ」
「あぁ、弟と組んでこの辺を」
「例えば20歳でスキル10個持つ奴っているんですか?」
「はぁ20歳で?いやまぁ、いねぇとは言わねぇが少ないだろうな」
「なんでです?」
「20歳で10個取れる奴がそもそも少ないってのと、20歳で10個取ろうとしねーってのと」
「取ろうとしない?」
「あぁ、20歳で全部取っちまうと先が決まっちまうって言うか、な。分かるだろ」
「・・・その道しかない」
「そう、それだ。だから取らないように余計な事はしないんだよ。流石にもう少し経験してから取るんだ」
「そう・・・ですか」
「おめぇ、まさか」
「はっ!?何言ってんのお兄っちゃん!俺がっ!?まーさかー」
「だ、だよな。まぁ気ぃ付けろよ」
「分かってまーす」
「あっ、そーいやぁ受付嬢がおめぇらに用があるから本館に来てくれって言ってたな」
「受付のお姉さんが?お別れ会でもしてくれるのかな」
「「それは無い」」
本館に入って受付に行く。
「あっ、カズーさん、ミキティさん。リオンヌ商会の方がお話があるということで店に顔を出して欲しいそうです」
「リオンヌ商会が?」
「えぇ、急ぎの話だとか」
「はぁ、分かりました」
本館を出て菊池君と相談する。
「どういう事でしょう?」
「うーむ、分からん」
「何か失礼な事しましたかね」
「いや、思い当たることは無いが・・・なんか面倒な臭いがするのは僕だけか?」
「私もなにやら臭いますね」
「「・・・・・・・」」
「バックレるか」
「バックリましょう」
「・・・5段活用ですらないような気がするが・・・そうしよう」
その日はそのまま宿に帰って明日の狩りに備えた。
そして翌日も狩りを終え納品館のお兄っちゃんに明日出発するので別れを告げたところ、また受付のお姉さんに呼ばれてると言付けを聞いたが、勿論行く気はない。
出入口に行こうとしたところ受付のお姉さんが息を切らせながら戸に立っていた。
「カズー・・・さん、ミキティさん・・・昨日商会へ行ってない・・・そうじゃないですか」ハァハァ
「・・・明後日には伺おうかなと・・・」
「明日はハァハァ定期便のハァハァ護衛でしょハァハァ」
「ハァハァ」
「今日!お伺いしてください!」
「分かりました。これから伺います」
「いえ!今使いを出してますので本館でお待ちください!」
「えぇー!そんなー」
「何でですか!」
「おうぼうだー」ブー
「ギルドはぼうけんしゃのみかたじゃないのかー」ブー
「クソガキが!」
「依頼で報酬が出るってんなら伺いますがね?出ないんでしょ?じゃー強制じゃないですよね」
「依頼って!」
俺はダッシュで逃げようとする。
が、しかし!
「逃がしませんよっ!!」
がしぃっと受付のお姉さんは俺を抱き込み逃すまいとする。
「あーれー!捕まっちゃったぁ」
菊池君がジットリと俺を見るのだった。