⑬-18-388
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俺達は先を急いでいた。
「そういえばケセラ」
「うん?」
「怖くないもん。って、モンを語尾に付けてなかったか?」
「付けてない。何を言っているのだ馬鹿々々しい」
「・・・いや、言ってただろ」
「言ってない」
「言った」
「言ってない」
「言った」
「言ってない」
「言ってない」
「言った」
「言ってんじゃーん!」
「言ってないもーん!」
「おっ、階段に反応が有る」
「待て!言ってないぞ!」
「止めろ、敵だ」
「待ってくれ!」
「ホントね、準備して」
「ぐうぅぅ!」
1人の兵士が陣所に入って来た。
陣所と言っても天井だけのテントだ。
「失礼致します!西門の制圧に成功したとの知らせがありました!」
「よーし!早急にルンバキア兵を送るのでそれまでに再編を終わらせよと伝えろ!」
「畏まりました!」
「・・・混乱でバラバラになっていたルンバキア正規兵も集まりだしましたな」
「うむ!外は有利になりつつある!後は城の制圧だが」
「・・・マコルから連絡が続く限りは敵も家宝の奪取に成功してはいないでしょう」
「うむ!マコル達の援助の為に陽動隊を派遣しよう!」
「・・・であれば正面から」
「うむ!そうしよう!目立つ様にな!先ず1階を制圧させろ!」
「・・・は!」
「ふぅー片付いたな」
俺達は3階への階段を確保して先を急いでいた。
「いよいよね」
「反応は有るの?」
「あぁ。クッソ強いのがな」
「クッソ強いんだ」
「カズヒコ!マヌイに汚い言葉教えないで!」
「す、すまん」
「『フォー・キングス』より強いんですか?」
「えぇ。そうよ」
「「「はぁー」」」
そうやって話ながら進むと直線の長い廊下の先、恐らくさっきからの大きな音の原因であろう部隊がいた。
その中にクッソ強い反応の奴も居る。
「あれね」
「だねー」
「ですね」
「奇襲は無理だな」
「流石にな。向こうは用意してるしな」
「そうね」
「「「えっ」」」
「ここと向こうの廊下の間の天井に敷居みたいな壁が有るだろ」
「「「うん」」」
「その壁の裏に1人潜んでる」
「上から攻撃して来るって事?」
「多分な」
「どうするの?」
「サーヤ、槍を」
「はい」
俺は槍を持って先頭を歩く。
向こうの集団の中から1人の筋肉ムキムキだろう大男が出て来た。
フルプレートアーマー、感じていた強い魔力反応はこいつだ。
兜は被らず胸の前で腕を組んで微笑んでいる。
俺は槍を水平に持ちながら天井の敷居の下を通り過ぎる。
「けええぇぇぇい!」
上から剣を構えて反乱兵が落ちて来た。
槍を上に向ける。
「えっ!あっ!ちょっと!」
サクッ
「ぎょぶっ」
男は腹に刺さった槍を必死に掴んでこれ以上深く刺さらない様に頑張っている。
「くぅぅぅ」
俺は槍を垂直に支えたままアーマーの男と対峙していた。
(風魔法使いだ)
((((了解))))
「ほぉ。少しはやるようだな」
「弟妹派・・・って事で良いんですよね?」
「ううぅ・・・」
「俺の顔を知らんとは公都の軍所属では無いな」
「家宝を狙っている」
「ううぅ・・・」
「・・・セルラムディ殿下の諜報員では無い。となると」
「そのバリケードの先に有るんですか?」
「ううぅぁ・・・」
「ソルスキア軍を連れて帰って来たとの報告だが、ソルスキアの諜報員か、しかし格好は冒険者だな」
「中に居るのは大臣派か」
「もう・・・」
「ソルスキアにこの国を好きにはさせん」
「ここが終着点か・・・あれ、弟妹は何処だ?」
「もう・・・無理ぃ・・・」
「貴様如きが呼び捨てに出来る御方ではないわ!」
「あれ、自分の話に酔ってたんじゃないの?」
「もう・・・」
「よく喋るモグラだ」
「脳みそ小さい猪が偉そうに」
「早死にしたいらしいな」
「いえ、死にたくないんで帰りますね」
俺は踵を返し帰ろうとする。
「なっ!待たんか!」
大男が駆け出しながら両腕を背中に回す。
「ぐふっ!」
槍に刺さっていた男が力尽きて手を離し、トドメとなった。
槍を傾けて男から抜く。
思った通り、この大男は俺等に逃げられたくはない。
バリケードを突破しなければいけないがこのままだと俺達を相手にしながらバリケードを破壊しなければいけないからだ。
俺達を殲滅してからバリケードに集中したいはず。
「撃て!」
ヒュヒュヒュン
「ぬっ!?」
矢が大男の横を通り過ぎバリケードの兵士達を襲う。
「ぐっ!」
「あっ!」
「ぬぐっ!」
振り返って兵士の様子を確認する大男。
また顔を戻して俺の方を向いた。
「貴様」
「やっぱり脳みそ小さいみたいだな」
「殺す!」
「脳みそ小さい奴のセリフはそればっかだよ。それっ!」
槍を投げつける。
「ふん!」
背中から両手にそれぞれ片手斧を抜き出し、投げ付けられた槍に振り下ろして粉砕した。
片手斧!?
それぞれの手に?
あのガタイなら両手斧だろう?
大男が走って来る。
俺は迎え撃つ。
俺に武器スキルは無い。
《カウンター》主体、受け主体の戦い方だ。
マチェーテの柄に手を添える。
奴の魔力と風魔力が腕に集まっていく!
複合スキルか!
なっ!?何!?
魔法陣の多面体が閉じられている!?
通常どこかの面が無かったりするのが普通だが!?
あの『フォー・キングス』でさえ閉じられていなかった!
俺ですら閉じていないのに!?
完全な立方体!?
それってつまり・・・ある種の完成型!?
「《トマホーク・トルネード》!」
大男がそれぞれの斧を振り下ろして目の前でクロスさせながら竜巻を生み出した。
竜巻は風を吹き出しながら俺に向かって来る。
その噴出された風は小型の《エアロエッジ》になっている。
不味い!
無数の《エアロエッジ》が服を斬り裂いてゆく。
更に竜巻だけじゃなく周りの空気にも巻き込まれ・・・
「ぐあっ!」
ガッシャァーン
カズヒコは風に巻き込まれステンドガラスを突き破って城の外に投げ出された。
「カズヒコ!」
「カズヒコ様!」
「カズ兄ぃ!」
「カズヒコ!」




