⑬-07-377
⑬-07-377
翌朝。
またレイヴに燻製肉の見張りを任せ魔石収集に森の奥に向かった。
昨日の内に湖の場所を聞いてそこに来ていた。
湖というよりは池だったが構わないだろう。
かなり遠かったが。
「えっ、2人乗り!?」
「そうだ。元々2人乗りの前提で座席を作っていたんだ」
「それで。結構ゆったり座ってるなぁって思ってたのよ」
「僕が落ちる間にもう1人にグライダーを任せる」
「私は嫌よ!」
「あたし乗りたい!」
「私も!」
「すまないがケセラに任せようと思ってる」
「私か?」
「《馬術》がグライダーにも乗るんじゃないかと期待してる」
「うーん。まぁ馬車の荷車に適応されるくらいだからな。有り得なくは無いが」
「馬も居ないのに?」
「だから期待だ。無くても構わん」
「そうだな」
「ざーんねん」
「・・・はい」
「だからケセラにはグライダーの操縦を覚えてもらう。僕の前に乗って飛ぶぞ」
「そうか」
「えっ!」
「ケセラの操縦練習は池の上を低空飛行で行う。もし墜落しても良い様にだ」
「分かった」
「誰かに借りてヘルメットを被ってくれ」
2人共ヘルメットを被り座席に乗ってベルトを締める。
一応座席にベルトを付けたので腰に巻いているがそれも十分では無く揺れたりすると不安定ではある。
操縦桿は僕がケセラの腰に手を回して握っている。
かなり密着する形だ。
翼のフラップへの糸は丈夫な物をサーヤ君に作ってもらったが、座席内へはワイアーを作って操縦桿に繋げてあった。
「くっ。早く【ランク】上げて《馬術》を取る」
「ん?どうした、サーヤ君」
「いえ別に。お気を付けください」
「ありがとう。では出発だ」
『はーい』
3人の助走で離陸した。
「ひゃあー!?」
珍しくケセラが声を上げている。
低空とはいえそれでも高さ数十mはある。
池の上を旋回してケセラに慣れさせようとするのだが、
「きゃー!飛んでるぅー!私飛んでるわ!下のマヌイ達があんなに小さく!爽・快!なにこの爽快感!馬も良いけど空も良いわー!この速さ!風になってるのねー!自由よー!私は自由なのぉー!」
饒舌!
ウソだろ。
こんなに話す娘だったっけ!?
寡黙ではないけどあまり喋らない娘だと思ってたんだけど・・・
普段軍人のような話し方だったしそれが普通と思ってただけにギャップが・・・
最初のフライトは先ず慣れさせるのが目的だった為、池の上を長時間旋回して終わった。
結局その日の練習は数本のフライトでケセラを慣れさせるのに終始した。
最後にサーヤ君とマヌイも乗せてやった。
ケセラ並みに凄く喜んでいた。
菊池君はもの凄い悩んでいたが結局乗らなかった。
それ程怖いのだろうか。
池の上なんだが高い所が怖い人はそんなもんなんだろう。
街への帰り道、3人はキャピキャピとフライトの感想を言い合っている。
菊池君はそれを羨ましそうに見ていた。
離れに帰ってまたそれぞれの時間を過ごす。
俺も壁走りをしようと思ったが目障りだと言われ、仕方なく外に出て離れの家の壁を使う事にした。
何度か練習する内にコツを掴み、落ちそうになる前に壁を蹴って後ろに反転して足から着地する事が出来るようになった。
ただ数歩しか登れないのは変わっていない。
だが吸着は感じている。
少しずつ登って行こう。
少しずつ・・・
壁の成分は大体分かったんだがまだ何か見落としでも有るのかな?
壁にくっ付き頬を付けて体全体で壁を感じてみる。
壁の中を視ると弱ぁーい魔力を感じる。
この魔力だと吸着力も弱いのか?
というかそもそも魔力が弱いから結合力も弱い、という事はないだろう。
その辺に転がっている石だって硬いが魔力は弱い。
石の組織同士の結合を意識していってみるか。
つまり壁の材料の結合、どんな材料であろうが結合しているのには変わらないはずだ。
材料ではなく結合力を意識してみよう。
恐らくその結合力に魔力も影響しているはず。
一体とはいかずとも壁と結合出来るようになれば。
土魔法を使って結合出来るようになれば。
魔力を使って結合出来るようになれば。
一体・・・
壁はどんな気持ちなんだろう・・・
お前はどんな気持ちでここに建っているんだい?
一体どうしたら壁の気持ちが分かるのか・・・
匂いを嗅いでみる。
クンクン
あまり匂わない。
夕方の匂いがする。
夕方の独特の匂いってなんだろうな。
俺は日中の太陽によって温められた地面や木々が夕方になって放射熱を出す時に匂いも一緒に出してるんじゃないかと思う。
スーハースーハー
うん、夕方の匂いだ。
スーハースーハー
懐かしいような寂しいような、そんな匂い。
スーハースーハー
「もう直ぐお風呂に行く・・・ってあんた何してんの!?」
壁にくっ付いて壁の匂いを嗅いでる姿を菊池君に見られてしまった。
「・・・勿論実験だ」
「・・・ウソよね」
「アフォー」
ん?
振り返るとレイヴが木に止まって俺を見ていた。
「ずっと見てたのか」
「クァ」
「プライバシーの侵害だ!」
「外で何言ってるのよ」
「夕陽が眩しいぜ」
「ここは商館の陰になってて夕陽なんて見えないでしょ」
「グライダーに乗れなかったから拗ねてるのか」
「はぁ!?」
「さっ、風呂に行くか」
「ちょ、待ちなさいよ!」
「帰りに何買おっかなー」
「待ちなさいって!」
翌朝。
また池に来ていた。
魔石収集も終わっている。
今回はケセラに操縦を習わせる事に集中する。
操縦は直感的に、体感的に出来るように作っている為、それにケセラの飲み込みの良さもあって意外と早く操縦する事が出来るようになった。
実験中とはいえ、一応パラシュートを2人共着用している。
今回は俺が前の席で、ジェットパックを背負ったケセラが後ろの席だ。
ケセラは前側にパラシュートを着用していた。
前後にバックパックを着用している。苦しそうだ。
助走の準備も終えていよいよ離陸する。
「操縦は任せて魔石のコントロールにだけ集中してくれ」
「分かった」
「では、行くぞ!」
「おう!」
俺は合図を出す。
3人がロープを引くと少し走っていつも通りフワリと浮かび上がった。
ロープを離して結晶魔石によりグングンと上昇していき結構な高さまで到達した。
「きゃー!高ぁーい!」
ケセラがはしゃいでいる。
少し落ち着くのを待った方が良いだろう。
気持ちは分かるからな。
「じゃぁ、いよいよ行くぞ!」
「あぁ!」
「僕が落ちたら直ぐに操縦桿を掴め!」
「あぁ!」
俺は機体を揺らさない様に風呂で湯舟に入るようにスルリと抜け出た。
ビョオオオォォォ
「おおおおおお!」
凄い風だ。
っと。
そんな事言ってる場合じゃ無い。
そんなに高度はないんだ。
直ぐにパラシュートを開かねば。
グッ
紐を引っ張り先ず小さなパラシュートが飛び出る。
小さいパラシュートが風の抵抗で上に行く間に本体が引っ張られて出てきて、
バッ
開いた。
今日は少し風が有るから煽られて揺れる。
しかし何度も実験を繰り返したからこのまま何も無ければ成功するだろう。
落下自体は速度を緩めていっている。
よーしよし。
このまま何も無く池に着・・・水・・・
着水?
ま、不味い!
しまった!もう遅い!別に池じゃなくガボッ
ザヴァッ
「「「おぉー!」」」
「着水したわね!」
「成功だね!」
「落ちたんじゃなく着陸ですよね!」
「そうね!上手く、って・・・あら?」
「あれ・・・カズ兄ぃの上にパラシュートが落ちて」
「あれ・・・大丈夫なんです?」
「・・・ちょっと!カズヒコォー!大丈夫ぅー!」
ガボガボガボッ
「サーヤ!筏出して!急いで!」
「は、はははい!」
「カズ兄ぃ!」
俺は3人に救われた。
パラシュートが俺に覆い被さり呼吸困難になっていた。
筏に大の字になっている。
「これは・・・予想外だった・・・」
「まぁ、成功は成功なんだから」
「そうだよ。次あたしも乗せて!」
「その次は私も!」
その日は疲れたので遊覧飛行で終わった。




