⑬-01-371
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少女が少し広めの部屋でソファーに腰掛け手の平に乗る小さな箱を弄っていた。
小さな箱からはメロディが流れている。
少女は顔を少し傾げて聞き入っていた。
少女の後ろに立つ女騎士も聞き入っているようだ。
音が流れる様子をドア付近に立つ衛士が珍しそうに眺めている。
「失礼します」
ドアの向こうから声が掛かる。
「お入り下さい」
オルゴールを見ていた衛士が少し慌ててドアを開ける。
カチャリ
別の衛士が部屋に入って来た。
「エリーテ・ファーダネ閣下が面会に参られております」
「御通しして下さい」
「畏まりました」
少女は小さな箱を鞄にしまう。
衛士が横にずれると3人が入って来た。
少女が席を立つ。
「お初にお目に掛かります殿下。エリーテ・ファーダネ伯爵に御座います」
「ドゥラグレ家当主、セルラムディ・ドゥラグレです」
「殿下の御無事な姿に安心致しました」
「御心配をおかけして申し訳ありません。御掛けになって」
「失礼します」
少女が先に座り、背後に1人の女騎士が立つ。
伯爵と名乗った女が少女の対面に座り、その後ろに壮年の男と女騎士が立つ。
「先ずは先に知らせたルートより外れたルートから来た事、申し訳ありません。余計な心配を掛けました」
「いえ。聞くと襲撃に遭われたとの事。御身の大事を考えれば当然でしょう、御無事で何よりです」
「そう言って頂けると有難いです」
「長旅で御疲れでしょう。今後の相談は日を改めた方が宜しいのでは」
「いえ。私には頼る事しか出来ず、私自身が出来る事は多くは有りません。ならば数少ない出来る事を集中して早く終わらせたいと思います」
「流石の御慧眼。なるほど、次期大公に相応しいかと存じます。然らば今後の事について早速御相談致したく」
「はい。宜しく御願い致します、ファーダネ卿」
「マヌイィー!」
「タリルコル様ぁー!」
2人は抱き合った。
涙も流している。
周りの獣人の護衛だろうか?一緒に泣いていた。
そういえばどこかで見た顔だと思ったら洞窟に案内した奴らだ。
僕達はあれからタリルコルさんの商館に赴いて部屋に案内され、タリルコルさんが用事から帰って来て感動の再会となった。
「しばらく見ない間に大きくなったな」
「もう!23歳なんだから成長しないよ」
「いや、実際今までの旅でマヌイは成長したよ」
「マコ・・・アル兄ぃ」
「うんうん。私もそう思うよ」
ひとしきり再会を懐かしんでソファーに座ってゆっくりする。
人払いをしてもらって部屋には6人しか居ない。
レイヴは離れて止まり木に掴まっていた。
これまでの経緯を話していた。
「何と・・・そんな事が・・・」
「えぇ、大変だったな・・・」
「5ヵ月程の間にね・・・」
「マヌイは怪我はしなかったのか?」
「冒険者に怪我は付き物だよ、タリルコル様!」
「しかしだな・・・」
「ヤヌイの仇仲間の諜報員は何人か倒したよ!怪我なんて言ってられない!」
「マヌイ・・・」
「タリルコルさん。もう守ってもらうばかりのマヌイじゃないんですよ。成長して、これから守る側になろうとしてるんです」
「・・・そうか。あのマヌイが・・・ヤヌイも喜んでいるだろう」
「うん!」
「アルゴ君も。これからもマヌイをよろしく頼む」
「勿論ですよ。それで通商同盟なんですがね」
「勿論参加させてもらう。ルンバキア、ベルバキア、両国に隊商を派遣しよう。まぁ今も取引は有るのだがね」
「公都オラキア、公都ムルキアに拠点、つまり商館を買おうと思っています。ムルキアは既にラグリ商会傘下のウリク商会を使って活動を開始しています」
「ラグリ商会が君達の母体であると同時に幽霊会社という訳だな」
「その通りです」
「ラグリ商会を使って君達は裏で活動し、表は傘下商会を使って金を稼ぐと」
「その通りです」
「ではこのバレンダルではビグレット商会を使うという事だな」
「その通りです」
「良いだろう。正直胡散臭さ半端ないがマヌイのパーティリーダーだし、しかも仇を討ってくれたんだ。信用するよ」
「ありがとうございます」
「という事でありまして、陛下から兵1000人でセルラムディ殿下の帰国、並びに即位の護衛をするよう命じられています」
「宜しくお願いします」
「しかしその話が本当ならば弟妹殿下達の手引きでベドルバクラ勢力の一部が公都オラキアに流れ込んでいる事が予測されます」
「はい。親族がお恥ずかしい事ですが」
「彼らに大公の座を渡してはなりません。これはルンバキア公国だけの問題ではなく南部全ての問題なのです。セルラムディ殿下が大公位に御就き遊ばさなければ100年前の奴隷戦争以来の大戦となるでしょう」
「奴隷戦争・・・」
「大戦に発展する恐れが有ります。事は急を要します。陛下にも奏上し急ぎ準備を整えましょう」
「非力な私ですがどうぞよしなに」
「それで具体的にどうするのかね」
「当面はバレンダル、オラキア、ムルキアの3点で貿易を回そうかと思っています」
「ふむふむ」
「今も両国と取引が有ると言ってましたが直接公都に行く方が儲かりますよね」
「勿論だ。仲売人が居なくなるからな。間に入る人間が少なくなれば利益も多くなる。しかし」
「護衛の問題ですね」
「うむ。向こうに不慣れだから向こうの冒険者を雇わなければならんが。これはどこも同じなのだが、その街その街の商人ギルドと冒険者ギルドは協力関係にある。地元の商会に優先して有能な冒険者を紹介する。有能な冒険者の確保が難しい」
「そこで僕達は南部北端国から孤児を引き取ろうと思っています」
「孤児を?」
「えぇ。孤児を育てて先は冒険者、商員、軍人、職人。適性の有る方向に育てようと思っています」
「自分達で育てるのか」
「はい」
「ふーむ。先が長いな」
「えぇ。僕は戦争で北部を滅ぼそうとは思っていません。王様でもないですしね。経済で、金で、奴らを滅ぼそうと思っています」
「・・・なるほどのぉ」
「金が無ければ食料も武器も手に入りません。今もヒト族以外の南部への流出が続いているそうです。時間は掛かりますが将来奴らは破綻すると僕は思っています」
「金が無ければ戦争も出来ないか」
「えぇ」
「ふーむ」
「ルンバキアの街キルフォヴァにベドルバクラが攻め込んだのは聞いてます?」
「うむ。追っ払ったそうだな」
「えぇ。恐らく奴等も略奪の為に攻めて来るんでしょう。金が無いから」
「だろうな。奴等もそれが分かっているから力がある内に攻めて来るんだろう」
「そう、つまり戦争は無くなりません。だから通商同盟を広げて南部から北端国に食料武器弾薬をなるべく安く送る必要が有るんです」
「戦争は無くならない。孤児は増え続けると」
「受け入れる機関が有りません。寄付などの善意に頼っているだけでは砂上の楼閣、直ぐに崩れ去ってしまう。身に覚えがお有りでしょう」
「前領主ハグデル伯の事か」
「えぇ・・・前領主?」
「処刑されたよ」
『えっ』
「一族郎党な」
「・・・そう」
「・・・マヌイ。仕方ないのだ。貴族には責任が伴うのだから」
「・・・うん」
「それで前ハグデル伯に奸計を用いて貶められた前前領主の元ハグデル伯様が復権為される予定だ」
「え、それって・・・」
「うむ。私が世話になった10年前の領主様だ」
「復権なんてされるんですね」
「王国も間違いを認め、幾許かの補償もされるそうだ。だからこその一族郎党の処刑なのだろう」
「「こっわ!」」
「つまり、前領主に迫害されて獣人の保護を邪魔された事を言っているのだな」
「その通りです」
「という事は1つの街に何か有っても別の街に退避させるような仕組みを作ると」
「流石」
「ただ孤児を囲うだけではかなりの金が必要になるぞ」
「勿論働かせます。子供だから限定されますが、力仕事なんかは無理でしょうが職人なんかのスキルを習得出来るようにすれば早くに1人立ち出来るでしょう」
「しかしかなりの孤児を引き取るとなると1人立ちまでの経費が莫大になるぞ」
「えぇ。それは当分は僕達が稼ぎます」
「その間に利益が出る方法を確立する訳だな」
「はい。なるべく子供達が働いて稼げるようにしたいと思っています」
「しかしそうしますと兵1000人では足りないかもしれませんな」
「はい。キルフォヴァが攻められてフリーエが残務処理をしています。キルフォヴァに応援で兵を送って近衛騎士も何人か」
「殿下の護衛の騎士をフリーエ様の護衛に。人手不足を突かれる恐れがあります」
「はい」
「陛下に増員を打診します。が、我が国も大盗賊団征伐したとはいえ人心まだ定まらず。被害地の保安警備に人が割かれている現状、大幅な増員は見込めますまい」
「被害に遭われた方達の安寧を思えば」
「痛み入ります。では冒険者を雇い入れましょう。それで不足分を幾らか補えるでしょう」
「はい。それで私も雇いたい冒険者がいるのですが」
「殿下が直接お雇い為さると?」
「はい。本来なら護衛される身ですから全て卿に御任せするのが良いのでしょうけど」
「いえ、構いません。殿下の護衛がお付きの騎士1人だけだと不都合も御座いましょう。しかし冒険者となると何か目星でもありましょうや」
「えぇ」
「それは?」
「私をここまで護衛してくれた者達です」




