⑫-44-370
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翌日から泊まれるようなら街に泊まるようになった。
野営の連続でストレスが溜まっていただろうセーラとラーンも羽を伸ばす事が出来たようでその後の旅が楽になった。
約1週間をかけて明日はいよいよバレンダルという野営地で夕食を摂っていた。
「長い旅もいよいよ終わりか・・・」
「いつでもそうだけど旅の終わりの前日って寂しさ半端ないのよね」
「色々有ったもんねぇ」
「約4週間程ですか」
「長かったようで短くもあったな」
「明日また御挨拶すると思いますけど、みなさん御世話になりました」
「私からも礼を言う。其方達が居なければ此処まで辿り着けなかっただろう」
「それは間違い無いな」
「マコル!」
「そこでお姫様にプレゼントだ」
『プレゼント?』
「はい、これ」
「・・・何なのですか?これは」
「オルゴールという」
「「「「「おるごーる?」」」」」
「これをこうやって手で回すと・・・」
♪・・・・・・♬
「まぁ・・・」
「ほぅ・・・」
♪・・・・・・♬
「ってな感じで音が流れる」
『おぉー!』パチパチパチ
「カァー」
「こんな手の平に乗る小さな箱から曲が流れるなんて!」
「不思議なものだ!」
「凄いぃ!」
「初めて見ましたわ!」
「楽器には見えないな!」
「曲は『Happy Birthday to You』ね」
「正確には『Good Morning to All』だ。『Happy Birthday to You』は替え歌なんだよ」
「へぇー」
「お早うの曲?」
「あぁ。これからルンバキアの夜が明ける。新しい大公が生まれる。そんな感じかな」
「・・・マコル」
「櫛をヒントにね、作った」
「櫛を?」
「あぁ。細い歯をヒントにしてこれを金属で良い音を出すにはうんたらかんたら・・・」
「寂しくなったらこのオルゴールを聴いて元気を出してくださいね、セーラ様」
「・・・はい。この音楽を、この旅を思い出して国を強くして見せます」
「セーラ様・・・」
「この旅は失うものもありました、得るものもありました。それらが私を成長させこれから生きていく上での支えとなるでしょう」
「セーラ様」
「ラーン。これからも私を助けて下さいね」
「はい!このラヴィアン・ブルーフ!身命を賭して殿下を御守り致します!」
「・・・って事で小型化には少し時間が掛かったんだよ」
「マコ兄ぃ」
「マコルさん」
「良い感じだったのに」
「ん?」
「台無しよ!」
「あいたっ!?」
その夜、セーラとラーンのテントからしばしの間メロディが流れていた。
久々のバレンダル。
5カ月近くぶりか。
流石ソルスキア王国の領都でルンバキアやベルバキアの街なんかよりも遥かに大きい。
ムルキアとオラキアのような公都には勿論敵わないがそれでも外壁にしてもその威容は大したものだ。
今までルンバキアとベルバキアの街に慣れていた僕達に改めて驚きを与えていた。
入街税を払って街に入る。
久しぶりのバレンダルの街は活気が出ていた。
「盗賊団だけじゃなくあの領主が居なくなったお陰かな?」
「そうでしょうね」
「きっとそうだよ!」
箱馬車では無いので全員徒歩で街中を歩いていた。
一応護衛の為にセーラの周りを固めながら進んでいた。
向かうはファーダネ伯爵が居るであろう領主の館。
目線の先に懐かしい屋敷が見えて来る。
敷地の門に着いた。
ラーンが門衛と話をすると門衛の1人は屋敷の方へ走って行った。
やがて上官と思しき者を連れて戻って来る。
門が開かれ上官がセーラに向かって話しかける。
「ファーダネ閣下がお会いになられるそうです。案内致しますので御足労願います」
「宜しくお願いします」
セーラとラーンは2人、門を越えて行く。
セーラが振り返った。
「今迄本当にありがとう」
「報酬はフリーエさんに請求しますから心置きなく」
「えぇ。今から始まるのです。今からが本当の・・・」
「適度にリラックスするのがコツですよ」
「コツ?」
「リーダーの」
「ふふ・・・」
「お元気で」
「いいえ。またお会いしましょう」
「えっ!?」
「また・・・ね」
「「「「「?」」」」」
セーラはそれからは1度も振り返る事無く歩いて行った。
ラーンは1度頷いて歩き去った。
「やーれやれ!タダ働きも終わったなー!」
「カァー」
「ホントね!あれ!?この2ヵ月近く報酬無いんじゃない?」
「でもあんな事やこんな事で1億4000万位有るしねぇ」
「大き過ぎて実感湧きませんけど」
「全くだな」
「じゃぁ、先ずはタリルコルさんに会いに行くか」
「うん!」
「半年も経ってないけど、丁度良いしね」
「成長を見て喜ばれますわ」
「ケセラにも会わせたいしな」
「うん」
「街の様子も良くなったようだし、その辺も聞いておこう」
「そうね。あと通商同盟の件もね」
「倉庫とか商館とか借りるんだよね?」
「間借りっていうか、使わせてもらえたらなって」
「後は魔石を採集しませんと」
「そうだな。買っても良いんだが・・・」
「自分達で調達出来るのならやりたいな」
「狩りも久しくやっていないしね」
「買うのはなんか違うかなって、貧乏性かな」
「分かるよー、うんうん」
「ケセラはバレンダルは初めてだよな」
「うん。というかソルスキアが初めてだ」
「そっかー。じゃぁ観光しなきゃね。ってもムルキアやオラキア程見る物無いけど」
「でも旅の醍醐味だしねぇ」
「そうですよ。以前は晩秋から初冬にかけての滞在でしたから、今の季節も見てみたいですわ」
「そうだな。もう直ぐ6月か・・・あれ!?」
「丸2年!?」
「どうしたの?」
「私達が転生して来月で丸2年になるのよ」
「「「へー!」」」
「お祝いするか」
「そうね!サーヤのパーティ加入祝いはカズヒコがプレゼントあげたんだっけ?」
「はい!糸車を!」
「何か作るかなぁ」
「貰うんじゃなく作るの?」
「作るのが楽しいからね」
「あたしオルゴール欲しいぃ!」
「あー!私もです!」
「私もだ!」
「そうかー、好評だな。よーし作るかー」
「「「やったー!」」」」
「わ、私もー!」
「カァー!」
第12章終了




