⑫-40-366
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「隊長。奴らが停まりました」
「またか。ちょくちょく休憩するな」
「公女が居るからでしょう。乗っているのは荷馬車ですし」
「そうだな」
カズヒコ達の後方でカズヒコ達の様子を探る者達が居た。
その数は数人。
本隊は後方の街道に居る。
「あっ。公女を背負って森に入って行きますよ」
「具合でも悪いのか?」
「・・・此処からでは確認出来ません」
「あっ!もう1人も背負われて森に。公女お付きの騎士の様ですね」
「あいつもか」
「ぬるいルンバキアの近衛騎士にはキツイ旅だったんじゃないですかね」
「そうだな」
「あっ!公女が戻って来ました、背負われて」
「あっ!騎士も同様です」
「あっ!出発するようです」
「そうか」
「追いますか」
「無論だ」
(部下達は感じていない様だが俺は感じている)
(あいつ等何かスキルを放っている)
(何なのかまでは分からんが、何か感じるのだ)
(《気配察知》を持っているからだろうか?)
(しかしだからといって作戦を止める訳にはいかない)
(前方に潜ませている冒険者共と連絡を取る事が出来ない)
(『フォー・キングス』からの連絡が来ないのは嫌な予感がするが)
(最早決行あるのみなのだ)
そしてしばらく進んだ後、
「隊長!予定通り冒険者達が出てきました!」
「よし!我等も続くぞ!馬車に戻り挟み撃ちにする!」
『おう!』
「撃て撃て撃て!」
ヒュヒュヒュヒュン
「ぐああぁ!」
「うあっつ!」
「ひゃっ!」
「あひっ!」
「くっそ!」
「走れー!」
「突っ込めー!」
「公女を殺せー!」
俺達は前方の街道脇の森から出て来た冒険者共に荷車に乗って斉射していた。
「くそったれが!《弓術》持ちだ!」
「えらい命中率だぞ!」
「盾隊!前に出ろ!」
『おぉ!』
「セリーナ!右の森に寄せろ!」
「分かった!」
「撃て撃て撃て!」
ヒュヒュヒュン
そこに背後から馬車が2台やって来た。
「行けぇい!挟み撃ちだぁ!」
『うおおおぉぉぉ!』
荷車から男達が飛び降りて来た。
「不味い!乗り捨てて森に逃げ込め!」
『了解!』
俺達は馬車から飛び降り森に逃げ込む。
「まっ、待て!公女とお付きの騎士が居ないぞ!5人だけだ!」
「どーゆー事だ!?」
「荷車はテントとかしかねーぞ!」
「どーなってんぐあっ!」
「くそっ!森から撃って来やがる!」
「はーっはっはっは!かかったな!馬鹿共が!」
「な、何!?」
「公女はとっくに森から橋の方面へ向かっただろうよ!」
『何だってー!?』
(公女を森に?・・・あの時!背負って行った時か!)
(背負って行ったのは公女だが背負って帰って来たのは偽装だったんだ!)
(背負えば動かなくて済む!公女とは分からん!クソ!謀られた!)
「くそっ!あいつ等囮だ!」
「野郎!ブッ殺してやる!」
「じゃーあいつ等はお前に任せるぜ!俺は公女に行く!」
「あっ!てめっ!」
「公女を殺して報酬は俺のもんだー!」
「ふざけんな!俺のもんだ!」
『うおおおぉぉぉ!』
南側に居た冒険者共は揃って街道を戻って行った。
北から来た者達も数名、後に続いている。
残った奴らが俺達を苦々しく見ていた。
(待て!公女を森に逃がしたのは少し前だ)
(森の中を走ると言ったって公族、しかも訓練もしていない少女の身だ)
(我々を追い越して橋に向かう事など有り得ようか?)
(お付きの騎士が付いているのだろうが、そいつのスキルか?)
(森の中を橋に最短距離で行くなら魔物が居る森の奥を突っ切る事になるだろう)
(・・・・・・・・・・)
(居る!公女はこの付近に居る!やられた!大部分の兵力を橋に向かわせる為の策だったのだ!)
(今現在残っているのは・・・4人だけ!)
(しかも直属の部下達も俺も近接装備!つまり!)
ヒュヒュヒュン
「くっ!」カイン
「うお!」カイン
「せい!」カイン
「1人に集中して撃て!」
「くっ!うっ!あつっ!」
「くそっ!せいっ!ぐあっ!」
「ぬっ!りゃっ!うあっ!」
俺は森からゆっくりと出た。
「報酬に釣られなかったって事はお前等は諜報員だな」
「くぅ・・・」
「だんまりかよ。さっきまでの威勢はどうしたよ」
俺の後ろに居た4人もゆっくりと弓を構えながら森から出て来る。
「今朝ぶりだな。いい大人が少女のストーカーとは、自分でやってて悲しくないか?」
「・・・俺の《変装》を見破っていたのか?」
「はっ!臭いだよ」
「臭い?」
「いたいけな少女を狙うおっさん共の臭いときたら、反吐が出るぜ」
「・・・」
「俺達も急いでるんでな。ちゃちゃっと、終わらせよーぜ」
「『フォー・キングス』を知っているか」
「地獄の王になってお前等を待ってるとよ。まぁ王なんて無理だろーがな、ははっ!」
「カァー!」
荷台から鳴き声が聞こえた。
「そうか・・・名前を聞きたい!」
「何故だ」
「『フォー・キングス』や俺の襲撃も全て、全て!躱した。単純に知りたいんだよ」
「この先の襲撃は有るのか?」
「その質問に意味は有るのか?」
「・・・無いな。信用出来ないからな」
「そういう事だ。俺の名は「マコルだ!」!?」
「お前の名前は聞く必要は無い。知る必要も無い。お前はここで誰にも知られず死んでいく。誰にも思い出されず死んでいく。それだけだ」
「・・・マコル。聞いた名だ。悪魔を殺したパーティだな」
「・・・クエイドォォォ」
「デーモンスレイヤーに相手して貰えるとは光栄だな!」
「変な二つ名を付けるんじゃねー!」
「以外だな。冒険者は箔付けが大好きだろう」
「俺達は行商人なの。冒険者はついでなのよ。お分かり?」
「ついででデーモンスレイヤーかよ」
「お前はベルバキアでも活動していたのか」
「いや。この暗殺の為だけに来ただけだ。ルンバキア専門の部隊さ」
「弟妹派取り込みの部隊って訳か」
「・・・なるほど。王達が地獄に落ちたのは本当らしいな」
「王には従者が必要だろう。ついてってやれよ。同じ臭い者同士仲良く地獄に落ちろ」
「はぁーっ!」
ガシャアァァン
男の袖口、背後から鎖が飛び出て来た。
「っはーっはっはっは!勝った気でいたんだろう!?」
「鎖?」
「何故俺が隊長を任されていると思ってる!」
「1番陰険で陰湿で臭ぇーからだろ?」
「俺が!『フォー・キングス』より強いからだ!御せるからだ!あいつ等をなっ!」
「マジか」
「マジだ!1人で4人とタメ張れるんだよぉ!」
『1人で!?』
「そぉだぁ!この《爆鎖》は攻防一体のスキル!弓や剣は効かんぞぉ!」
男の周りを鎖が巻くように護っている。
魔法陣を視る。
なるほど、あまり見ない魔法陣だ、固有スキルだな。
「お前等を殺してゆっくり公女を探せばいい!」
『!?』
「居るんだろう!まだこの辺りに!」
「流石隊長なだけはあるな」
「はーっはっはっは!そうだろう!どうだ!今からでも俺の下に来ないか!『フォー・キングス』が死んだんだ、後釜に推してやるぞ!」
「お前等北部の連中は臭いからね。生理的に無理なんだよ」
「・・・もう少し利口だと思ってたが」
「正直者なのさ」
「死ね!」
ギシャアアアァァァン
鎖が俺に一直線に向かって来る。
「《雷撃》」
鎖に向かって手をかざして放った。
バリバリバリ
「ぎゃあああ!」
バリバリバリバリバリバリ
「あああぁぁぁ!・・・」
バキイィン
《雷撃》に耐え切れず鎖が破砕した。
注、クエイド:第8章の街ムトゥルグの冒険者ギルドマスター




