⑫-32-358
⑫-32-358
日中は襲撃も無く無難に過ぎた。
ベルバキア領に入って野営をする。
ロケットストーブを出して食事を作った。
同時に風呂の用意もだ。
食事中は殆ど会話は無かった。
まぁそうだろう。
マヌイによると箱馬車の中で喋っていたそうだ。
俺が居ない方が良いだろう。
早々にテントに入ってグライダーの小型模型で風洞実験だ。
「風呂は助かる」
「そうですね」
「マコ兄ぃが作ったんですよ」
「ほぉ」
「あの窯も」
「あれは火力も高く土管も温かくて尻に良い」
「いつもこのような野営をしながら旅を?」
「はい。私達は副業で冒険者をやっています」
「副業で?」
「はい。行商しながら街から街へ。商会カードも持っています」
「商人だったのか!?」
「はい。将来的には吟遊詩人をしながら商売をしながらついでに冒険者をしようと、今楽器を頑張って習ってるんです」
「吟遊・・・そうか」
「ふふふ。羨ましいわ」
「セーラ様」
「私は国外に出るのがこれが初めて」
「初めての旅で大変な事になりましたね」
「そうね・・・やっていけるか不安・・・」
「止めた方が良い。あんたに王は無理だよ」
『!?』
次の日も日中は無事に過ぎて夕食を摂っていた。
ふとセーラが零した言葉を拾って俺は言った。
「無礼だと叫ばないのか?」
「いや・・・だが理由を聞かせてくれ」
「何故枷を外したのか聞いても?」
「・・・苦しそうだったから」
「違うな」
ビクッ
「信じたかったからだ。信じてそれが正しいと証明したかった。裏切ったという事実に目を瞑り、幼い頃からの付き合いという事実のみ信じた」
「あなたは裏切られた事は無いの?」
「・・・」
「人を、仲間を信じたいと思うのは悪いの?」
「結果、旅の仲間を危険に晒している」
「だって家族を人質に取られてるって。だったら完全に裏切った訳じゃないでしょう」
「人質を取られたっていうのも証明出来ない」
「まさか嘘だって言うの!?」
「嘘かホントか判断出来ない。だったら枷を外しちゃいけない。リーダーは最悪を想定しておかなければならない。メンバーの命が掛かっている」
「・・・」
「マコルはエリナがスパイだといつ分かったんだ?」
「最初から疑ってた」
『!?』
「最初からあんたら3人共訳ありで偽装もしていた。スパイとして疑ってたというよりは僕達の敵かどうかとして見ていた」
「依頼したのにか?」
「それが殺されない理由にはならん」
「むぅ」
「そんな状態で宿で毒殺、森で待ち伏せ、宿で夜襲。事前に情報が洩れてなきゃあぁも立て続けに襲撃はされない」
「「・・・」」
「そこにセーラ様の告白。残りはラーンかエリナかだ」
「私もか」
「お前の線は薄いと思ってた」
「?何故だ」
「大概スパイはボロが出ない様に口数が減る。接触も最小限にしようとする。お前は一々僕に突っかかって来た。あれが演技だったら凄い役者だろうがお前はそんな性格じゃない」
「・・・その通りだ」
「それにこのカラスはナメクジン村の上空を舞っていた」
「カァ」
「「あっ!」」
「そういえばそうだったね!」
「僕も最初は普通のカラスだと思ったが、裏切った街主の街に入った時も上空を舞っていた。最早確信だ」
「エリナが連絡を取っていたのか。しかし特定のカラスを判別出来るのか」
「気配の察知には自信が有る」
「まぁ・・・そうだな」
「私には見破れるはずもありません。私には・・・無理です」
「今まではね。今からだ」
「えっ」
「僕達を信じきる事は無理だろう?エリナが裏切った以上赤の他人の僕等を信じきる事なんて出来ない。だがラーンはどうなんだ?」
「・・・」
「セーラ様」
「エリナが裏切る前なら出来ただろうが・・・」
「・・・」
「あんたはこれから宮廷で裏切りばかりの生活を送る事になる」
「「・・・」」
「誰もが擦り寄って来るが誰を信じて良いか分からない。王っていうのは孤独だな」
「セーラ様」
「あなたはメンバーを信じているの?」
「この子達は家族だ。家族を信じるのは当然、っと。あんたは家族と争ってるんだったな」
「・・・」
「フリーエさんの事を話そう。僕等はあの婆さんを信じてる。当然裏切られる可能性も考慮してる」
「それは信じてるって言わないでしょ」
「いや、信じているからわざわざムルキアからキルフォヴァまで、しかも戦争に行ったんだ」
「・・・そうでしたわね」
「しかも囮作戦までやらされた。知っててな」
「そうだったわね」
「囮・・・」
「何も疑わずに『信じる』って言って良いのはあんたの歳位までだな。幾つか知らんが」
「15よ」
「どうでも良い。要は疑いつつも信じたという行動を取れるかどうかだ」
「信じた行動?」
「僕等は胡散臭さを感じつつもこの依頼を受けた。フリーエさんを信じてね」
「迷いつつ疑いつつも信じる行動を取ったという事ね」
「裏切ったら裏切った奴が悪い。そう思うようにしてる」
「相手も事情が有るでしょう」
「勿論な。しかしそれで殺されても良いとは全く思わんが」
「・・・」
「裏切ったら殺す。それだけだ。だから疑いつつも信じる行動を取った・・・まぁ今回はフリーエ様に大分お冠だが」
「私も疑いつつ信じろと」
「あんたの決定が臣下のみならず臣民にも影響を与える。そしてその責任がある。『信じていたのに』なんてセリフ、姫殿下なら良いんだろうが大公が言って良いセリフじゃねーな」
「王は・・・孤独ね」
「全てを疑えと?」
「騙すつもりは無くても結果的に追い詰める事になってしまう事が有る。セーラやラーンは僕達を嵌めるつもりは無かったと思うが結果的に僕達は今窮地に居る」
「「・・・」」
「疑わざるを得ない状況だってある。裏切られたら裏切った奴はその程度の奴。そう斬り捨てられないと仲間は守れない」
「自分が常に正しいと?」
「そうだ」
「「え」」
「仮に間違えても間違えたと判断し修正し対処する。じゃなきゃ戦闘で生き残れない。間違いを間違いだと判断出来る俺は常に正しい」
「・・・凄い自信ですね」
「民が王を守るのか、王が民を守るのか。今ルンバキアはベドルバクラに攻められてる。民が王に求めるのは何だろうな」
「強い王、ですか」
「あんたは優しい。優し過ぎる。ただその判断による結果に責任を持てない。決断出来ない。あんたに王は無理だよ」
夕食後、俺は眠った。
真夜中に1度起こされてそれから浅く眠りつつ《魔力探知》で索敵しながら寝る予定だ。
それまで熟睡出来る時間を取る為だ。
真夜中、サーヤ君が俺を起こした。
「随分厳しい物言いでしたわ」
「諦める気は無さそうだったね」
「事情が有るのでしょうし」
「フリーエさんからの依頼だ。フリーエさんはセーラ派だろうし他にも大勢の人間が少女に期待してるんだろうが・・・」
「可愛そうですね・・・」
「15歳の少女に背負わせる問題じゃねーよな」
「公族に生まれたのが運の尽きですか」
「それでも彼女はそれを受け入れ責任を果たそうとしている」
「依頼を受理した以上は・・・」
「こちらから破棄はしたくないが、破棄をチラつかせたのは卑怯だとは思ってる」
「私達を思っての事だとみんな理解しています」
「逃げたエリナから情報が伝わるだろう。厳しい旅になると伝えておいてくれ」
「承知しました。所で何を書いているのです?」
「ん?・・・あぁ、星の位置をね。あと月も」
「星の位置を・・・?」
「結構前からメモしてるんだ。星々の位置で今自分が何処に居るか大体分かるんだ」
「それでしたら魔導コンパスで良いのでは?」
「それを失くした時の事も考えてね。天体図なんか売ってるのかな?」
「普通の街には無いでしょう」
「有っても都か。今度暇を見つけて探してみるか。よっこら!」
「どちらに?」
「周辺に罠を仕掛ける」
「魔物用の?」
「あぁ。みんな寝てる時に全員に《偽装》を掛けてるとはいえ、用心の為にね」
「手伝います」
「いや、寝てくれ。休むのも仕事だぞ」
「・・・はい」
「仕掛け終わったら風呂に入るかな」
「火を点けておきますね」
「そうだね。頼むよ」
「はい。お休みなさい」
「あぁ、サーヤ君もな」




