⑫-31-357
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「それじゃぁその責任とやらを取ってもらいましょうか」
「・・・」
「契約の破棄をして下さい」
「えっ!?」
「僕等から破棄はしたくないんでね。セーラ様からして頂ければフリーエ様にも申し訳が立ちますし」
「そんな!」
「そもそもフリーエ様に内容を聞かされず騙されたような形で契約させられたんだ。それに貴族相手だったし気乗りしなかったしな」
「でも!」
「斬り掛かって来ておいて、これ以上契約の続行は無理でしょう」
「私とラーンだけでこの先行けと言うのですか!」
「街なりで冒険者を雇えば良いじゃありませんか」
「信用を置けないでしょう!」
「斬り掛かって来た奴を信用出来ないでしょう」
「うぅ」
「ま、待って・・・くれ」
「ラーン!」
ラーンが身体を起こす。
「破棄は・・・待って、くれ」
「出しゃばるな役立たず。今セーラ様と話してんだ」
「頼む!聞いてくれ!」
「断る。負けたモンは勝ったモンに従え」
「御願いだ!聞いてくれ!」
「どうやらお仕置きが効いてねぇようだな」
俺はラーンに近付く。
セーラがラーンに覆い被さった。
「待って!駄目!だめああぁ!」
セーラをラーンから引き剥がした。
「セーラ様!」
「自分の心配しろ!」
横顔を蹴る。
正面から蹴ると歯が折れるかもしれないからな。
嫁入り前だろうし、
・・・あれ、歯って失ってもポーションでまた生えるの?
「ぐはっ!」
「ラーン!」
「頼む!私はどうなっても良い!セーラ様は!セーラ様だけは護ってくれ!」
「ラーン!」
「お前の怒りも尤もだ!私は剣を抜いた!抜いてしまった!取り返しのつかない過ちだった!だがセーラ様を!セーラ様をソルスキアに連れて行ってくれ!私の最後の頼みだ!」
「お前の頼みを聞く義理はねぇよ」
「お前の気が晴れるのなら斬り捨てて構わない!」
「雑魚に興味無いな」
「なら私の事を好きにして構わない!慰み者にするでも奴隷として売るでも!私はこれでも近衛騎士だ!高く売れるぞ!」
「駄目!ラーン!」
「・・・お前」
「どうだ!」
「4人も女性メンバーが居るのになんつー事言うんだ」
「すっ、済まない!」
「私のせい!私のせいなの!」
「そうだ。あんたがエリナを逃がしたからこうなった訳だが、直接はこいつがあんたの事を忘れて自分を優先させたからだ」
「そうだ!私の責任だ!済まなかった!だから私の事はいい!セーラ様を頼む!」
「だからお前の頼みを聞く義理はねーって言ってんだろ」
「マコル!」
「ん?」
菊池君が呼んでいた。
「ちょっと待ってろ」
「ラーン」
「セーラ様」
セーラがラーンに駆け寄る。
菊池君達の下に向かった。
「どうした?」
「意外ね、女に手を上げるなんて」
「手じゃなく足だけどな。生き死にが懸かってる状況で男女差別はしないぜ」
「でも気に入らないからって今まで1度も殴った事無いでしょ」
「剣を抜かれちゃぁな」
「そうですわ、あのアマ!」
「それに今までのストレスも溜まってたしな」
「そうだよねぇ」
「確かに高圧的な態度だったが・・・」
「この先どうするの?ホントに破棄する気?」
「安全が1番だろ?街軍まで出て来たんだ」
「そうだけど」
「甘い所も間抜けっぷりもイライラする」
「枷と縄解いちゃぁ駄目だよねぇ」
「理解出来ませんわ!」
「うーん」
「ケセラは元騎士として同情的だろうな」
「う、うん・・・守る対象が違うだけで気持ちは分かる。抜いてはいけなかったが」
「マヌイは」
「うーん。カズ兄ぃの気持ちも分かるけど、ここで見捨てるのもなぁ」
「サーヤ君は」
「・・・正直許せません、けど気持ちは分かります。私は奴隷でした。私は奴隷のしがらみの中で生きてきて、彼女は公女のしがらみの中で、ラーンは騎士のしがらみの中で・・・」
「菊池君は」
「うーん、難しいわね。見捨てられないって気も有るけど、逃がしちゃったのは間抜けよね。国を率いる身としてどうなのかなって」
「俺はここで殺そうかと」
「「「「!?」」」」
「はぁ!?」
「死んだ事にしてどこか遠い所で静かに生きて行けば良いかなと思って」
「新しい人生って事!?」
「あぁ」
「それであんな事言ったの!?」
「あの公女様は甘過ぎる。大公は厳しいだろう。だが優しい。ならどこか遠くで幸せに暮らせば良いんじゃないか」
「ラーンも?」
「忠誠心が高いしな。挑発して殴らせて契約破棄させようと思ったんだが剣抜きやがって」
「カズ兄ぃの挑発スキルレベル高いんだよぉ」
「そうよ。ちょっと可愛そうって思っちゃうし」
「しかしエリナが逃げたとなると厳しくなるぞ」
「そこはカズヒコの《魔力探知》でお願いしますよ」
「1km有るしねぇ」
「うーん。じゃぁ君等は続行で良いんだな」
「「「「うん」」」」
「カァー」
菊池君が急造で拵えた鳥籠から応える。
「・・・分かったよ。はぁー、メンドくさ」
セーラとラーンの下に戻った。
「契約は続行する」
「ほ、本当か!?」
「あぁ」
「済まない!有難う!」
「礼なら彼女達にするんだな。俺は反対だった」
「有難う!本当に有難う!」
「マヤ。治療してやってくれ」
「分かった!」
ラーンが箱馬車内でマヌイの治療を受けている。
一騒動有って時間を取られたので朝食は摂らずに出発した。食べながら移動だ。
いつも通り、箱馬車の御者はケセラ。
セーラにラーン、マヌイが同乗している。
荷馬車は荷物を乗せていない。
収納袋に入れたのだ。
収納袋を持っているのを知って驚いていたが。
「このまま予定通り行くのですね?」
「はい。マコ兄ぃはそう言ってました」
「大丈夫だろうか」
「東に向かうか、このまま西に向かうか。迷わせるのが作戦だって言ってました」
「そうか」
「でもエリナさんが逃げてその情報も漏れてるだろうと」
「「・・・」」
「東に向かうと余計に時間が掛かるって」
「・・・確かにな。これ以上の遅れは不味い」
「御免なさい。私が村で余計な事をしなければ」
「あ、いや、セーラ様」
「マコ兄ぃは2人に死んでもらう予定だったって」
「「!?」」
「何!?」
「死んだ事にしてどこか遠くで幸せに暮らす方がセーラ様の為だって。セーラ様は優し過ぎるんだって、大公には向かないって言ってました」
「「・・・」」
「・・・そう」
「だからあの時ラーン様を挑発したんだけどまさか剣を抜くとはって言ってました」
「う、うむ・・・」
「騎士なら。主の為に抜くなら分かるけど、我を忘れて抜いちゃ駄目ですね」
「・・・耳が痛い」
マヌイはバッグから汚らしいペグを取りだした。
「それは?」
「私の宝物」
「宝?」
「この汚いのは全部血の錆です」
「「血!?」」
「私とセリーナが崖から落ちそうになった時、マコ兄ぃは自分の腕を斬り落としてこれで固定して私達を引き上げてくれました」
「「!?」」
「しかし今は!」
「上級ポーションを持っていたのでくっ付きました。でも無くても斬り落としたでしょう、マコ兄ぃはそういう人です」
「「・・・」」
「マコ兄ぃはいっつもあたし達の事を最優先で考えてます。申し訳ありませんけどセーラ様は2番目です」
「「・・・」」
「だから破棄なんて考えてる。いつもなら受けた依頼は優先します。でも今回は無理矢理受けさせられたから」
「・・・そう」
「エリナさんを助けたいって気持ちは分かりますけど」
「・・・」
「裏切者を優先させるのは王様としてどうなのかな」
「・・・」
「部下の人達は納得するのかな」




