⑫-30-356
⑫-30-356
その夜は戦闘疲れもあって早く寝る。
カラスも、菊池君が急ごしらえで作った鳥籠の中で肉を食べて大人しく寝ていた。
そして明けた早朝。
「菊池君」
「・・・ん」
「菊池君」
「・・・朝?」
「あぁ」
「起きて支度するわ」
「起きて直ぐのノーメイクを我慢するから聞いて欲しい」
ドゴゥオ
「ぐふっ」
「どうしたの?」
「ぐふ・・・エリナの反応が無い」
「えっ!?死んだって事!?」
「いや。死体は見つからない。ただ魔力枷と縄が縛って転がしてた付近に落ちていた」
「魔物の仕業!?」
「いや。僕の感知範囲に入って来た奴はこの野営地まで来ていなかった」
「私のも反応が無かったわ」
「兎も角、皆を起こして付近を捜索だ」
「分かったわ」
5人で付近を捜したが見つからない。
そうこうする内に2人も起きて来た。
「エリナが消えた!?」
「あぁ」
「夜番はどうしたんだ!?」
「そう言われると辛いな」
「役立たずは貴様ではないか!」
「僕の気配察知は寝てても発揮するんでね」
「発揮されておらんではないか!」
「外から来る分には発揮されるんだが内から出て行く分にはな」
「知るか!エリナは我々の情報を持っているんだぞ!」
「魔力枷と縄がエリナが居た所に有った」
「当然だろう!逃げたんだからな!」
「枷と縄、縛られたまま逃げるというのなら分かる」
「どういう事だ!」
「魔力枷も外してあるのがオカシイと言ってるんだ」
「どういう事だ!」
「魔力枷を付けたままだとスキルを使う事は出来ない」
「当然だ!魔力を拡散してスキルを使えなくする道具なんだからな!」
「スキルを使えないで魔力枷を外せるとは思えない」
「何が言いたい!」
「2人の内どちらかが外した、そう考えられる」
「何を馬鹿な事を言っている!自分達の失敗を擦り付ける気か!」
と言いつつもセーラがブルブルと震え出した。
そもそもこの話をしだした時から震えていたが。
「お前じゃなさそうだな」
「お前だと!冒険者の分際で!」
「じゃぁ犯人は・・・」
「貴様!セーラ様が犯人だと言いたいのか!言って良い事と悪い・・・セーラ様?」
ラーンがセーラの様子に気付いたようだ。
「・・・」
「セーラ様。どう為されました?」
「・・・」
「役立たずな上に鈍いんだな」
「何だと!」
「話していただけますよね、セーラ様」
「ま、まさか・・・」
「・・・わ、私・・・」
「エリナを逃がしたのはあなたですか、セーラ様」
「あ、あの・・・」
「俺の気配察知は裏切りには流石に反応しねぇからな」
「煩い!黙れ!セーラ様、如何なされました」
「如何じゃねーよ、コイツが魔力枷外したんだよ」
「・・・コイツだと」
「間抜けで世間知らずのお嬢様のコイツが枷を外したって言ってんの」
「・・・抜け」
「いやいやいや、ハンデのつもり?逆じゃね?」
「何だと?」
「世の中知らねぇ田舎騎士がイッチョ前に剣もらって強くなった気になってるのが可笑しくって」
「死ね!」
《神経強化》!
鞘から抜いてそのまま振りかぶってきた。
流石早い、《剣術》の面体が多いだけはある。
が、
パシッ
剣の軌道を《見切り》、剣の側面に左掌底を当てる。
ラーンの剣は俺の右側を通り過ぎた。
頭に血が上って単純、いや、簡単な剣筋だ非常に《見切り》易い。
冷静になんてなれる訳はない。
人を殺すんだ。
気を静めて冷静に、なんてそれこそ人間ではないだろう。
興奮。
嬉しさは殺人者だろう、殆どの人間には忌むべき感情だ。
こいつの場合は怒りか。
だが自分を見失ってはいけない。
周りが見えなくなっては駄目だ。
そしてラーンは俺の挑発に自分を失った。
俺は剣を躱すと同時に少し前に進み右手で喉輪を食らわせる。
「がっ!」
そのまま右手で鳩尾を殴る。
「ごっ!」
ラーンが持っていた剣を両手で搦め取り右足を軸にして後ろ回し蹴りを当てた。
「ぐあっ!」
「ラーン!」
「ほら、早く立て」
「くぅ・・・」
剣をラーンの下に放り投げる。
「!?」
「油断して負けたって言われたくないんでな。もう1回やってやるよ、ほら立ちな」
「ぐうぅぅ」
剣を持って立ち上がる。
「なんだ。ルンバキアの近衛騎士ってなぁそんなもんかい」
「近衛騎士を馬鹿にするな!」
「馬鹿にはしてねぇよ。使えねぇって言ってんのさ」
「貴様っ!」
今度は水平斬りだ。
左から来る。
俺は前に突っ込む。
「!?」
左手で相手の右手首を押さえる。
これでもう振り抜く事は出来ない。
そこにまた鳩尾に右掌底。
「くはっ」
右手を引き、直ぐさま顎に掌底を突き上げた。
「かっ」
鳩尾に膝を入れてラーンは沈んだ。
両手を地面について苦しがるラーン。
脇腹に蹴りを入れる。
「がっ!」
ラーンは大の字になった。
鳩尾に何発も食らったので呼吸困難で立つ事も出来ない。
落した剣を拾いラーンの下に向かった。
綺麗な顔を踏みつける。
「ぐぅ」
「殺そうとしたんだ。返り討ちは当然だよな」
「ま、待って!」
「あん?」
「私のせいなの!私のせいでエリナが!私が枷と縄と解いたから!」
「知ってるって。それとこれとは別問題なの」
「ラーンは私の為に怒ったの!」
「いーや違うね。騎士道を馬鹿にされたから斬り掛かったのさ。公女様の為を思ってじゃねーよ」
「ぐっ」
「主に仕える事が騎士道よ!ラーンの主は私!だから責任は私に有るの!」
「そうかい」
俺はラーンの顔から靴を退ける。
「うぅ・・・」
「ラーン」
セーラがラーンに駆け寄る。
「御免なさい!御免なさい!ラーン!」
「セ、セーラ様・・・」




