⑫-29-355
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『!?』
ランタンの灯りが森から近付いて来るにつれ、両脇を俺と菊池君に抱えられて腕に矢が刺さったエリナが姿を現すと大騒ぎになった。
「エリナ!?」
「な、何があったのだ!?」
2人の目前でエリナを投げ出す。
セーラの下に倒れ込むエリナ。
「あうっ!」
「マヤ。このカラスを手当てしてやってくれ。逃がさんようにな」
「う、うん。それは良いけど・・・!?」
「説明しなさい!何故エリナを!」
「裏切者はこ奴です」
「「!?」」
「カラスに手紙を託していました」
「「手紙!?」」
「これです」
手紙をセーラに渡す。
「こ、これは!?」
「セーラ様!」
セーラは読み終えた手紙をラーンに手渡す。
近衛騎士だから横から覗き込む事など失礼に当たるのだろう。
「我々の情報を!?」
「そういう事ですな」
「うぅ・・・」
「「・・・」」
余りのショック故だろう、言葉も無い2人。
2人に顔向け出来ないからだろう、ずっと俯いて泣いているエリナ。
「どうして・・・どうしてなの・・・エリナ」
「エリナ!説明しろ!」
「うぅ・・・」
「カラスの調子はどうだ?」
「きゅ、急所は外れてるから命は大丈夫だよ」
「そうか。流石だな、マリア君」
「え、えぇ」
「ポーション使っていいから早く治してやってくれ」
「う、うん。良いけど」
「クアー!」
「そうかそうか、済まなかったな。お前に逃げられたら困る事になったんだよ」
「クアー!」
「まぁまぁ。後で肉をやるから養生してくれ」
「クア!」
「エリナ。答えて。何故なの」
「うぅ・・・」
「エリナ!答えんか!」
俺はエリナの下に行く。
「何でですかぁ~」
腕に刺さったままの矢を掴んで揺らす。
「あぁー!」
「止めなさい!」
「止めんか貴様!」
ラーンが俺の襟を掴んで締め上げる。
「締める相手が違うようですが」
「喧しい!」
「使えねぇ奴が偉そうに」
「何!?」
「スパイを同行させてた奴が偉そうな事言ってんじゃねぇ。そう言ったんですよ」
「き、貴様・・・」
「止めなさい!エリナを連れて行くように言ったのは私です!」
「で、あればその責任はセーラ様にも有りますなぁ」
「・・・」
「貴様!」
「次期大公となられるお方がどう責任を取られるのか、気になりますなぁ」
「・・・」
「言うなと言っている!」
「僕達の落ち度は攻めるくせに上の人間には頭が上がりませんか」
「貴様・・・それ以上は・・・無いぞ」
「ほぅ面白い。役立たずの給料泥棒がイッチョ前の口利くじゃねーの」
バッ
ラーンは俺を放して距離を取る。
《剣術》の魔法陣が視える。
まぁまぁ出来るようだ。
「止めなさい!ラーン!」
「殿下・・・」
「そうです!私の責任です」
「しかし殿下が幼い頃から世話をしている侍女が裏切るなど誰が予想出来ましょう」
「はいはーい。ここに居ますよー」
「貴様は黙ってろっ!」
「僕等が居なけりゃ死んでたな」
「黙ってろ!」
「お前だけだったら確実に死んでたね。多分最初の茶の毒で」
「貴様!」
「止めて!」
「・・・殿下」
「何故なの。エリナ」
「・・・家族を。人質に取られまして」
「家族を・・・そう」
「弟妹派にか」
「・・・はい」
俺は興味が無くなったのでカラスの様子を見る。
「どうだ?」
「うん。傷は塞がったよ」
「そうか。良かったな」
「カァ!」ツン
「いった!?」
「クアー!」
「しょうがないだろ、お前が手紙運んでたんだから」
「カァ!」ツン
「あっつ!分かった分かった。俺製特別燻製肉をやるから機嫌直せ」
「カァ?」
「ほら、これが俺製特別燻製肉だ」
「・・・カァ!?」ムシャムシャ
「クァー!」
「そうだろう!」
「喧しぃーわっ!」
「エリナ・・・相談してくれれば良かったのに」
「誰かに話せば・・・殺すと・・・」
「・・・そう」
「・・・申し訳・・・うぅ・・・」
「・・・腕の治療をしてあげて」
「畏まりました。おい!」
「は?」
「聞いていなかったのか!?エリナの治療をしろ!」
「依頼範囲外ですな」
「何だと!?」
「だーかーらー。護衛依頼の範囲外だって言ってんだよ役立たず」
「きっさま・・・」
「止めなさいラーン。お願い、治療をしてあげて」
「お断りします」
「何故です!?」
「裏切者を捕らえたのに労いの言葉も無く、折角捕まえたスパイに敵情報を聞く事無く治療を優先?ご自分で為されたらよろしい」
「・・・」
「マコル!殿下に何という言い様だ!」
「マコル、あなたなら矢を射らずとも捕まえられたのではなくて?」
「走って逃げようとしましたからね」
「あなたなら走って追い付けるでしょう」
「日中嫌という程走りましたからね。メンド臭かったので」
「メンド・・・それだけで!?」
「騎士道の風上にも置けん奴」
「風上だと臭かったら風下が迷惑すると思うんですけどね」
「風上にもの”も”は強調の意味だと思うわよ」
「そうなの?」
「えぇ」
「えーい!そんな事どうでも良いわ!」
「護衛であって従者じゃない」
「何!?」
「護衛として雇われたんであって、従者じゃない。そー言ったんだよ役立たず」
「・・・」
「どうした?手が剣を触りたそうにプルプル震えてるぜ?」
「きさま」
「どうした?騎士道の風上に立ってるお前に抜けるのか?」
「・・・」
「止めてラーン」
「・・・」
「マコル。あなた達がこれまで護衛してくれたのは感謝しています。でもエリナは私が小さい頃からの付き合いなの。お願い」
「そいつのせいで行く先々で襲われたんですよ」
「分かってるわ。けど」
「・・・ふん」
俺はエリナの下に歩みよる。
エリナが怯えながら後退る。
がしっと矢が刺さってる腕を掴んだ。
「あっ!」
ズボッ
一気に矢を引き抜いた。
「くっ!」
「僕等のポーション類は使いませんよ。僕等用なんでね」
「えぇ。ラーン、私達のを使って」
「しかし姫様にもしもの時は!」
「いいから!」
「・・・は」
ポーションで傷も塞がり満足な身体になったはずだが晴れない表情のエリナ。
「それで。敵の情報は?」
俺は問い質す。
「・・・知りません」
「・・・は?」
「知らないんです!」
「そんな事通じると思ってんの?」
「知らないものは喋りようが無いわ!」
「あーあー、開き直っちゃってまぁ」
「エリナ」
「傷も治したんだ。情報を引き出してくださいよ、セーラ様」
「・・・」
「エリナ。家族が人質に取られたのは分かるが、今喋っても敵には分からないだろう」
「情報に基づいた行動をされると喋ったと分かります」
「うーむ」
「って事は何か知ってるって事だよね」
「・・・」
「あー、メンドくせー。任せて頂ければ直ぐに吐かせますけどね」
「拷問という事でしょう!駄目です」
「じゃぁどーすんですか」
「・・・エリナも頭が混乱して整理がつかないのでしょう。明日。日を改めて聞けば話してくれるかもしれません」
「・・・マジか」
「・・・殿下」
「明日聞きましょう。エリナも今夜はゆっくり考えて。今迄一緒に過ごした事を思い出して頂戴」
「・・・セルラムディ様」
「魔力枷と、逃げられないよう木なり杭なりに繋いでください」
「エリナを縛れと?」
「そーですよ!何言ってんですか!?」
「殿下・・・流石に・・・」
「・・・分かりました。夜の間だけ縛りましょう」
「いや、夜だけじゃないですけどね」
「え?」
「え、って。縛らないまま箱馬車に乗せるんですか?」
「殿下。安全上それは流石に・・・」
「・・・」
「仮に箱馬車で何か有っても僕等の責任じゃありませんからね」
「・・・分かりました」
「とんだ世間知らずだ」
「黙れ!」
「どうした役立たず?」
「何を!」
「お止めなさい!はぁー、もうどうしてこうなの?」
「殿下が決断出来ないからですよ」
「黙らんか!」
「お止めなさい!」




