⑫-21-347
⑫-21-347
夕食中。
「明日、西半分を探索するとか」
「はい、然様です」
「苦労を掛けますがよろしく御願いします」
「嫌々ですがね」
「貴様!」
「何ですか?なんちゃって騎士様」
「何だと!?」
「ラーン。私の我儘でこんな事になってしまったのです」
「いいえ姫殿下。民が苦しんでいるのを見過ごすなど将来大公になる御方がなさる事ではありません。殿下は間違っておられません」
「そのせいで予定が大幅に狂ってしまった」
「止むを得ません。殿下が決断為されたのなら従うのが家臣の務めです」
「殿下がこの村にかまけてる間にもその他大勢の民が困っているんではないのですか?」
「「・・・」」
「何の為に出国されるのかは存じませんけど、それがこの国の為になる事ならそっちを優先するべき・・・あっ、失礼。そちらの事情に口を挟んでしまいましたね、失敬失敬」
「「・・・」」
「貴様等冒険者はいつもそうだ。国に忠誠を誓わず、不味くなれば他国に逃げれば良いと考え好き勝手する」
「実際不味くなったら逃げるでしょう」
「国の為に命を投げ出そうとか思わんのか!」
「投げ出す上司が居たら考えないでもないですね」
「上の者が投げ出せば国の運営はどうなるんだ!」
「若い者に任せたら良いでしょう。命を差し出せと言うのなら不味い運営をした責任を果たす為にも先ずは手本を見せて頂きたい。昨日のラーン様はお見事でしたが」
「ぐっ」
「公位継承権第1位はセーラ様なのでしょうか?」
「そうだ!」
「であれば弟妹様方は何故争われるのでしょう」
「自分達が公位に就く為だ!当り前だろう!」
「自分の為に、なるほど。手本になりますな」
「ぐっ」
「上が好き勝手しているのに下の者が従う訳ないでしょう」
「・・・」
「私は違う!」
「当然でしょう。爵位持ちなんですから」
「爵位なぞ無くても殿下を護る!それが騎士道だ!」
「ラーン様は、でしょう。ラーン様しか信頼出来る者が居なかった、だから冒険者なんぞに依頼した」
「くっ」
「あなた達の考えは分かります。しかしこの国には冒険者よりも農民や職人、冒険者以外の人達の方が多いのです。あなた方のように他国に逃げれば良いと考えている者ばかりではありません。逃げられない人の方が多いのです。そういう人達を守るのが私達の役目です」
「だったら早く行くべきだったのです」
「目の前の民を救えずして公国の民を救えましょうや」
「足元の小石に躓かないように歩いてて先の壁を見ていなかった、ってな事にならなければいいのですがね」
「やかましい!貴様等は従っておればいいのだ!」
「・・・なるほど」
「ラーン」
「で、あれば明日からの討伐、当然ラーン様が為さるがよろしいかと。勿論僕達はセーラ様の護衛に専念致します。出過ぎた真似をせず当初の契約の通りに」
「ぐぅ・・・」
「何日掛かるか分かりませんがお祈りしておりますよ、ご武運を。騎・士・さ・ま」
翌朝。
沈黙の朝食後、俺は外に出て空き家の壁を調べていた。
昨日は確かに石灰かは分からないが何らかの存在は感じた。
であれば他の成分を調べれば実験は成功するんではないか。
そんな思いで今は壁をゴリゴリ削っている。
誰にも見られない様に。
しかしそれを邪魔する者が現れる。
セーラとエリナだ。
恐らく菊池君が居場所を教えたのだろう。
「ラーン様は来なかったんですか」
「マコル・・・」
「騎士様のプライドってヤツですかね?」
「・・・」
「行きますよ。僕達としてもこんな所で時間食ってちゃ依頼達成が延びちまうんでね」
「御願いします」
セーラ等と3人で家に戻る途中。
ふと湿地を見る。
「魔物が?」
「いえ。湿地には居ませんよ」
「分かるのですか」
「ナメクジは鰓が無い。あぁ見えて水中だと溺死するんですよ」
「まぁ」
「まぁ、浅瀬には居るかもしれませんがね。今の所大丈夫です」
「見た目とは違うのですね」
「えぇ・・・」
その後俺は3人で森に入って行った。
「珍しい方ですね、マコルは」
「姫」
「あの物言いも、直言も、今迄私の周りには居なかったタイプです」
「しかし仮にも次期大公になられるお方に対しては直言を通り越して無礼です」
「本心を言っているからこそ信じられる。そう思わない?」
「・・・」
「しかし本心を言っているからこそ私とは相容れない。多少の犠牲を厭わないのは必要な時も有るのでしょうが出すべきではない」
「はい。間違っておられません」
「パーティのリーダーとしてどう思っているのかしら。マリア、セリーナ。あなた達の考えを聞きたいわ」
「個人的にセーラ様の考えは分かります」
「そう」
「しかしリーダーとして、マコルの考えが正しいです」
「・・・そう」
「目下セーラ様は御家騒動だけに集中するべきだと思います。余計な問題を抱えるべきではないと思います」
「・・・セリーナは?」
「わ、私もカ、マコルの考えに従います」
「従う?」
「彼は常にパーティの安全を考えて行動しています。それに実際に襲撃は有りました。追っ手を考えて先に進むべきと心得ます」
「・・・そう」
「自分の考えは有ってもリーダーには逆らえんのか」
「ラーン様に言われたくはありません」
「むっ」
「本来ならあなた様がお諫めすべきでしょう」
「・・・」
「あなたも厳しいのね。2人は貴族が嫌い?」
「はい」
「・・・そう」
「何故だ?」
「逆に聞きたいです。好きな人は居るんですか?ただ従えと言う相手に」
「「・・・」」
「私とマーラは貴族に無理矢理奴隷にされそうになりました」
「「えっ」」
「マコルがリーダーとしてパーティを率い、危険から逃れました」
「「・・・」」
「マヤは貴族に奴隷にされそうになり妹を殺されました」
「「えっ」」
「マコルがリーダーとしてパーティを率い、マヤだけは助ける事が出来ました」
「「・・・」」
「セリーナも騎士に殺されそうになり、パーティで助けました」
「「・・・」」
「いずれも私達に非は有りません。貴族様の”ただそうしたい”という思いだけでそうなったんです」
「「・・・」」
部屋の隅で侍女のエリナが俯いて会話を聞いていた。
「ブッシャアァァ!」
ナメクジンの駆除は効率良く遂げられている。
俺が囮として《偽装》した《罠》に誘い込み《罠》に掛かって転倒した先に土魔法で作った《罠》に拘束される。
拘束される直前からサーヤ君が《吸精》して大人しくさせる。
俺は頭部に窯を作りマヌイが《火炎流》で仕留める。
置き餌に集っていた複数のナメクジン相手でも変わりはない。
1つ1つ距離を置いて《罠》を設置して順番に罠に嵌めれば良かった。
僕達は順調に狩りをしていた。
「ラーン様は一昨日、私達が助けなければ死んでいました」
「セリーナ!」
「あなたはどう思ったのですか?姫殿下を護って死にたい、そう思ったのではないのですか?」
「う」
「魔物相手に死にたくない、そう思わなかったのですか?」
「・・・」
「ただでさえ暗殺者が狙っているのです。そいつ等から殿下を護りながら死ぬのなら名誉ある死でしょう」
「・・・」
「勿論殿下の命令の下、それを遂行中の死も名誉あるものでしょうが、だがナメクジ相手に食われて死にたくはない。そう思わなかったのですか」
「ラーン」
「殿下はラーン様に甘える事無く、ラーン様に相応しい死に場所を与える事も必要だと存じます」
「セリーナ」
「いやぁー。狩った狩った。20匹以上か?」
「そうだね。探り探り始めた昨日より少し多いくらいだけどその分広い範囲探してこの数だからもう大丈夫じゃないかな」
「えぇ。そう思うわ」
「じゃぁ討伐依頼は達成だな」
「うん」
「そうですね」
「お金になんないけどね」
「上乗せしてもらわんとな」
「最近タダ働きが多いですね」
「どうしてこーなった」
「まぁ貯えが有ったから良かったけどねぇ」
「あの村じゃぁ謝礼は期待出来んしな」
「騎士に騎士道が有るように王にも王道が有るものと思います」




