⑫-20-346
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「よーし。新たなナメクジン感知!」
「「了解」」
「今度は石灰弾を試すから触れない様に離れて観察してくれ」
「「了解!」」
俺は次の標的に向かって駆け、手袋で石灰弾を掴み、接近してそいつの頭部に投げ付けた。
「ブッシャアアァァァ!」
ジュオジュオジュオ・・・
「なっ、なんか煙出てるぅ!?」
「すっごい苦しそうです!」
「石灰弾は水に反応すると熱を出すんだよ、高熱を」
「「へー!?」」
「体の90%が水のナメクジには覿面だねぇ!」
ようやく歩ける程度の骨しかないので苦しんで藻掻く身体を支えきれず地面にのたうつナメクジン。
いや、普通の人間でもこうなるか。
「昨日も火には近寄って来なかったからねぇ」
「熱に弱いんですね」
「そうだね」
そうこうしている間にナメクジンは地面でピクピクとしていた。
「そろそろトドメを刺そう」
トドメを刺して魔石と討伐証明を取った。
「山刀がぬめぬめだね」
「ムチンのせいだ」
「「ムチン?」」
「タンパク質という僕達の体を構成しているものの一種だ。そしてタンパク質は熱で固まるから温めれば取れ易い」
「「へー」」
「卵の卵白は温めると固まるだろ」
「「なるほどー」」
「熱と言えば、次はマヌイの火魔法でやってみるか」
「そうだね!」
「誰も居ませんし、丁度良いわね」
「うん!」
またナメクジンの死骸は放っておいて次の獲物を探し出す。
次の獲物を見付けてマヌイは近付いた。
ナメクジンの動作は緩慢で隙を衝いての詠唱もし易いみたいだ。
「《火炎流》!」
マヌイの目前から火の奔流が放たれた。
凄い勢いだ。
やはり魔法の中で火魔法が1番派手だな。
4m程の放射はマヌイのコントロールによって動きの緩慢なナメクジンに確実に命中している。
「ブジュルアアァァァ!」
ナメクジンは水分が多いから燃える事は無いがそれでも高熱により細胞が破壊され確実に弱っていっている。
地面に倒れてもしばし火を浴びせ続けると魔力反応は無くなった。
「凄いな!」
「ホントです!」
「やったぁ!」
「火魔法のレベル上げに丁度良いんじゃないか!」
「そうだね!」
「次からずっと火魔法で行きましょう!」
「僕も土魔法で援護しよう」
「「土魔法で?」」
「転倒させて固定する。空気中だと熱が拡散するが地面に寝てる相手に放射すれば地面から反射してよりダメージを与え易いだろう」
「「なるほど」」
「倒せる時間が短縮出来るんだね!」
「そういう事だ!」
魔石を取り出し死骸を放って次の獲物を探す。
「《巨人の中指》!」
ズボッ
「グブッ!?」
地面から突起物が出てナメクジンの身体を下から突き上げる。
勢いに転倒させられ地面に大の字になるナメクジン。
《巨人の中指》はそのまま土の鎖となってナメクジンを地面に固定した。
「《火炎流》!」
固定された頭に向かって火炎が放射される。
「プバアアアァァァ!」
俺は徐々に頭を土で覆って窯状にする。
効率的な熱の放射でさっきよりも短時間で殺す事が出来た。
「楽になったね!」
「時間も短くなりましたし!」
「《罠》を使っても良いな。サーヤ君は《吸精》で吸っても良いんじゃないか?」
「そうですね!」
「このままどんどん行くぞ!」
「「おー!」」
「あ、最初の餌撒いた所に戻ってみるか」
「そうだね。そろそろ集まっているかも」
「でも複数居たら大変じゃありません?」
「木酢鉄砲と石灰弾で足止めしよう。《罠》や《吸精》もあるしな」
「そうですね」
そうやって複数が居ても効率的に殺す事が出来るようになった。
狩りを終えて村に帰る。
「うん?何やら村が騒がしいな」
「マコル達が帰って来たのですわ」
「帰って来たか」
「無事だと良いのですが」
「見に行って来ます」
「私も行きましょう」
セーラ達が家から出ると人だかりが出来ているのが分かった。
その中心には、
「マコルさん!こっ、こんなに討伐を!?」
「えぇ。まぁ~ざっと20匹は居ますよ」
「に、20匹!?」
「今日は東半分を探しましたんで、明日は西半分を探すつもりです」
「えぇ、えぇ!よろしくお願いします!」
「あっ!討伐証明部位は数え終えたら返してくださいね。あと魔石は僕達がいただきますよ」
「そ、そうですか。勿論構いませんとも」
「それと木酢液と石灰の補充をお願いします。明日必要になるんでね」
「分かりましたとも!」
人だかりを離れセーラの下に向かう。
「御無事で何よりです」
「どーも」
「20匹も狩ったとか」
「まぁね。プロですから。使えるでしょう」
「ぐっ」
「変わった事は無かったか?」
「えぇ。何も無かったわ」
「情報のすり合わせはマーヤ君とマヤから聞いてくれ」
「どこか行くの?」
「今日使った物の補充をね」
村長から木酢液と石灰をもらって作業をする。
その間考え事をしていた。
石灰は漆喰やセメントの材料の1つだ。
生石灰では無く消石灰だが。
《鍛冶》スキルでより純度の高い生石灰を得られるようになったがそもそも貝殻であれば《皮革》でも良かったのでは?
いや、《皮革》は素材の良さを活かすスキルだと聞いた。
では《鍛冶》で生石灰が効率的に得られたのは何故か。
恐らく無機化合物を扱うという事なのではないだろうか。
土を扱う土魔法。
土といっても様々な成分が含まれている。
それらに共通するものは恐らく無機化合物という事だろう。
土魔法と《鍛冶》は相性が良いと言うのはそういった事だからだろう。
・・・違うか。その理屈で言えば”自然の水”も操れそうだもんな。
水魔法の意味が無い。
下手をすれば空気も操れる事になる。
であれば無機化合物を操るというのも違うのか。
水魔法は無から水を発生させる事が出来る。
土魔法は無からは土を発生させる事は出来ない。
あくまで土を操るだけだ。
《水想造》にちなんで《土想造》って名付けたが全く意味が違ったな。
名前を変えたいがもう馴染んでしまったから難しいだろう。
考えれば考える程分からなくなる。
しかし生石灰を扱えるというのならこの壁も操れるという事ではないか?
この壁は石灰が使われているだろう。
壁に手を当て石灰を感じ取ってみる。
石灰を感じる事は出来ないが何かしらの反応を感じる事は出来た。
石灰が壁に溶け込んでいるからだろうか。
そうだとすれば恐らく石灰を《鍛冶》で扱ったからだろうか。
あるいは単純に《鍛冶》と土魔法のレベルが低いからか。
しかし感じ取れたという事は少々操る事が出来るのでは?
壁を破壊、とは言わないまでも結合を弱くする事、或いは・・・
自分と壁を吸着させてみる。
《魔力操作》で自分と石灰の魔力の吸着を意識する。
僅かだがくっ付くのを感じる。
いける!
俺は足を踏み出し壁を登ろうとした。
ズゴッ!
後頭部から地面に落下した。
「夕飯出来るわよ!って何してんの!?」
「ぐおおぉぉ!」
しばらく地面に頭を抱えながらゴロゴロと転がる男がいた。




