⑫-16-342
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俺は反応が有る場所に急いだ。
更に道から外れ更に整備されていない道がある。
そこは村だった。
湿地帯から少し離れて村落が形成されている。
藪に潜み望遠鏡で様子を窺う。
働いているのであろう村人達を発見出来た。
村人達の雰囲気は暗い。
北部は戦争やら専横やらの影響が大だったがここらの街では比較的小さいと思ったのだが。
兎も角戻って姫殿下に報告だ。
「村ですか」
「はい」
「怪しそうか?」
「そこまでは」
「使えん奴だ」
「一両日ほど頂ければ探って参りますが」
「そんなに必要か?」
「遠くから見ただけで怪しいか分かれば宮廷抗争も楽でしょうな」
「何だと!?」
「御止めなさい。確かに遠くから見ただけでは分かろうはずもありません」
「・・・は」
「このまま野宿をするか、村で宿を借りるか」
「姫殿下に野宿は御身体に障ります、宿を借りるべきです」
「マコルは」
「野宿すべきです」
「理由は」
「最悪、村人の中に暗殺者が紛れ込んでると考えると野宿の方が我々としては対処し易いです」
「ふーむ」
「野宿では疲れは取り辛いです。宿でベッドで寝るべきです。それに護衛なのだから対処がお前達の仕事だろう」
「その通りですが、姫殿下の安全第一を考えるのなら襲われる可能性の低い野宿にすべきです」
「私だけでなくエリナも居ます。村に行きましょう」
「「畏まりました」」
湿地を遠目に眺めながら村への道を往く。
殆ど使われていないので平坦になっておらず馬車がかなり揺れていた。
大きくない村に対して柵は頑丈そうだ。
村の中からでも箱馬車が見えていたのだろう、こっちを探るように見ている者が多数。
箱馬車=貴族であるから先程俺が遠目に探っていた時よりも更に顔を顰めてこちらを見ていた。
何かトラブルがやって来た、といった感じか。
村の中に入らず入り口の木柵の前で停まる。
害意は無いと表す為だ。
ラーンが村民に叫ぶ。
「村長と話がしたい!」
やがて村長らしき壮年の男がやって来た。
「何用でご座いましょうか」
村長も警戒の面持ちだ。
「一晩厄介になりたい。宿か、空き家を貸して貰えないだろうか。勿論礼はする」
「はぁ・・・少々相談をしても?」
「あぁ。構わん」
村長は引っ込んで行った。
相談をしているのだろう。
やがて戻って来た。
「この村に宿は有りません。空き家でよろしければお使い下され」
「かたじけない。厄介になる」
「これ!木柵を開けて差し上げろ!」
案内される時にラーンだけ名乗った。
あくまでラーンが主人でセーラは妹か親族を装うようにした。
村に入って1軒の家を案内され馬を繋ぎ中に入る。
狭い家だった。
「もう1軒借りるか?」
「いえ、離れる方が護衛出来ません。狭くとも一緒に居るべきです。我々は床に寝ますからお気遣いなく」
「大丈夫か?」
「野宿は慣れていますので」
「そうか。では食事にしよう」
夕食後に近付く気配がした。
トントントン
「誰か」
「村長でご座います。お話ししたい事がありまして」
「どうされます?」
「・・・宿を借りたのです、聞きましょう」
「入れ」
「はい」
狭い家が更に狭くなる。
「ラーン様にお願いしたい事が有りまして」
「何かな?」
「実は・・・今村は魔物の被害に苦しんどりまして」
「魔物?」
「はい。死人も出とります」
「何と。して、魔物とは?」
「ナメクジンです」
「何と!」
「「ナメクジン?」」
(名前からして嫌な予感がする)
(私もよ)
「魔物の討伐を、という事かな?」
「さ、然様で」
「う~む」
「どうでございましょう」
「ラーン様、よろしいでしょうか」
「何だマコル」
「冒険者ギルドに依頼すればいいのではありませんか?」
「うむ、何故ギルドに依頼しない?」
「か、金が有りませんで」
「う~む」
「ラーン様、急がねば父君の死に目に会えませんぞ」
「う、うぅむ」
「ち、父君がご病気で!?」
「う、うむ」
「姉上、よろしいですか」
「何でしょ、何かな」
「少々お話を」
「うむ。村長、悪いが外して頂けるか。身内で話し合いたい」
「わ、分かりました。よろしくお願いします」
村長は出て行った。
「セーラ様、如何なされました」
「助けたいと思います」
「反対です」
「マコル」
「一刻も早くソルスキアに行くべきなのにこんな所で油を売っていてはそれこそ追っ手に追いつかれましょう」
「然様です、セーラ様。追いつかれる前にソルスキアに入るのが我々の喫緊事です」
「困っている民を無視して行けましょうか」
「民を救うのがこの旅の目的でしょうか」
「マコル。最終的に民を救うのが私の目的です」
「今はその時ではないと存じます」
「大事の前の小事だと?」
「然様です」
「大いなる目的の前では多少の犠牲は止むを得ないと?」
「然様です」
「まぁ」
「控えろ!冒険者の分際で!」
「戦争では必ず人が死にます。犠牲を考えるのは大事ですが犠牲を恐れては戦争には勝てません」
「分かった風な事を言うな!」
「これは戦争ではありません」
「これ、というのは村ですか、継承争いですか」
「む」
「多少の犠牲、というならエリナさんの毒見も必要無いのでは」
「そこまでだ!貴様は以後我々の事情に口を挟むな!」
「であれば私達も姫殿下の護衛以外はいたしませぬ」
「素よりその契約だ!」
「畏まりました」
「殿下、今は一刻も早く向かうべきです。目的を達した後にでも討伐隊を派遣するなりすればよろしいでしょう」
「それでは間に合わないかもしれません。死者も出ているとか。私達に出来る事が有れば助けるのが人の上に立つ者の務めでありましょう。追っ手も通常の街道から外れたこの村まで来るとは思えません」
「殿下・・・」
「頼みます、ラーン」
「・・・畏まりました。マコル、村長を呼べ」
「依頼の範囲外ですな」
「貴様!・・・くそっ」
ラーンは自分で村長を呼びに行った。
「おぉ!討伐して頂けるので!?」
「うむ。困っている民を助けるのも貴族の務めだ」
「ありがとうございます!」
「村長さん、少しよろしいですか」
「護衛の方ですか、何でしょう」
「ナメクジン、というのはどういった魔物ですか」
「ナメクジンはナメクジの魔物です」
「「やっぱりー!」」
「人の大きさもある大きなナメクジでして」
「「ぎえー!」」
「人の様に2本足で立って歩きますのじゃ」
「「・・・はっ!?」」
「ナメクジが・・・歩く?」
「えぇ。しかも足音はしないのでいつの間にか近寄られて食いついてきよります」
「「・・・ゴクリ」」
「しかも噛まれると麻痺して生きたまま食われますのじゃ」
「「ゾゾォー」」
「身体も柔らかく、戸が少し開いていればそこから家に入って来て寝ている者をそのまま・・・」
「「やだぁー、怖い!」」
「ですから今夜も戸締りには気を付けて下され」
「「はい!」」
村長は帰った。
「討伐には反対ではなかったのか」
「然様です。護衛上、魔物の情報を得たまでです」
「ふん」
「ラーンだけで大丈夫ですか」
「御安心下さい。伊達に近衛騎士になった訳ではありません」
「気を付けて下さいね」
「御任せ下さい」




