⑫-09-335
⑫-09-335
「お待たせしました」
「うむ」
「それで・・・替えるという選択肢は。私達も貴族の護衛は初めてでして」
「ありません。先程も申した通り、時間がありません。このまま出発致します」
「セーラ様」
「よろしいのでしょうか?私達は貴族と接する機会は無かったので礼儀も弁えません。それに護衛となるといざという時に失礼を働くかと」
「構いません、非常時です。礼儀に拘って目的を逸すれば本末転倒です」
「ですがセーラ様」
「ラーン。これから信用出来る者を集められるのですか?」
「・・・いえ」
「ならばフリーエを信ずるより他ないでしょう」
「・・・はい」
「あなた達を護衛として雇います」
「はぁ~。なんてこったい」
「では契約書を交わそう」
「はい。その前に質問が」
「何だ」
「護衛はセーラ様だけですか」
「そうだ」
「いえ、このエリナもです」
「侍女も?」
「えぇ」
「侍女も同行、ってまぁそうか」
「御嬢様。私は結構です」
「エリナ」
「私を守る事でセーラ様が疎かになってはなりません。セーラ様だけを御守り下さい」
「はぁ。何人で行かれるのですか?」
「私含め3人だ」
「・・・たった3人。他に護衛は?」
「居ない。極秘に発つのだ。お前達もそのつもりでな」
「はぁ」
「報酬は依頼達成後に支払う。具体的な金額の提示は今は出来ない」
「えっ」
「フリーエ様から聞いてなかったのか?」
「あのババア!」
「貴様!フリーエ様をババアとは!」
「申し訳ありません、マコルさん」
「セ、セーラ様!?」
「冒険者であれば明確な報酬提示が必要でしょうが今は込み入っていまして。依頼達成した後に必ず支払いますので待って頂けますか」
「セ、セーラ様!冒険者如きに!」
「その冒険者に助けてもらうのよ、ラーン」
「くっ」
「如何かしら」
「期待して宜しいのですかね?」
「き、貴様!」
「えぇ。お約束します」
「はぁ~。分かりましたよ」
「何たる態度だ!」
「ラーン。冒険者は命の対価で金銭を得ると聞いています。あやふやな報酬は彼らに失礼でしょう」
「ぼ、冒険者にセーラ様が気を回さずとも」
「そうですね。気を回すのはラーンさんの役目ですね」
「貴様!」
「ラーン」
「ぐっ」
「契約を詰めましょう」
「目的地は」
「・・・ソルスキア王国だ」
「何の為に行くか聞いても」
「話せない」
「でしょうね。ではセーラ様の護衛をソルスキア王国までという事で」
「うむ。詳しい事情は聞かない様にな」
契約を交わし早速出発の準備に取り掛かる。
「馬車は此方で用意する」
「僕等の馬車も「いや」」
「あの様なみすぼらしい馬車では怪しまれる。荷物用馬車を此方で用意する」
「荷物用?」
「お前達は徒歩でついて来い」
「徒歩!?早くソルスキアに行きたいなら馬車に乗って行かないと」
「速く歩くのだな」
「はぁ!?」
「何だその態度は!」
「疲れたら護衛出来ねぇだろぅが!」
「何とかしろ!」
「バッカじゃねーの!」
「何だと!」
「ラーン」
「しかしセーラ様!」
「ラーンの言う通り、箱馬車の後ろにみすぼらしい荷馬車だと怪しまれましょう。申し訳ありませんがあなた方の馬車はここで置いて行きます。ただ、疲れない様に馬車を遅めに走らせるので我慢して頂きます」
「・・・承知しました」
「彼らの馬車は預かってね」
「畏まりました」
馬2匹立ての箱馬車にセーラ、ラーン、侍女のエリナが乗り込んだ。
「御者をしろ」
「はぁ!?そっちで用意しろ!」
「貴様!」
「契約に入ってねーぞ!」
「何だと!」
「だーかーらー!契約に入ってねー!っつってんだろーが!」
「貴様!ゆる「ラーン」セーラ様!」
「マコルさん。申し訳ないのだけれど御者を用意出来なかったの、して頂けないかしら」
「・・・報酬の上積みを」
「いいでしょう」
「セーラ様!」
「セリーナ。頼めるか」
「分かった」
「くっ!」
箱馬車の後ろに荷物用の馬車が。
それの御者はサーヤ君が務める事になった。
「将来【ランク】が上がったら《馬術》を取ろうと思いまして」
「そうなの?」
「はい。魔力が多いですから長時間の移動でも大丈夫かと」
「なるほどねー。考えてるんだな。凄いぞ、サーヤ君」
「はい!」
「じゃぁ、頼んだよ」
「はい!頑張ります!」
僕達は屋敷を出発した。
通常街の中は馬車に乗れないが箱馬車は別だ。
セーラ以下3人は動き易い格好をしている。
特にラーンはパンツスタイルの男装だ。
騎士装備は着ていない。
俺と菊池君とマヌイは歩いて、サーヤ君は荷馬車を曳いていた。
ソルスキア王国に向けて南門から出る。
箱馬車は貴族だけが使用出来る。
その為、入出街の列に並ばず迅速に門を潜れる。
そのお付きの荷馬車も同様に軽いチェックだけで済まされた。
門を出てサーヤ君が御者台に乗り、2台の馬車は南街道を走る。
目指すはソルスキアとの南東国境街、アルビジェ。
僕等3人は早歩きで移動していた。
箱馬車に聞こえない様に話をする。
「はぁ~、とんでもない事になったな」
「お姫様を護衛ってねー」
「王族ってこんな簡単に会えるものなの?」
「菊池君のイメージは絶対王政の王族だろう」
「・・・まぁね」
「封建社会の頃はこんな感じだったんじゃないかな」
「ふーん」
「それより護衛任務だよ」
「そうよ、どうるすの?」
「街道はまだ良いとして、問題は街中だ」
「宿に泊まるんなら値段も格も高い所だろうし」
「値段不相応な奴等が居たら要チェックだな」
「誰に狙われてるんだろ」
「狙われてるのかしら」
「勿論だろう」
「何故?」
「狙われていないんだったら、それこそ近衛騎士に護衛させればいい。信用が大事と言っていた。近衛騎士も信用出来ない事態なのかもしれん」
「なるほどね」
「とすると内部抗争かなぁ」
「恐らくな。次期大公の公女とその後見人の大臣の専横、その辺りだろう」
「次期国主争い。大臣が狙ってるって所かしら」
「その辺の事情は知らないから何とも言えんが。次期国主争いなのは確かだろうな」
「はぁ~、怖いわね」
「僕達は今その最前線に居るって訳だ」
「・・・ちょっと!大丈夫なの!?」
「今更かよ」
「いざとなったら全力出すよ?」
「・・・成長したな、マヌイ」
「うん!」
「街道を行ってる間は僕の《魔力探知》があるから君等は気を抜いて大丈夫だ。街中で気を張ってくれ」
「「分かった」」




