⑫-08-334
⑫-08-334
ドドドドドドド
僕達はルンバキア公国公都、オラキアに向かっていた。
ジョゼフィーヌはフリーエさんに預けて来た。
危険な任務という事で足手纏いにならないようにだ。
「そういやさ」
「ん?」
「菊池君も【ランク】上がった時に何のスキル習得するか考えときなよ」
「【ランク】上がったらかぁ」
「僕が上がったから次は菊池君。もしくはケセラの可能性もあるか」
「私は魔物討伐は軍ではそれほどしていないからミキの方が早いと思うぞ!」
「そうねぇ」
「生産スキルはもういいよねぇ」
「何か希望は有るんですか?」
「うーん。《馬術》も良いなって思ってる」
「ケセラが持ってるぞ?」
「ケセラだけだと不自由じゃない?ずっとケセラだとケセラが休めないし」
「そうだよねぇ」
「あとは伝書鳩使えたらなぁって」
「なるほどな」
「でもギルドとかに伝えるんでしょ?要るかな?」
「商会で飼育するんだよ。そうすれば商会ネットワークで伝達出来る」
「なるほどー」
「実際、大手の商会は伝書鳩を使っているぞ!」
「そうなんですね」
「行商人の僕達には必要かもな」
「でしょー」
「お前はどう思う!?」
「ブオオォォ!」
「良いんじゃないかって」
『ホントに!?』
「ケセラ!オラキアについて詳しく!」
ルンバキア公国公都オラキア。
東隣のソルトレイク王国から重要な塩が運ばれて来、そこから西へ南へ運ばれる為にバルキア平原の要衝として栄えた街だ。
人口こそ西のムルキアに劣るものの、塩の道の中でも重要な拠点でもある為にその街壁は2重になっている。
即ち、外壁と内壁。
その外壁を今通ろうとしていた。
「高さはムルキアと同じくらいか」
「張り合っていたからな」
「なるほどねー」
「公都といってもムルキア程人が居ないね」
「うん、今はな。政治的な理由だな」
「あっ、大臣「しっ」?」
「あまり大声で言わない方が良い」
「そうだね、門衛が居るしね」
「なるほど。身体チェックは他の街と一緒で壁の外でやるんだな」
「それはそうだろう。中でやって暴れられたら意味無いだろう」
「だな」
やがてチェックが終わり入街税を払い外壁の門を潜る。
外壁と内壁の間は10m程はある。
「流石公都って感じの外観だね」
「ホントね。外壁は2重だし、高いし」
「やけに物々しいですね」
「勝ったとはいえ戦争だったからな」
「警戒してるんだねぇ」
「流石一国の首都だねぇ。この街を落すのはかなりの兵力が必要だよ」
内壁の扉も潜って街内へと歩む。
「街の中も物々しいねぇ」
「衛兵やら冒険者やらをやたら見かけるな」
「依頼は明日よね?」
「そうだ。明日、指定の場所に指定の時間に向かう。そこで詳細を聞く段取りだ」
「じゃぁ、今日は観光でもする?」
「そうだね。国外への護衛らしいから食料も買っておこう」
今日は公都を観光をする事にした。
「ムルキアみたいに中央通り中央広場は無いんだね」
「うん、ただ凱旋門に似たような物は有る」
『えっ』
「もう直ぐ見えて来るだろう」
しばらくメインストリートを進んで行くと見えてきた。
「おっきな像だねぇ!」
「人物像か」
「ただ立ってるだけね」
「でも大きいですわ」
「ムルキアの凱旋門に対抗して作ったそうだ」
『・・・』
「別に対抗して作る必要なくね?」
「そうよね」
「わ、私に言われてもな!」
「まー、そうだけどさ」
「誰なの?」
「ルンバキア初代大公だ」
『ふーん』
「大公というと?」
「建国王生前時の公爵がルンバキア地方を治めるようになって、建国王に憚って王を名乗らずに大公を称した。ベルバキアもベオグランデも同様だ」
『ふーん』
観光を終えて食料を調達し宿に泊まった。
明くる朝。
馬車を曳きながら目的地に向け歩いてゆく。
そこは貴族区らしく、一般人はあまり見掛けない。
貴族も殆ど見掛けないのですいすいと目的地の屋敷に到着した。
「貴族の屋敷だったとは」
「キルフォヴァの街主の屋敷みたいに広い敷地は無いんだねぇ」
「街主だからな。公都オラキアは数多の貴族が屋敷を構えるから貴族区が有るんだが、それでも広い敷地を持てるのは位の高い貴族に限られるんだ」
『ふーん』
「っと、ここだな。着いたぞ」
まぁまぁの大きさの屋敷の前に立った。
戸を叩く。
使用人だろう男が出て来て用件を告げると中へ案内された。
馬車は預かってくれると言う。
冒険者はあまり歓迎されないのだろう、使用人の男はそういう態度だった。
「御嬢様、冒険者が参りました」
「通せ」
僕等は客間に通された。
そこには上座に1人で獣人の少女が座っており、下座に女性が1人座っていた。
少女の後ろに1人使用人だろうか、女性が侍っている。
使用人の服装からしても高貴さが窺える。
ましてや少女のは、
「高そうだね、サーヤ君」
「はい。かなり」
使用人の男が下座の女性に近づきフリーエさんから持たされていた紹介状を渡した。
「うむ、間違いない。結構だ、こちらに来てくれ」
「はい」
女性に対面する。
少女は左側に座っている。
「私はラーンだ。名前を聞こう」
「マコルです」
「マリアです」
「マーラです」
「マヤです」
「セ、セリーナです」
「掛けてくれ」
「お先にどうぞ」
「うむ」
「フリーエ様から何処迄聞いているかね?」
「重要人物を国外に移送する護衛だとしか」
「そうか・・・その護衛とはこちらに御座す御方だ」
「そうですか」
「うーむ、正直・・・その、もっと見た目が・・・な」
「えぇ、分かります。僕等もなんで選ばれたのか」
「そう・・・なのか」
「はい」
「ブラックドッグを討伐したと書いているが」
「仲間に恵まれました」
「悪魔も討伐したと」
「ラッキーでした」
「キルフォヴァ防街戦で活躍したと」
「フリーエさんの指揮が良かったのです」
「むむむ・・・」
女性の顔が更に曇る。
少女は動じない。
侍女は無表情を崩さない。
「今からでも人選を代えられたら如何でしょう」
「今からでは遅いのだ!」
「えー、そう言われましても」
「うむぅ・・・どうすれば・・・」
「構いません」
「セ、セーラ様?」
「フリーエが推挙したのであれば信じましょう」
「で、ですがっ!」
「最早猶予は有りません、替える時間など無いでしょう」
「そうなのですが」
(カズヒコ。ちょっと)
(ケセラ?分かった)
「ちょっと、私達も相談が有るので外させていただきます」
「良いでしょう」
「セ、セーラ様」
「失礼」
僕等は隅に移動した。
「どうした」
「あのラーンとかいう女、ルンバキア公家近衛騎士だ」
「「「「近衛騎士!?」」」」
「しー!」
「「「「(はっ)・・・」」」」
「ケセラ」
「うん」
「この世界の常識を知らないから間違ってたら訂正してくれ」
「うん」
「近衛騎士って王族を護衛する騎士だろ」
「その通りだ。公国騎士の中でも特に忠節篤い者が公家近衛騎士となる」
「そんな奴がなんで?」
「あの女はラヴィアン・ブルーフだ」
「・・・ブルーフ」
「その通りだ。レヴィアン・ブルーフの妹だ」
「・・・通りで似てると思ったよ」
「嘘言わないでよ。今気付いたでしょ」
「その公家近衛騎士が護るのは当然・・・」
「公族だ」
「じゃぁ、あのセーラって娘は」
「セーラ。恐らく次期ルンバキア公国大公、セルラムディ・ドゥラグレ様だ」
「「「「げぇっ!?」」」」
「どうした?」
「い、いえ!何でもありません!」
「静かにしろと言っただろ!」
「し、仕方ないだろ!姫様だぞ!」
「そ、そうよ!」
「ビックリだよ!」
「仕方ないわ!」
「ま、まぁ、そうだが」
「間違いないのか!?」
「公女様を拝見した事は無いがラヴィアン・ブルーフは有る」
「「「「はぁ~」」」」
「次期国王を護るぅ?キナ臭さしかないぞ」
「ホントね」
「何で私達なの?近衛騎士で護衛すればいいんじゃないのかなぁ」
「訳ありですね」
「だろうな」
「国外への移送、亡命か?」
「「「「亡命?」」」」
「違うか、国内はそこまで混乱してるようには見えないし」
「うん、オラキアも気が立ってるようには見えるが戦争だった訳だしな」
「分からないわね」
「でも護衛だから危ないのは違いないねぇ」
「そうねぇ」
「よし、席に戻るぞ」




