⑫-06-332
⑫-06-332
それからは実験を繰り返して野営をした。
翌朝、ムルキアには戻らずブラックドッグの事件の村に向かった。
孤児の件だ。
「これはマルコさん!お久しぶりです、という程でもありませんね!」
「マリオンさん、変わりないようで」
「はい。その節は御世話になりまして」
「あの子は居ますか?」
「あの子?」
「黒猫の、目の見えない」
「えぇ。呼んで参りましょう」
「いえ、僕等が行きますよ」
「お兄ちゃん!来てくれたの!」
「コイツが会いたいって言ってさ」
「ニャー!」
「キャー!」
「ジョゼフィーナ。ジョゼって名前を付けたんだ」
「ジョゼ!良いじゃない!良かったわね!」
「ンナ」
「元気そうで良かったわね!」
「ンナー」
「僕の作った特製燻製肉を食べてるからね。そうだ!後で院にも卸しましょう」
「まぁ、有難う御座います」
(あの子の目の調子は)
(・・・いえ)
(・・・そうですか)
「毛並みも良くなったんじゃない?」
「ンナー」
「どうだい?安心したかい?」
「うん!元気そうで良かった!ちょっと太ったみたいだしね」
「俺製燻製肉をマリオンさんに預けておくから食べてくれよ」
「ありがとー!」
「ところで反響定位って知ってるかい?」
「はんきょうてーい?」
「そうだ。舌で音を鳴らして周りの様子を探る技術だ」
「ふーん」
「目が見えなくても周りが分かるんだよ」
「へー!?」
「壁に向かって舌を鳴らした時と何も無い空間へ鳴らした時と音が違うだろ?」
「チッ・・・チッ・・・。少しね」
「響き方や反射で分かるらしいんだ。僕の故郷ではこの方法で外を歩けるようになったって人も居るんだよ」
「へー!」
「少し練習してみたらどうかな?」
「うん!やってみる!笛の練習と一緒にやってみるよ!」
「・・・そうか。笛は楽しいかい?」
「うん!見えないからまだ穴を押さえづらいけど」
「・・・そうか。でも楽しいならいつか上手く吹けるようになるよ」
「うん!がんばるね」
「またおじさんに聴かせておくれ」
「おじさんって。うふふ、まだお兄さんでしょ?」
「あ、あぁ」
「ンノー」
「お前が否定するんじゃないよ」
「うふふ」
別室でマリオンさんと話している。
「そうですか、キルフォヴァに」
「えぇ。北側の村はほぼ壊滅です」
「・・・お気の毒に」
「ここらは大丈夫でしょうが、一応気を付けてください」
「はい。しかし私達に出来る事は少ないのです」
「僕達商人ギルドに加入しまして」
「はい?」
「行商しながら冒険者する事が出来るようになったんですよ」
「は、はぁ」
「それで僕等と取引してくれる商会を探してるんですよ」
「は、はぁ」
「ムルキアにウリク商会という商会と知己を得まして」
「はぁ」
「何か有ったらウリク商会を頼ってください」
「えっ!?」
「話は通しておきますから。僕達の名前を出せば保護してくれると思います」
「マ、マルコさん・・・」
「将来的に年長者からウリク商会に雇ってくれるよう頼んでみますよ」
「何かスキルを習得したいって子もいいんじゃない?」
「そうだな」
「生産スキルとか良いかもねー」
「そうねぇ」
「騎士になりたいって子も居るかもしれないぞ」
「みなさん・・・」
「今直ぐには無理でしょうが近い将来実現させてみせますよ」
「あ、ありがとう・・・ござい・・・ます」
「お金は足りてますか?」
「は、はい。前回寄進頂いたのでまだ余裕が有ります。それに今度から私が寄付集めの旅に出ようと思っています」
「その必要は有りませんよ」
「え?」
「女性の旅は危険ですよ。マリオンさんは子供達に文字や礼儀なんかを教えてください」
「文字ですか」
「商会に雇われてから文字を習うより、孤児院で習っていた方が良いでしょう」
「そ、そうですわね」
「マリオンさんは教育に時間を割いてください。お金が足りなくなったらムルキアのウリク商会に手紙を出してください。僕等が出しますので」
「マルコさん」
「将来的には僕達の商会で働いてもらうかもなー」
「そうね」
「でもその前に商会をおっきくしないと雇えないよー」
「今のままじゃ無理ねぇ」
「行商だしな」
「今度ここに来る時、木彫りセットや裁縫セットでも買って来るか」
「それで親しんでやりたい事見つけてもらいましょう」
「それじゃぁ、マリオンさん。また来ますから」
「はい。お待ちしていますわ」
「教育の方、よろしくお願いしますね」
「お任せ下さい。直ぐにでも始められますから」
「では。おーい、行くぞー」
「ニャー」
「お兄ちゃんたち、また来てねー!」
その日の内にムルキアに戻って来た。
ウリク商会に孤児の件を相談する。
「ふーむ、孤児を」
「えぇ。費用はラグリ商会で負担しますのでウリク商会は仕事や師匠となる職人の斡旋をお願いしたいんです」
「なるほど、分かりました。それで将来育ったら雇われるのですか?」
「えぇ」
「私共にも斡旋して頂く事も可能ですか」
「勿論ですよ。ウリク商会、ラグリ商会、協力関係なのですから」
「それは良かった。人材の確保は1番頭を悩ませる問題ですからね」
「将来的には職人には合わない子も冒険者や軍人など、その子に合った職業に育てたいと思っています」
「そうですな。やってみないと分かりませんからね」
「えぇ」
「そういえばラグリ商会館を改修中なのですよ」
「早いですね。流石エウベルトさんが見込んだだけはありますね」
「はっはっは。目標が定まれば早いものですよ」
「そんなもんですね。そうだ、ジーナ」
「ん?」
「木彫りを置いてもらったらどうだい?」
「木彫りとは何です?」
「ジーナは冒険者稼業で出会った魔物の木彫りを作っているんですよ」
「ほぉ。拝見しても?」
「か、構いませんけど。そんな大層な物じゃないですよ」
「どれどれ。ふ~む・・・なかなかですね」
「え」
「《木工》持ちは家具や武器などをメインに作っていまして。工芸品や装飾品を作るのは貴族向けで庶民向けは少ないんですよ」
『ほほー』
「色付けをすれば売れるかもしれないですね」
「そうですか。じゃぁ色付けしてまた持って来ますね」
「えぇ。先ずは置いて売れるか見てみましょう」
「お願いします」
宿に帰る道すがら。
「孤児の方は順調ね」
「そうだねー。先は長いけども」
「私達が行く街々で物件を買ってそこに送り込むのもいいのではありませんか?」
「うん、良いんじゃないか」
「まぁ何にせよ僕等が稼げばそれだけ多くの孤児を引き取れる。頑張ろう」
「そうね」
ポツポツポツ
「あら?」
「雨?」
「あの雲の様子じゃぁ本降りにはならないだろう」
「傘持ってる人が居るよ」
「通り雨かな」
「傘か・・・」
「どうしたの?」
「僕等は滅多に使わないなと思ってさ」
「冒険者は基本、手をフリーにしておくもんね」
「合羽が基本だよね」
「傘か・・・」
「どうしたのよ」
「また何か考えてんじゃない?」
「みたいね」
「傘ねぇ・・・」
宿に着くと言伝を預かっているという。
冒険者ギルドからだ。
帰って来たらギルドに顔を出せと。
「絶対良くない内容だな」
「ンナー」
「そうね」
「でも報酬の渡し漏れかもしれないよ」
「「「「・・・」」」」
「ないな」
「ないわね」
「ないわよ、マヌイ」
「ないな」
「バックレよう」
「そうね」
「面倒臭そうですもんね」
「そうだな」
「えー。貸しも有るし、美味しい依頼を回してくれるかもしれないよー」
「「「「・・・」」」」
「ないな」
「ないわね」
「ないわよ、マヌイ」
「ないな」
「ノーオ」
部屋に入って今後の協議だ。
「先ずは飛行機の完成を急がにゃ」
「何でそうなる」
「先ずパラシュートじゃないのぉ?」
「パラシュートの実験の為にも飛行機を完成させにゃならんのだ」
「でも高い所まで飛べましたね!」
「うん、凄いぞ!」
「はっはっは。そうだろう、そうだろう!」
「翼は作り直すの?」
「あぁ。鳥の骨を使って作るか」
「軽いからだね」
「その通りだ。あとはコックピットを・・・むっ!」
『!?』
「黒人受付嬢が来てる」
「呼びに来たんだわ!」
「どうしよう!」
「窓から逃げますか?」
「2階だぞ」
「とりあえず荷物を「ガラッ!」」
「マルコさん!」
「ひゃ、ひゃい!」




