⑫-05-331
⑫-05-331
直ぐに準備をしてムルキアを出発し、夕方前には沼の有る村に着いた。
「先ずカヌーを2つ作るのよね」
「あぁ。それで舟と舟の間に床を渡して双胴舟にする」
「結構大きな物になるの?」
「いや、あの馬車に8人乗れるだろ」
「荷車と同じ広さで良いって事ね」
「8人乗りにするのですか?」
「まぁ、馬車も8人乗りで結果的に良かったしなぁ」
「そうだねー」
「キルフォヴァではそれで良かったしね」
「私も8人乗りで良いと思うぞ」
「じゃぁ先ずカヌーを作るわね」
「あぁ、頼むよ」
その日は収納袋に入れてあった舟と村に放置されていた舟を改造して終わった。
明くる日も朝から改造していく。
2つのカヌーを作り沼に浮かべる。
浸水しないか確かめる。
大丈夫そうだ。
カヌーに板を渡して固定し筏にする。
5人でオールで漕いで沼を渡ってみる。
大丈夫そうだ。
舵やマストも備えて帆を張ってもみた。
結晶魔石で風を生み帆に風を受けさせてみる。
ある程度の風力でも大丈夫そうだ。
筏は一応の完成を見た。
「ふー。じゃぁ帰る?」
「いや。まだ作りたい物があるんだよね」
「何?」
「実はもう大体作ってきてあるんだ」
「だから何よ」
「グライダーだね」
「また!?」
「サーヤ君、出してくれ」
「はい」
「今回はパラシュートじゃなくグライダー。翼を作った」
「ほほー。ハンググライダーみたいね」
「あぁ。翼のフレームはマヌイに丈夫で軽い骨で作ってもらって、布をサーヤ君に縫い合わせてもらった」
「この三角は何?」
「腰を掛けるんだ。前回は吊り下げられてたんだがハーネスが食い込んで痛くてね」
「三角の底辺に座るんだ?」
「そうだ」
「ふーん。でも飛ぶのが先なの?パラシュートが先なんじゃないの?」
「パラシュートの安全性の確認にはやはり高度から落下させる必要が有る」
「だから飛ばなきゃいけないって・・・安全性を確かめる為に危険を冒すって矛盾してない?」
「冒険者稼業しておいて今更」
「まぁ、そうだけどさ」
「毒キノコも、食わなきゃ毒って分かんないだろ」
「パッチテストって言ってたじゃない。それに食べなきゃいいのよ。他に食べ物が有るんだったら」
「他に確かめようが無い。大丈夫。何の知識も無くゼロから始める訳じゃないからな」
「はぁ~。まぁ上級ポーションは有るから即死じゃなきゃ何とかなるかもね」
「そ、そんなに危険なの?大丈夫?カズ兄ぃ」
「大丈夫、大丈夫」
「不安ですわ」
「よーし、準備するぞー」
「大丈夫なのか?」
「じゃぁ、みんなでロープを引っ張ってくれ」
『えっ!?』
「牽引するの!?」
「そうだ。僕1人で走るよりも助走距離が短くなりそうだと思ったんだ」
「ふーん。ロープはグライダーの先端に付いてないけど良いの?」
「あぁ。少し中心寄りにした。凧の要領だ。引っ張った時に直ぐに浮かぶだろ」
「ふーん」
「じゃぁ!最初ゆっくりで徐々に速度を上げながら引っ張ってくれ!」
『了解!』
彼女達が張ったロープを引っ張って小走りになる。
それに合わせ俺も小走りになる。
徐々に速度が上がりそれに合わせ俺も歩幅が長くなっていく。
揚力を得たのだ。
更に彼女達の走る速度が上がっていってグライダーはやがて凧のように浮かび上がった。
急いで三角の底辺に座る。
上がって行く勢いに結晶魔石の風力を加え更に勢いを付けて上がっていく。
『ふわぁー!?』
下から不思議な声が聞こえたが無視だ。
そんな余裕は無い。
牽引用ロープを離す。
引っ張られたままだとやがて失速するからだ。
カタパルト的な方法で、自力では無いが離陸する事は出来た。
前回のパラシュートは旋回性能くらいしか無かった。
しかし今回は簡単なピッチやロールくらいは出来る。
金属のワイアーじゃなく丈夫で軽い蜘蛛の糸でサーヤ君に作ってもらって操舵出来るようにした。
グライダーを操作しながら上昇を続ける。
け、結構高い所まで来たな。
下でマヌイやサーヤ君が手を振っている。
振り返そう。
はっはっは、両手で振り返してきた。
つ、翼からバタバタと音がしている。
少し怖い。
布は翼には向かないかもしれんな。
パラシュートには良いかもしれんが飛行にはやはり固形の物が良さそうだ。
よし、先ずパラシュートの実験だ。
俺と同じ重さの実験体にパラシュートを付けてグライダーにぶら提げている。
それを離して落下させた。
直ぐに空気の抵抗を受けパラシュートが展開する。
俺もパラシュートの上空を旋回しながら観察する。
下からは彼女達に観察してもらっている。
沼の付近は春の陽気と沼の水の蒸発によって上昇気流が発生しているようだ。
グライダーは結構な揺れ具合でパラシュートも重りがぶらんぶらんしている。
やがてパラシュートは風に流されながら着地していった。
俺も逆噴射で無事に着陸出来た。
「凄いよ!カズ兄ぃ!」
「飛びましたね!」
「飛んだじゃないか!」
「そうだろう!そうだろう!」
「ま、まぁ、少し羨ましくはあったわね」
「そうだろう!そうだろう!」
「前回よりも高く飛んだね!」
「グライダーだからな」
「どう違うんですか?」
「より風を利用し易いんだ」
「「「へー」」」
「パラシュートの具合はどうだ?」
「うーん。破れたりはしてないみたいだよ」
「紐の結び目も大丈夫そうです」
「よーし。今日はこれの繰り返しで終えるか」
「耐久テスト?」
「あぁ。何パターンかパラシュートの形状は作ってきてある」
「そうなの」
「グライダーの翼は布じゃなく骨だけで作った方が良さそうだな。不安定だ」
「重くなるんじゃない?」
「仕方ないだろうな。形状を調べんとな」
「今日は無理でしょ。材料を持って来て無いんでしょ」
「あぁ。だからパラシュートの耐久と形状の実験だけだね」
「カズ兄ぃ。人間は鳥みたいに飛べないの?」
「あぁ。体の構造が根本的に飛ぶのに向いていないんだ」
「ふーん」
「鳥の体重における骨の重量比は羽毛と同じか軽いんだ」
「「「「えっ」」」」
「そんなに骨は軽いの?」
「あぁ。そして羽ばたく力を生む胸の筋肉は全筋肉の25%もある」
「ふーん」
「ちなみに人間は1%だ」
「「「「えっ」」」」
「比率で25倍も違うの?」
「そうだ。そして鎖骨、叉骨というんだが、翼を振り下ろした時に広がるんだ。そして広がったら元に戻る力が働く。つまり翼を持ち上げる力となる」
「羽ばたき易い構造になってると」
「その通りだ」
「そっかー。飛べないんだねぇ」
「残念だが、あの悪魔みたいに魔法かスキルかじゃないと自力じゃ飛べないな」
「じゃぁ、カズ兄ぃに期待だね」
「任せろ!」
「安全にね!あ・ん・ぜ・ん」
「はいはい」
「人間は何に向いているんだ?」
「走る事と投げる事だね」
「ふーむ。じゃぁ投げ槍は人間に合った武器という訳か」
「そうだね。振りかぶれるのは人間と似た動物だけ・・・前世の動物の中だとね」
「ふーん」
「弓を引き絞るのも一種の振りかぶりだな」
「じゃぁあたし達は人間の特徴に合った武器を使ってるんだね」
「そういう事だ」




