②-16-33
②-16-33
「羅針盤は欲しかったんだけどなー」
「でも大きすぎますよ」
「だよなー。街道沿いで問題無いんだよね?」
「はい。足の遅いラドニウスで半日ですから私達でも大丈夫でしょう」
「《頑健》さん鍛えがてら少し早歩きするか」
「そうですね。でも街道って言っても整備されてる訳じゃないですね」
「そうだな。長年馬車で踏み固められただけって感じだね」
「そう言えば西には来たことが有りませんでしたね」
「魔物分布違うのかい?」
「そんなに違わないですね。道中は魔犬がメイン。精々ゴブリンが出るかって感じです」
「街道に出るの?ゴブリン」
「冬だと獲物を探して行動範囲が広まるらしいです」
「逆に狭まる気がするけどね」
「魔幼虫とかはそうらしいです。なのでそれを探して彷徨うらしいですね」
「なるほどねー。やっぱ冬はどこも厳しいよなー」
「それより盗賊とか出ないですよね?」
「出ない出ない」
「何でそんなに自信あるんですか?」
「だって森の中で待つか?魔物いるのに。一般社会から追われ、魔物にもビクビクする人生って、はーやだやだ」
「まぁ、そうですね。でも偶に聞きますよね」
「あー、それ多分冒険者だと思うよ」
「えっ、冒険者?」
「あぁ。街道で襲うんだろう。目撃者は全員殺せば犯人分からんからな。で、その後通った人達に残骸が発見され盗賊だと思われると」
「そうですよね、魔物が居る中を拠点にしませんよね。でも冒険者か。護衛っていうのも危ないですね!護衛が盗賊だったり!」
「そうだよな。だから高ランクを雇うんだろうな。一応それなりに長い間街に逗留して魔物狩って信頼を得ている訳だし。流れは雇いたがらんだろうな」
「流れかー、私達の事ですよね」
「です!」
「まぁ、依頼は採集しかしませんしね」
「ギルドカードの裏は真っ白だしな」
「あぁ、依頼達成余白・・・・」
「採集しかしてないから他の4か所の余白が真っ白!」
「これ偽造したら直ぐバレるらしいですよ」
「依頼達成の偽造?」
「えぇ。日本みたいに『正』の字みたいな、この世界の文字で依頼数をカウントするんですけど、依頼達成したら魔導具で焼き込むんですって。だから偽造かどうか分かるらしいです」
「へー結構高性能なんだねカードって。使いきれてないけど」
「ランクアップも渋ってたくらいですからね」
「今度機会が有ったら乗り合い馬車の護衛依頼受けても良いかもな」
「どうしてです?」
「目的地まで行けて報酬も貰えるんだろ?街道も魔犬くらいなら危なくないし多少報酬低くても損はないんだし」
「でも魔法使えませんよ?」
「受け流しは良い感じになってきてるから、僕は盾になって接近戦で戦える自信はあるよ。10匹は無理だが」
「じゃぁ、機会が有ったらやってみましょうか」
「あぁ。まぁ何事も経験って事で」
街道は結構分かり易かった。
恐らく長い歴史の中で使われてきたのだろう。
魔物も昼まで歩いて来ているが見ない。
冒険者が狩ってるからだろうな。
薬草も街周辺じゃ取れないって言ってたし、結構森の奥まで行かないと魔物には遭遇しないのだろう。
そういう意味でもコローの街は安定していたのだ。
「そう言えば先輩、最後にマイタケの毒袋を売らずに持ってますよね?どうするんです?」
「薬と武器に使えないかと思って」
「武器は分かりますけど、薬?」
「罠でさ」
「あぁ、罠に使う。良いんじゃないですか」
「ただ街で調合師の所に行けなかったから、旅支度で。だから次の街で行こうと思ってる」
「薬屋に頼めばいいのでは?」
「必ずいる訳じゃないんだって」
「へー、そんなんですね」
「あぁ。だからギルドで紹介してもらおうと思ってる」
喋りながら早歩きも結構疲れるな。
そんなこんなで夕方くらいに第1村に着いた。
村の周りを木の柵で囲っている。
その外側には浅くではあるが堀がある。
建物の様子だと人口は50人程と言ったところか。
宿を借りた。夜朝飯付いてくるがまぁまぁ高い。
貴重な現金収入だろうし仕方ないだろう。
しかし、
「不味いな」
「不味いですね」
「単純に・・・不味いな」
「単純に・・・不味いですね」
「「エルドさぁーん!」」
エルドさんの料理は塩は足らないが慣れればいけた。
肉も、恐らく魔物の肉が安く手に入るからだろう、結構入っていたし。
この世界は逆に野菜が貴重なくらいだ。
村の料理は何もかもが足らない。
塩は勿論、肉も無い。野菜も。やたら水分が多いし薄い。
「まぁ専門じゃなく片手間にやってるだけだろうしな、宿も」
「自炊した方が良いレベルですね」
部屋も同じような質素、いや良く言っても粗末なものだった。
「先輩!疲れてますけどもうひと仕事ですよ!」
「はぁー」
僕達は《クリーンアップ》と《殺菌》を部屋中に掛けて回った。
「毛布買っておいて良かったな」
「ホントですね。これだけだと寒すぎるでしょ」
「恐らく追加で料金取るんじゃねーか?」
「うっわ。有り得ますね」
「他に泊まるところが無いから出来る技だな」
「早く起きてさっさと出ましょう」
その日は早く寝て翌早朝に村を出ることにした。
そして今日は雨だった。
「いや、雨具買っておいて良かったな!」
「まさかここで降るとは」
「街に居る時降ったら狩りは休みにしてたもんね。魔物相手だと危険だから」
「えぇ。でもこれからの事考えると雨中戦闘も想定しないといけませんね」
「そうだねー。今日とか出ないよな」
「魔物も雨の中、森より街道には出ないでしょう」
雨が降ると街道は分かりづらかった。
石畳などではない為、雨が降るとぬかるんでそこらと変わらなくなるからだ。
「寒いよー」
「元気出してください!もう着きますよ」
「さっきもそう言ってたよー」
「もう面倒くさいなー。あっ!」
「どっ、どうした?魔物か?」
「いえ、《頑健》君がLvアップしてました!」
「おぉ!とうとうか。やっぱ寒いし雨だし堪えるよなー」
「いや、これって結構前に上がってたようですね」
「というと?」
「上がったら通知されるじゃないですか?」
「そうだね」
「起きてからは通知されていなかったんで」
「ってことは寝てる時に上がったって事か」
「「・・・・・・」」
「あの宿どんだけー!」
「ちょっと楽になった気がしますね」
「プラシーボじゃないの?」
「まぁ、気の持ちようって所はありますよ」
「どれどれ。菊池君の《頑健》さんLv2を拝ませてもらうとしますか」
「どうぞどうぞ」
「おぉ!確かにLv2になってるな」
「でしょでしょ!」
「あれ?」
「どうしました?」
「いや、ちょっと待ってくれ・・・」
このステータス画面の各項目の横の眼のマークはなんだ?
以前はこんなマーク無かった気がするが。
タッチすると目を瞑るマークに変わるな、なるほど。
「菊池君。僕のスキルを確認してくれないか?」
「ステータス画面でですか?はい・・・あれ!スキル1つもありませんよ!?」
「やっぱりか」
「・・・まさか《隠蔽》ですか!?」
「そのまさかのようだ。各項目に眼のマークがあって、それをタッチすると目を開けたり瞑ったりすることで隠蔽出来るようになるみたいだ」
「でも以前は無かったんでしょ?」
「そうなんだよ。いつからなんだろう」
「いつからステータス見てないんですか?」
「大分前だね」
「そんなに?重要でしょ?今回みたいに知らない内に習得してたりするし」
「気にし過ぎるのもね」
「まぁ、そうか」
「となると。魔法は《隠蔽》した方が良いな」
「そーですよ!他には・・・固有スキルは《隠蔽》した方が良いでしょう」
「そうだな。じゃぁ僕は《殺菌》か他にも消しておこう」
「そうですね。聞かれて面倒くさそうなのは《隠蔽》しましょう」
「君のも《隠蔽》したいんだが・・・眼のマークが無いんだ。すまん」
「そうですか。まぁ仕方ないですよ」
「隠蔽があるんであれば他人のステータスを見られるスキルもあるんでしょうか」
「・・・その可能性は高いな」
「どっちが優先されるんですかね。隠蔽と覗き見と」
「う~ん、普通に考えるとLvが高い方が優先されるとか?」
「あ~、それっぽいですね。じゃー、先輩は今の猫かぶり人生を当分続けてくださいね」
「はっはっは、任せろ!」
「そこは否定して欲しかったし!」
ガウウウゥゥ
そして5匹の魔犬に囲まれるのである。
「はぁー、なんでこういう時に出るかね!」
「~~~なんとかの法則ってヤツですか、ねっ!《風刃》!」
ザクッ
ドスッ
「ギャウンッ!」
《風刃》とクロスボウボルトが刺さった魔犬2匹が水溜りに倒れ伏す。
それを飛び越えて1匹が飛び掛かってきた。
水溜りを飛び越えてきたその動作は分かり易かったので横に飛び退きざまの振り下ろしは難しくなかった。
ザクッ
あまり切れやすいとは言えないショートソードとはいえ柔らかい腹には通ったようだ。
水溜りが朱に染まる。
連続でもう1匹も飛び込んでくるが、
「《雷撃》!」
雨の中、雷は危険だろうが空中にいるのなら別だ。
「雨の中では俺の魔法は難しい!」
「了解です!」
手前に煙と血を吐いている魔犬を視界に入れつつも最後の魔犬の様子を窺う。
最後の魔犬は唸りを上げていたが踵を返し逃げようと、
ドスッ
体を翻した瞬間を狙われボルトが刺さる。
「《風刃》」
「雨の中解体するのか~」
「止めます?」
「・・・いや。命に対する礼儀だ。キチンと回収しよう!」
「分かりました!」
5匹の魔石を回収し、遅れた分早歩きで歩いて夕方ごろに第2村に着いた。
飯も部屋も前の村と変わらないものだ。
田舎に住むと体が強くなる訳だ。
「衣類の水分って《クリーンアップ》で飛ばせないかね?」
「《クリーンアップ》!ん~。表面的なのは取れましたけど」
「浸透しきってるのは残ってる感じだね」
「何ででしょう?」
「僕の《殺菌》で身体の中の菌を殺せたからイケると思うんだよな」
「ですよね・・・」
「僕の時は追い詰められてた時だから・・・集中力か。もしくは単純にLvが足らないか」
「危機的状況を任意に作るのは止めましょう」
「お、おぅ。じゃぁ、水分を飛ばす練習を積み重ねるかな」
「そうですね。コツコツやっていきますよ」
翌日も雨で早歩きをしながら街道を進んで夕方ごろに街壁が見えてきた。
コンテの街だ。