⑫-01-327
⑫-01-327
それから数日後、ベドルバクラ軍が撤退したと知らされた。
軍関係者も街の人達も喜んでいた。
しかしやはり疲れていたのだろう、大喜びというよりは安堵といった感じだ。
今回の戦争で街民に被害は殆ど出ていないそうだ。
フリーエさんの統治のお陰だろう。
「行くのかい?」
「あぁ」
バイヨ達と別れの挨拶をしていた。
僕達は去ることにしたのだ。
「君等は残るのか」
「軍は引き揚げたが斥候なんかは残ってるだろうしね」
「街周辺の魔物も間引かれてないでしょうし」
「依頼は多そうだし」
「それにフリーエ様と誼を通ずる事が出来たんだ、深めたいと思ってね」
「マコル達はどうするの?」
「一旦ムルキアに戻る」
「そう」
「じゃぁ何か有ったら連絡するよ。キルフォヴァの情勢も気になるだろ?」
「どうやって?」
「冒険者ギルドの伝書鳩を使ってね。融通してくれるだろうさ」
「そうか、当分はムルキアに居るつもりだからよろしくな。それと」
「ん?」
「フリーエさんに手紙を渡してくれ。急に出る事になって会おうとも思ったが忙しいみたいだし」
「でもマコル達なら会ってくれるんじゃない?」
「邪魔したくないんでね、頼むよ」
「あいよ」
「それじゃぁ元気でね」
「猫ちゃんもまたね」
「ナーオ」
それから2日掛けてムルキアに戻った。
街の中は落ち着いていた。
ベドルバクラ軍撤退の情報はここまで届いていたようだ。
ウリク商会に立ち寄る。
「マルコさん!御無事でしたか!」
「はい。お陰様で何とか」
「良かった!本当に良かった!」
「それでまたご厄介になろうと思って」
「えぇ!えぇ!どうぞどうぞ!」
オランドさんとしばらく再会を喜び戦争の話やらをしていたが、
「それでエウベルトさんの行方は?」
「・・・いえ。全く」
「・・・そうですか」
「・・・」
「しかしそろそろ決断を下さないといけないんじゃないですか」
「決断・・・」
「オランドさんがウリク商会を継ぐという事ですよ」
「・・・」
「僕達は宿に向かいます」
「え、えぇ・・・」
「商員の事も考えてあげて下さい」
「・・・はい」
ウリク商会を出て宿に帰って来た。
「っはー!久しぶりじゃぁないけど久しぶりねー!」
「キルフォヴァには10日位しか居なかったしね」
「今夜はラグリ商会に行くのですよね」
「あぁ。様子を見に行こう」
暗くなるのを待ってラグリ商会館に行く。
『あっ!?』
裏口の鍵が壊されていた。
館の中に入る。
「泥棒?」
「いや、恐らく諜報員だろう」
「ジュゼッペ、エウベルトが連絡を取っていた諜報員?」
「多分な」
「どうして?」
「エウベルトの姿がウリク商会から消えた。それで繋がりのあったラグリ商会を探ったんだろう」
「じゃ、じゃぁ!?」
「先ず地下室の階段を確認する」
収納部屋を見ると多少荒らされていたが床の形跡はおかしな様子は無かった。
「他の様子を探ろう」
『了解』
手分けして地上の部屋を見て回る。
「荒らされてるわね」
「でも盗まれた物は無いみたいですね」
「元々金目の物は置いていなかったみたいだな。調度品も無いし」
「地下室を調べるか?」
「そうしよう」
敷物を除けて地下への通路を露わにして降りて行く。
部屋を調べる。
「どうやら発見されてはいないようだな」
「前見た時と同じ感じだね」
「うん、そうだな」
「諜報員は何を探そうとしたのかしら」
「ティラミルティの作戦関係の資料じゃないかな」
「元々無かったけどね」
「上の階だけ探したんですね」
「階段は見付けられなかったんだろうね」
「金庫にも手を付けた形跡は無いしね」
「ラグリ商会を乗っ取るって言ってたけど、ここに諜報員が来たのならどうするの?」
「続行だ」
「えっ。でも危ないんじゃない?」
「エウベルト等の最初の3人は依然行方不明という事になってるはずだ。ティラミルティからの命令書なんかは3人が持ち出したと結論付けるだろう」
「ここを家探しして無かったからね」
「しかし別にラグリ商会じゃなくても良いんじゃないか?新規で起ち上げれば」
「ラグリ商会はエウベルトにとってダミー商会、ゴースト商会だったんだ」
「「「ゴースト商会?」」」
「実態が無い商会の事ね」
「あぁ。表立っての取引はウリク商会を通じて行い、裏の、諜報員の取引はラグリ商会でやっていたんだ」
「裏の取引の辻褄をウリク商会との取引で合わせていたって訳ね」
「あぁ」
「「「ふーん」」」
「それで。ラグリ商会を乗っ取る意味は?」
「書類を確認したがラグリ商会がウリク商会の親商会なんだ。つまり、ラグリ商会を乗っ取ればウリク商会も傘下に入る」
『へー!』
「僕等は商人のスキルを持っていない。僕等が商会を運営するのは・・・」
「難しいわね」
「そうだねぇ」
「冒険者もしながらですと、厳しいですわ」
「つまり、商会の運営は任せる訳だな」
「そういう事だ。商会の運営は任せて利益だけを吸い上げる」
『・・・』
「・・・それは少し・・・」
「まぁ暖簾分けはよくある事だがな」
「通常の取引はウリク商会で行い、僕達の活動はラグリ商会を通じてやる」
「先ずはここからって事ね」
「大丈夫かなぁ」
「長い道のりで想像出来ませんわ」
「先ずはどうするの?」
「通報しよう」
『通報!?』
「空き巣が入ったって!?」
「そうだ」
「何の為に!?」
「家探ししたとはいえ、まだ諜報員は見張っているかもしれない」
「エウベルトさん達3人は世間的には行方不明だもんねぇ」
「しかし1度衛兵により調査されて別の人物がラグリ商会を運営すれば諦めるだろう」
「その別の人物を疑うんじゃない?」
「問題ない人物を据えればいい」
「問題ない人物?」
「オランドさんだ」
『なるほど』
「諜報員じゃないから調べられても大丈夫ね」
「しかし今はオランドさん自身の問題も有って難しいだろうな。時期を見てだ」
「じゃぁ?」
「ラグリ商会の活動は当分地味なものになるね」
「まぁ私達も手探り状態だしね」
「じゃぁ通報に行く?」
「そうしよう」




