⑪-33-326
⑪-33-326
宿舎に帰り風呂に入って夕飯を摂り部屋に戻った。
「いやぁー、流石に疲れたなー」
「ナー」
「そうねー。防街戦の後に特殊任務だったし」
「何とか無事に帰って来れたねぇ」
「色々有りましたわね」
「みんな無事で何よりだ」
「これからどうなるのかしら」
「敵は半分近くまで減ったからなぁ。1000人でも無理だったのが半分で成功するとは思わないだろう。幾らアホでも」
「じゃぁ戦争は終わり?」
「多分な」
「やった!勝ったんだね!」
「そうね!マヌイ」
「獣人などの他種族は北部に思う所が有るから尚更みたいだな」
「バイヨもそう言ってたわね」
「そうだね!」
「まぁ、敵軍関係者のアホさを見れば北部国内でどんな扱いを受けてるだろうかは察せられるな」
「ホントね」
「でも兵士に他種族はあまり見られませんでしたね」
「ヒト以外の他種族は国内産業に駆り立てられているだろう」
「奴隷か」
「恐らくな。兵士にするといつ裏切られるか分からんしな」
「じゃぁ遠慮なく戦って良かったんだな」
「遠慮なく100人皆殺しにした後で言うセリフじゃないわよ」
「スカッとしただろ!マヌイ」
「うん!」
「ちょっと一方的過ぎて私は・・・」
「菊池君はまぁ仕方無いが。しかし戦場では命取りになるって覚えておけよ」
「・・・まぁ」
「あいつら馬車追っかけてくる時、股間の槍オッ立てて追いかけてたろ」
「何の為に全力疾走したのかモロ分かりでしたわ!」
「そうだよ!あんな奴等、一方的に殺っちゃえば良いんだよ!」
「狩り、いや、駆除だな」
「駆除?」
「あいつ等のせいで大勢の人達が苦しみを受ける。魔物より厄介な奴等だ。魔物は食う為だ、あいつ等は神やら国やら民族やら、お題目を掲げて侵略して来やがる」
「自分達の中だけでやれっていうんだよ!」
「その通りだな、マヌイ」
「でも罪も無い人達が・・・ね」
「それはしょうがないだろう」
「多少の犠牲はって?」
「足元にいるかもしれないと蟻を気にしながら歩き続ける事は出来ないだろう」
「罪も無い人達は蟻?」
「侵略するまでは罪は無いだろうけど、戦争始まったら人を殺すんだぞ?」
「・・・」
「上の命令を無視し続けるんなら罪は無いと言えるが、どうかな?」
「・・・」
「上から命令違反、不服従、敵前逃亡で処刑だろうな」
「でも彼らは好きで従ってる訳じゃないでしょう?どうしようもなくそうしてるんでしょうし」
「鼠は沈む船から逃げ出すってよ」
「鼠にも劣るって言いたいの?」
「従っているだけじゃぁな」
「逃げ出せば良いんだよぉ、南部に」
「でも未知の国に、何の伝手も当ても無い場所に行ける?」
「うーん、難しいねぇ。私はカズ兄ぃとミキ姉ぇとサーヤ姉ぇがいたから出来たけど、1人なら無理だろうし」
「私もそうですね。お2人がいなければ、お2人じゃなければあのまま奴隷を続けていたかもしれません」
「切っ掛けが!切っ掛けが必要なのよ!」
「自分で考えない奴等の事まで面倒見る必要は無いだろ。マヌイもサーヤもケセラも、酷い目に遭って自分で考えて行動した」
「だから犠牲になっても良いって?」
「自分の人生だ、自分で責任を持つ。普通だと思うがね」
「その普通ですら出来ない境遇の人でしょ!?」
「だから戦争では殺さない、と?」
「・・・」
「それで味方が殺られてちゃ意味ねーだろ」
「・・・うん」
「戦争では敵は殺せ。差別も区別も無く平等にな」
「・・・うん」
「ミキの言う事は分かる。しかし現実俺達に出来る事は無い。俺達の目的は幸せになる事だ。北部の虐げられた人々を救うってのは俺達の手に負える問題じゃー無い」
「あたし達だけじゃ無理だよぉ」
「えぇ」
「そうだな」
「しかし俺達に出来る部分はある。今回の参戦もフリーエさんを少しでも助けるってのも有ったが、バイヨ達みたいに北部に対する感情も少なからず有った」
「そうね」
「そこで俺が考えていた事が有るんだが」
『考えていた事?』
「俺達は行商をしながら住む土地を見付ける、その目的だったはずだが」
『えぇ』
「土地は南部で決まりだ、これは異論は無いだろう」
『そうね』
「その土地を守る為、南部を守る為に行商をしようと思う」
「具体的に言うと?」
「南部北端国に物資の供給だな」
「ふーん。今回みたいに戦争でも起こったら不足するもんね」
「戦争前でも物資を届けていれば有利になるよ」
「援軍が来るまで籠街出来ますね」
「私達もお金を稼げるしな」
「改良馬車とケセラが居るから輸送時間も短縮出来るしね」
「しかしそれだと南部の強化には程遠い」
『ん?』
「俺達だけで輸送しても大した量ではないからだ」
「まぁね」
「そうだねぇ」
「えぇ」
「収納袋が有るとはいえ、だな」
「そこで案が有る」
『案』
「これはエウベルト、ジュゼッペの処理にも関わる事だが」
「あぁ。どう処理するか迷ってた・・・」
「あぁ」
「固まっていないと言っていたが」
「あぁ。朧気ながら見えてきた」
「聞きましょう」
「国を作る」
『・・・』
「・・・はっ!?」
「何言ってんのカズ兄ぃ!?」
「国ですか!?」
「国を作る!?」
「そうだ」
『いやいやいや!』
「無理でしょ!?」
「流石にね!」
「いくらカズヒコさんでも!」
「冗談が過ぎると面白くなくなるぞ!」
「領土は持たない」
『・・・ん?』
「国民は俺達だけだ」
『・・・ん?』
「軍隊は俺達」
『・・・あれ?』
「全て俺達で決める」
「あれ、本気なの?」
「勿の論だ」
「・・・ほ、本気なんだよね?」
「モチのロンだ」
「き、聞かせていただけますか」
「勿論だ。領土は持たない。僕達は旅をしていくからね」
「えぇ」
「しかし街々で拠点を作る」
『拠点?』
「あぁ。それが商会だ」
「商会を作るって事?」
「あぁ」
「まぁ、行商をするんなら遅かれ早かれ作んなきゃいけないもんね」
「でも立ち寄った街々で作るのは資金的にも無理なのではありません?」
「そうだ。だから同盟国、即ち同盟商会を手に入れる」
「・・・それはー、商人ギルドって言うんじゃないの?」
「商人ギルドはあくまで権益保護団体だろう」
「そりゃそうでしょう。冒険者ギルドもそうなんだし」
「僕が求めるのは・・・そうだな、バレンダルのタリルコルさんのような、信用出来る相手だ」
「・・・同盟ってこと」
「あぁ。そういう人達と組んで物資を北端国に運ぶんだ」
「つまり、例えばバレンダルだとタリルコルさんと組む事により、倉庫や商館なんかは貸してもらって経費を浮かせてその分物資に注ぎ込むと」
「自惚れじゃないが僕等が護衛して運んでも良いしね」
「時間も護衛代も短縮出来るしね」
「他の商人と組まないのは少ない利益でも南部連合を援助する行動を取れる人じゃないと無理って事だ」
「その点、タリルコルさんは十分信用出来るわね」
「でも、ルンバキアみたいに大臣の専横で荒れている国に援助してもそれが果たして強化に繋がりますか?」
「尤もだ。しかしフリーエさんのような人も居る。最悪そういった人達を南部に逃がす事が出来るようになると思う」
「むぅ。優秀な人材を逃がして後日撒き返す訳だな」
「あぁ。負けるにしても被害を最小限にする。人が居ればやり直すことは出来るはずだ」
「商人の立場から援助するって事?」
「そうだね」
「でもそれじゃぁ別に国を作るってほどじゃぁないんじゃない?」
「僕達だけだと規模は小さい。しかし同盟者を増やしていけば取引量も増え、自然、動くお金の量も増える。やがては地方の小さな街を牛耳れるほどには」
「支配するつもり!?」
「言葉は悪いが、そうだ」
「えぇ!?そんな!」
「領主や街主などにならなくても金の動きを掴めば街は支配出来る」
「でも支配って・・・」
「その街で食料や武防具を生産して北端国に送る。北端国は浮いた金で人材を育成すれば良いし冒険者を雇うことも出来る。北端国からは孤児を南部に送る」
『孤児を!?』
「孤児を教育して育てる。商人になる者もいれば冒険者になる者もいるかもしれない。職人や軍隊に入る者もな」
「・・・なんだか先が長い話ねー」
「実感が湧かないね」
「奴隷王から100年、世界は変わってないんだろ?」
「むぅ、そうだな」
「僕達は領土を持たない。いわば寄生虫だな、他所の国の中に根を張る」
「自由に移動出来るって訳ね」
「僕達の安全で安定した老後の為には南部が安定していなきゃ駄目だ。だから南部を援助する。兎に角人材だ。それには金が要る。それには信用出来る商人が要る」
「言いたい事は分かるけどね」
「大き過ぎるし先が長いし、実感がねー」
「カズヒコさんに付いて行きます!」
「サーヤ君、自分で考え判断する事が重要なんだよ」
「は、はい・・・」
「南部を援助するのは良いとしてだ、具体的にどうするんだ?」
「拠点を作るって言ってたわね」
「そうだ。それで今回のジュゼッペの事だが」
「うん、そうだったね」
「ムルキアに拠点を作ろうと思う」
「ムルキアに?」
「公都ムルキア。ベルバキアはアレク3国の真ん中の国でムルキアは最大の街で交通の要衝だ。そこに拠点を置くのは都合が良いと思う」
「しかし公都だから拠点を置こうにも金が掛かるだろう」
「そこでラグリ商会だ」
「ラグリ商会?」
「あぁ。乗っ取る」
『えっ!?』
「ンナ」
第11章終了




