⑪-27-320
⑪-27-320
翌朝、猫は宿舎に残して本部に出頭する。
防具も取り付けたラドニウスを引き連れて。
屋敷の前で護衛を紹介される。
「しゅ、守備隊長・・・」
「よう!」
東門の守備隊長が護衛隊長だった。
「カ、カラッハさん、大丈夫ですか?」
「うむ。身元は確かめた」
「・・・そうですか」
「君達も護衛任務を全うせよ」
『はっ!』
「命に替えましても任務を遂行致します!」
「うむ、期待している」
「フリーエさん」
「うん?」
「夜食は召し上がられたんですか?」
「うむ。活きの良い素材が手に入ってのぉ」
「そうですか、それは良かった」
「其方達も気を付けてのぉ」
「はい」
「我々が付いております!御安心を!」
『・・・』
「で、では行って来ますね」
「う、うむ。よろしく頼むぞな」
「出発!」
護衛2小隊と僕等1小隊の計24名で行く事になった。
守備隊長は馬を連れているが他は徒歩だ。
街中は基本的に馬車に乗ってはいけないので歩いて南門に向かう。
街中に悲壮感は無い。
むしろ一昨日の勝利で安心感が広まったようだ。
南門の街壁には見張りが居る。
活動禁止エリアで馬車に乗った。
門を潜る時癖なんだろうか、見上げながら潜ってしまう。
南下、と言ったが正しくは南西だ。
護衛が徒歩の為このペースだと目的地までは3日ほど掛かる。
安心感が広がったと言うのは街の人達だけではなかったようだ。
「はぁ、良いご身分だよなぁ」
「全くだ。こちとら歩きだってのに」
「2日前の激戦を戦い抜いたのに直ぐ仕事だぜ」
「馬車に乗ってハーレムかぁ、羨ましぃぜぇー」
一応スパイ疑惑が有るので僕等の前を歩いてもらっている。
背中を見せたくない。
出来ない奴がネガティブな事しか言わないのは前世と変わらんな。
チラチラと振り返るのが鬱陶しくなったので俺はこれ見よがしに果物を食べ始める。
『!?』
前の連中がびっくりした顔だ。
パシッ
「いたっ!?」
「止めなさいよ。敵を作るなって言ってんでしょ」
「もう敵なんだってば」
「まぁ気持ちは分かるけどね」
「ウザいですわ」
「まぁ一応盾になる予定なんだしそれまでの我慢だ」
「盾は決定なのね」
「同情はしないな」
「流石にね」
「しかし流石に誰とも擦れ違わないな」
「戦争中だしね」
「門でも列は無かったし」
「守ってても勝てるが、その後の経済的復興は長くかかるな」
「流通が麻痺してるもんね」
「私達が行商すれば良いんじゃない?」
「・・・そうだな、フリーエさんに貸しも出来たし指定商人として取引してもらうってのもアリだな」
「そうね!」
「商人ギルドに入っているのかい?」
「「「「「・・・まだ」」」」」
「それからだね」
「「「「「はぁ~い」」」」」
僕等は夕方近くまで進み続けた。
本来なら野営の準備をする時間だが護衛の歩みが遅く、また休憩も多いため本来の野営地点に着いていなかったのだ。
そしてようやく野営地点に近づく頃、
「お客さんだ」
「来たわね」
「とうとうだね!」
「1日目から来ましたか」
「私には全然見えないけど、もう良いわ。マコルの索敵には慣れたから」
「心して聞いて欲しい」
『!』
「100人ほど居る」
『ひゃ、100人!?』
「ど、どーすんのっ!?」
「多過ぎるよぉ!」
「これは流石に予想外だ・・・」
「小隊じゃなく中隊で来るとは。しかも2中隊か・・・」
「マコルの考えは?」
「一昨日の戦いに生き残れたのは僕等に有利な状況だったからだ。平地のここらでは状況はお互いほぼ同じだ」
「そうだな。平地なら単純に数の勝負になる」
「奇襲が出来ないわね」
「森に逃げ込む?」
「それも手だな。だが馬車を手放す事になる」
「逃げる?この馬車なら追いつかれないでしょ」
「護衛も捨てて行く事になるが」
「マコルがあいつ等の心配とはな」
「肉壁も捨てて行く事になるが」
『・・・』
「何か案が有るかい?」
「あぁ。先ず奴らは2カ所に分かれて潜伏しているようだ」
「2カ所?」
「あぁ。恐らく前後で挟み撃ちにする気だろう」
「なるほど。私達が通った後に退路を塞ぐ訳だ」
「恐らくそうだろう」
「じゃぁやっぱりここで引き返した方が安全じゃない?」
「いや、100人というのはあくまで僕の意見だ。このまま敵を確認せずに帰って報告しても意味は無いだろう」
「そうだな」
「つまり危ない橋を渡らなきゃ駄目って事?」
「そういう事」
「はぁー」
「で?」
「で、敵に馬はいない。更に敵はこの馬車の速さを知らない。このまま突っ切る」
「敵の袋の中に入るってのかい?」
「ぞっとしないわね」
「この街道は脇の森から少し離れている。飛び出して追いついて来る前に逃げられるだろう」
「私達はね」
「護衛は?」
「肉壁はその役割を全うするだろう」
『・・・』
「容赦無いね」
「言っただろう、敵と認識していると」
「同じ軍営よ?」
「だから何しても許される訳じゃ無いだろ。一昨日の戦いだって、僕達を門の真上じゃなく左翼か右翼に配置してればそこは突破されなかった。結果、被害ももっと抑えられたはずだ。そもそも真ん中に配置したのが恣意的なんだよ」
「・・・まぁ、それはそうだけど」
「冒険者に要の門を守らせる時点で兵士として失格ですわ」
「そういう事だ。それにまだ完全にスパイ疑惑が晴れた訳じゃない。今後、肉壁の考慮はしない。そのつもりで行動しろ」
「・・・しょうがないわね」
「100人居るからねぇ」
「そうね、分かったわ」
「そうだな。それで具体的には?」
「バイヨはセリーナの隣の御者席に座れ」
「分かった」
「俺の横にティア」
「うん」
「マーラはティアの後ろに移れ」
「はい」
「エマと一緒に右翼から狙撃だ」
「「了解」」
「マリアとマヤで左翼から狙撃だ」
「「了解」」
「セリーナとバイヨはシートベルトを」
「「了解」」
「他は床のベルトを腰に巻け」
「「「「「了解」」」」」




