⑪-25-318
⑪-25-318
「東門の清掃もやるんでしょ?」
「うむ」
「午後からやります?」
「いや、まだ調査が続いているのだ」
「えっ、でも大丈夫なんですか?今攻められたり」
「それは大丈夫のはずだ。昨日の戦いで敵は死者が100人を優に超える。傷者もそれに匹敵するだろう。戦力は当初の7割程になっているはずだ。当分立て直しやらで攻めては来れまい」
「なるほど。だとしたら今の内ですか」
「・・・食料かの」
「えぇ」
「うむ。その辺も考えているのじゃ。もしかしたら頼むかもしれん」
「それは構いませんが、収納袋は公にしたくないので大きな作戦にされると・・・」
「大丈夫じゃ。配慮はするよぉ」
「お願いします」
「それで、敵の幹部を討ち取ったのは覚えているかね?」
「幹部?」
「マコル!お前が壁から引き摺り落とした男だ!」
「・・・あぁ!あのプレートメイルの!」
「そうだ!何で忘れる!」
「特に印象無いからなぁ」
『そりゃぁねー』
「記録によると鉤縄で落としたとあるが」
「そうですね。なんか背が高くてごっつい、狙い易い奴が来たなーって思ったんで。楽でしたね」
『・・・』
「そうだ!念の為に剣を拾って・・・えーっと、それから・・・」
「私が預かったんだ!」
「そう!確かそう・・・のはず」
「疲れてたからね」
「そうだねぇ」
「仕方ありませんわ」
「スタミナポーション2本も飲んでたしな」
「そうだ!ポーション売ってます?」
「品切れじゃのぅ」
「ですよねー」
「もう1人、幹部を。これは生け捕りだが」
「・・・あぁ、あいつね。あいつもあんま印象無いなぁ」
「・・・どうやって捕まえたのかね」
「梯子を降りて逃げようとしてたので、飛び降りて踏んずけながらそのまま地面に」
『・・・』
「地面に落ちたら起き上がれない感じだったので」
『そりゃぁねー』
「そのまま手足の骨を折って捕まえました」
「・・・う、うむ。証言とほぼ同じだな」
「お前達が倒した幹部達は結構重要な人物だったのじゃ」
「へぇ?」
「立て直しに時間が掛かるというのはそれも含まれているのだよ」
「なるほど。まぁ、フリーエさんの為になったのなら、良かったよな?」
「そうね」
「うん!」
「はい!」
「そうだな」
「ヒェッヒェッヒェッ。ありがとなぁ」
「ブルーフの報告だと君達も流石に疲れたようだね」
「彼女らはゾンビみたいでしたね」
『お前が1番ゾンビだった!』
「ヒェッヒェッヒェッ。まーずはゆっくり休んでおくれな」
「ありがとうございます」
「すまないが報酬は今は無理なのだ。後日必ず支払うので待って欲しい」
「戦争に勝たなきゃ報酬も無いですよ。なっ、バイヨ」
「はい。承知しております」
「すまないねぇ」
「午後は特に任務は無い。上長には連絡をしておくから休むなり自由にしてくれ」
「分かりました」
「ただ直ぐ連絡が付くようにはしておいてくれ」
「はい」
「うむ、御苦労だった!これからも頼むぞ!」
『はい!』
カズヒコ達が部屋を出て行く。
「ふーむ」
「いや、数を正確には覚えていないとは」
「しょうがないじゃろ。乱戦じゃったみたいじゃし」
「冒険者ならば報酬の為にキッチリするでしょう」
「冒険者なのは間違いない。悪魔を倒すくらいじゃからのぉ」
「えぇ」
「フリーエ様の為と言っていましたが・・・」
「本心であって欲しいものよ」
「私にはそう思えましたが」
「ヒェッヒェッヒェッ」
「まぁ正確に数えられませんでしょう。今の所の記録だけでも彼らだけで少なくとも80人を倒していますから」
「ふーむ」
「街外の弓兵は殆ど彼らでした。矢が我が軍が支給する物ではありませんでしたし」
「壁上の死体も門の真上付近の死体は彼らで間違いないでしょう」
「ふーむ」
「門ですが。街軍の死体は有りませんでした」
「門を守っていなかった訳だな」
「はい」
「塔に押し込まれたとか」
「はい」
「ふーむ」
「門付近の死体ですが。我々が倒した敵の傷口は分かります。他は全て切れ味の悪い、剣で斬ったのではなく鉈のような物でぶった斬ったようでした」
「山刀か」
「恐らく。傷口も汚く、恐らく血糊だろうと思われます」
「連戦で汚れていった刃物だと」
「えぇ」
「しかしその死体が30以上?」
「・・・はい」
「信じられんよ」
「はい。私もそう思います。しかし・・・」
「何か見たのか?」
「・・・はい」
「何を見た」
「・・・仮面の下の、素顔・・・ですか。確かに仮面はしていましたが・・・」
「「・・・」」
「仮に。ブルーフが奴と戦ったとして、勝てるか」
「・・・1対1なら」
「ん?」
「戦争だと負けます」
「戦争だと?」
「何が起こるか分からない戦場だと、っちゅう事かいの」
「はい」
「・・・そうですな。幹部を倒したのも真面に戦っておりませんし」
「それがあやつの戦い方なのじゃろぅて」
「はぁ、しかし」
「勝ち方が有る、ただ勝てば良い訳ではない・・・と」
「・・・はい」
「それは騎士の我儘じゃろぅ」
「・・・」
「それで北部に占領されれば苦労するのは民じゃ。騎士の自己満足の為に民を犠牲には出来ん」
「我儘・・・ですか」
「矜持を持つのは大事じゃが、それに囚われてはいかんのぉ」
「・・・はい」
「さてさて。仮面の下は悪魔かそれとも・・・」
「フリーエ様を慕っていましたが」
「情が深いのはそれだけ恨みも深いものよ」
「・・・任務で恨まれるかもしれませんな」
「ふーむ」
「私が命を懸けて御守り致します!」
「ヒェッヒェッヒェッ。若いもんを盾にする訳にゃぁいかんわな」
「しかし彼らにはやってもらうので?」
「はぁ~。街軍がここまでだったとはのぉ~」
「これは他の街でも同じなのでは」
「はぁ~。春じゃというのに気が重いのぉ」
僕達は宿舎の部屋に戻って来た。
「さて。午後はどうしようかしら」
「ゆっくり休もうぜ」
「ナ~オ」
「この子もそう言ってるしね」
「そうだな」
「道具の手入れもしっかりした方が良いだろうしね」
「カズヒコさんの上着を仕上げますわ」
「頼むね」
「はい!」
「私は薬草キットで《薬学》修行だ」
「あたしは戦闘用バックパックを作るよ」
「大活躍だったぞ」
「うん!」
「私は何しようかな」
「舟調べたら?」
「庭だと兵士に見られちゃうでしょ」
「この部屋でやれば良いんじゃないか?」
「「「「・・・」」」」
「調べるだけなら大丈夫だろう」
「そ、そうね。作業しなけりゃね」
「舟がある部屋って初めてだよ」
「カズヒコさんは何をされるんですか?」
「庭の隅を《偽装》して鍛冶をしようと思ってる」
「大丈夫!?」
「そういやカズ兄ぃの山刀、もう駄目になったんでしょ?」
「あぁ。昨日だけで2本逝った」
「最近連戦だったからね。替え刃を作るの?」
「いや今日は作らない。金鎚音は出ないと思うから大丈夫だと思うよ」
「そう。まぁ、気を付けてね」
「あぁ」
僕達は、それぞれの午後を過ごした後、揃って夕食を食べた。
部屋に戻って話をする。
サーヤ君から新しい上着を受け取った。
「良いじゃないか」
「良かったです!」
「手慣れて来たわね」
「はい!」
「上着も作れるんじゃない?」
「そうね」
「作ってみるか?」
「はい!」
「この戦争が終わってムルキアに帰ったら素材を手に入れよう」
「そうしましょう」
「菊池君はどうだったんだ?」
「分解して構造は分かったわ。同じのは作れると思う」
「そうか。じゃぁ広い場所で分解したやつを組み立て直してみるか」
「そうね」
「カズヒコさんは何を作っていたのですか?」
「あぁ。みんなにプレゼントだ」
『プレゼント!?』
「ほい」
「これ・・・望遠鏡?」
「あぁ」
「望遠鏡?小さいねぇ」
「ポーションの瓶を再利用した」
「望遠鏡は値段が高いが自作出来るのは良いな」
「昨日、遠くに敵を見た時欲しいと思ってね」
「なるほどねー」
「月も見られるの?」
「そこまでじゃない。試しに作っただけだ」
「カズ兄ぃは感知は出来るけど敵かどうかまでは分かんないもんね」
「なるほどね。だとすると私にも都合が良いわね」
「あぁ。場所は分かるんだ。敵かどうか確認も遠くから出来る」
「性能を上げていってよ。月とか見てみたいわ」
「そうだな。前の世界よりも大きいしな。むっ!」
「どうしたの?」
「誰か来る・・・事務員の子だ」
コンコンコン
「失礼します。カラッハ様からの緊急の呼び出しです」




