⑪-22-315
⑪-22-315
「おのれ邪教徒共め!天に唾する不届き者共めが!いずれ我が剣の錆にしてくれようぞ!」
俺達の右側で叫んでいる男が居た。
プレートアーマーの男だ。
所謂、捨て台詞というやつか?
「おい!今剣の錆にすれば良いじゃないか!周りに相手なら幾らでもいるだろ!?」
「貴様!貴様こそそんな所で女に囲まれて恥ずかしいとは思わんのか!」
「逃げる奴に言われてもなぁ!」
『おーっほっほっほ!』
「きっ、貴様等!覚えておけ!いつか必ず天罰を下してやる!」
「だからー!今やってみろってー!そらそらおしーりぺーんぺん!」
「むがー!敬虔なる神の使徒に尻を向けるとは言語道断!こっちに来い!なますにしてやる!」
「お前が来いよ!ほら!こっち来いよ!」
「貴様が来い!命令だ!」
「俺じゃなくても良さそうだな!」
「何!?あっ!」
味方が押し込んでいる。
足止めは成功のようだ。
「貴様!卑怯だぞ!」
「もう直ぐ神の下に送ってやるよ!」
『おーっほっほっほ!』
「むぐぐぐ!いずれ貴様を見つけ出して首をこの壁に晒してやる!女達は奴隷だ!」
「おしーり、ぺぺぺぺぺぺぺーん!」
「ぐぎぃー!必ず殺してやるからなー!さらばだ!」
男は梯子に移った。
「ロープを有るだけ用意しろ!」
『?了解!』
俺は胸壁を何個か飛び移って奴を見定める。
梯子を降りてる味方を蹴り落として少しでも早く降りようとしている。
俺は胸壁を踏み切って空に躍り出た。
『マ、マコル!?』
俺はプレートアーマーの男を踏みつけるように着地ならぬ着体した。
勢いでそのまま落ちて行く男と俺。
男がクッション替わりになって俺は無事だったが男は結構なダメージを負ったようだ。
「ぐぐぐ・・・い、一体何が・・・」
「よう!また会ったな!」
「き、貴様は!?」
「おら!」
寝そべったままの男の顔に蹴りを入れる。
「ぐあっ!」
「ほーら!来てやったぞぉ!」
「わ、私の顔に・・・」
「おら!」
もう1発蹴りを入れる。
「ぐあっ!」
「来てやったんだから何とか言えよー!」
「き、貴様!こんな事をしてタダで済むと「おら!」おもいっ!」
俺は男の腕を持ち上げる。
「なっ、何をする!?」
肘を逆方向へ一気に開く。
バキッ
「ぎゃあああぁぁぁ!」
「良いー声だぁ!神にも届いたんじゃねーかぁ!?」
「だっ、誰かぁ!こいつを殺せぇ!」
「誰もおめぇなんか見ちゃいねーよ!」
周りは一目散に逃げる兵士ばかりだった。
街の中に入っても殺されるだけ。
なら外に行くしかない。
しかし外は矢が飛んで来る。
なら届かない所まで走るしかない。
俺はもう一方の腕を持つ。
「ちょ、何を!?待って!待ってくれ!待っ「おら!バキッ」てああぁぁぁ!」
「良いぞー!神もお喜びだろう!」
「神よぉぉぉ!お助けをぉぉぉ!」
「あの城壁にお前の首を飾ってやるからな!」
「たぁすぅけぇてぇくぅれぇ!」
「そうかそうか!お前の願いは聞き届けられる!」
「えっ!」
俺は足首を持って思いっきり捻る。
グキッ
「ぎにゃぁぁぁ!」
「は-っはっはっは!お前の献体にさぞや神もお喜びだろう!」
「こ、こんな事をしてタダで済むと・・・思うなよ」
「ほー」
「私はキルフォヴァ攻略軍4魔将が1人!名を「グキッ!」おおぉぉぉ!」
「おーい!ロープを降ろしてくれー!」
『・・・』
男の身体にロープを縛り付け、壁上に引き上げて行く。
俺も別のロープで登る。
結構、位が高そうな奴だ。
さっき鉤爪で引き摺り下ろした奴と同じくらいか?
報酬が期待出来そうだ、こいつは生け捕りだからな。
周りは混乱の極致だ。
逃げる為に壁から飛び降りる奴、
我先に梯子を掴む為に味方を蹴落とす奴、
誰も中央の俺達には見向きもしない。
逃げることにのみ、気が行ってる。
俺と男が引き上げられた。
「飛ばないでよ!ビックリするじゃない!」
「来いよってこいつが言うからさー」ドカッ
「ぐはっ!」
ミキに返事をしながら蹴りを入れた。
「き、きしゃま!こんなことをして」
俺はナイフで目を斬る。
「ぎゃああぁぁぁ!?」
ついでに耳を斬り落とす。
「ぎにゃあぁぁぁ!?」
「おい!」
「いたぁぁぁいぃぃぃ!」
蹴りを入れる。
「ぶあっ!」
「おい!勝手に喋るな!勝手に喋ったら目を斬り耳を斬り落とすぞ!」
「えっ!えぇ!?」
「分かったな!」
「は、はい!」
「よーし!大人しくしてろよ!」
「は、はい!」
『・・・』
攻街戦時、門付近には梯子を掛けない。
門の側には階段が無いからだ。
門に階段が近いと守ってる方は直ぐに上に行けるが逆もまた然り。
なので門の真上は逃げる敵も来ず戦いの流れに取り残された淀みの様になっていた。
そこは一種、周りとは別空間のように動きのない世界となっていた。
並んで壁にもたれて座っていたワイルドキャットの面々。
メンバーは仮面を外していた。
壁上は押し返して完全に味方が掌握していた。
敵も最早矢の届かない位置まで下がっている。
味方は敵に向かって雄叫びを上げていた。
「はぁ~、疲れた」
「ホントね」
「疲れたよ」
「疲れましたわ」
「疲れたな」
「いたぁぁぃぃ」
「疲れたよ」
「疲れたわね」
「疲れたね」
「うぅぅぅ」
「戦争って本っっっっっ当に大変だな。こんなに疲れるんだな」
『・・・』
「いたぁいぃ」
「あぁやだやだ。戦争なんてホントにやだ。疲れるわ汚いわ臭いわ味方は使えないわ敵はムカつくわ、略奪する気持ちも分かるな。やっとれんわ」
「略奪は駄目だよ」
「分かってるよ。けど見返りが無いとな」
「北部に勝たしちゃ駄目でしょ」
「それはそれ。協力するけどリターンは要るでしょ」
「まぁ、ね」
「コイツみたいに神の為にーとか、国の為にーとか言われて戦うか?」
「でもコイツもそれで来た訳でしょ」
「んな訳ないだろ」
「えぇ?」
「おい!」
「うぅぅいたぁい」
「おい!」
ガスッ
目の前に芋虫のように寝転がってる男に蹴りを入れる。
「いたっ!?な、なんでしょう!?」
「お前は何で壁を登って来たんだ?幹部だったら後方にいるはずだろ。正直に話せよ」
「は、はい!壁を突破したのを見て略奪をする為です!基本早い者勝ちなんで!」
『・・・』
「なっ」
「そうね」
「寧ろそーゆー事の方がまだ健全だと思うね」
「そーゆー事って略奪の事?」
「あぁ」
「なんで?」
「神の為とか民族の為とか国の為とか、大層な理由付けるから大虐殺なんてするんだよ」
「コイツみたいに神は建前にしてって事?」
「いや、コイツがマシって事。本気で神の為に神の名を騙って無自覚に自分の欲望を果たそうとする奴よりは、って事」
「でも神は信じるでしょ。スキル習得の時に聞こえるし」
「それだよな」
「それ?」
「なまじ聞こえるから神を受け入れやすいんだよ」
「そりゃそうでしょ。実際聞こえるんだから」
「だから、神が言われたって言われたら信じちゃうんだよな」
「そうね。聞こえる時は限定されてるけど聖職者なら別の時にも聞こえるのかもって思っちゃうわね」
「マコルとマリアの話だと神を信じていないようだが」
「私達は一種の精霊信仰よ」
「この世は沢山の神が居るって感じだ」
「ほー。沢山居るから聞こえても不自然ではないと」
「まぁな」
「それだとやはり神の声は否定出来ないんじゃないのか?」
「否定はしない」
「ふむ?」
「聖職者だけだとは思っていない。みんな平等に聞こえると思ってる」
「平等だと逆に犯罪者が生まれないだろう。神を信じるんだから」
「神の声に耳を傾けるかは本人次第って事だ」
「・・・心の隙って事か」
「そーゆー事。それに神を信じるのと罪を犯すのとは別の問題だ」
「別というと?」
「バイヨ達の神の教えで人を殺しては駄目って有るか?」
「あぁ、勿論だ」
「じゃぁ今日僕等のやった事は教えに反している訳だ」
「・・・いや守る為なら赦されるだろう」
「条件付きの教えか」
「む」
「絶対の神の、条件付きの教えに、不完全な人間が従う訳だな」
「人は間違いを犯すわ。神の言葉をどう解釈するかで人は変わるのよ」
「家族を守る為に戦うのは正義よ。侵略して来たのは奴ら。なら守る為に殺すのも赦されるはずよ」
「エリス教にとって異教は邪教。だから成敗は許されているらしいぞ。僕等の神を否定するのがエリス教徒の正義だろ」
「私達は他の神様を否定しないわ、エリス教だろうがね。でも私達の神を否定され攻撃されるのなら戦うわ。神は家族であり部族であり私達そのものだから」
「その辺に大虐殺や冤罪の発端が有るんじゃないのか?」
「どの辺よ」
「拡大解釈すれば守る為の戦争は正義になるだろ」
「そうよ」
「守る為に攻撃するのも正義だな」
「えぇ」
「守る為、攻撃されない為に先に攻撃するのは正義か?」
「「「うーん」」」
「相手がこっちを攻撃しようと準備をしているのに気付いた。どうする?」
「「「うーん」」」
「準備が整って攻撃されたら負けるかもしれない。家族は殺され子供は奴隷に。どうする?」
「先に攻撃して破壊した後引き上げれば良いんじゃないか?」
「その後また準備を始めるかもしれないだろ。だったらそのまま占領を」
「議論の中悪いが状況を聞かせてくれるかな?」
レヴィがやって来た。




