⑪-15-308
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「きゃあぁ!」
「エマさん!」
エマが腕に矢を受けた。
「マヤ!持ち場を離れるな!」
「でもエマさんが!」
「命令を聞けぇ!」
「わ、分かった!」
「エマ!ポーション持ってるな!?」
「え、えぇ!持ってるわ!」
「自分で回復しろぉ!」
「分かった!」
他の味方兵士は登って来た敵を突き落としている。
まだ大丈夫そうだ。
「敵弓兵も目に見えて減って来た!このままだ!」
「マコル!あれ!」
「ん!?」
大楯に包まれた一団がこちらにやって来る。
正面、天井、側面。
矢を射かける隙も無い。
「火魔法使いだ!」
のそのそ。
歩みは遅いがその脅威が分かるほどの圧迫感だ。
「マヤ!」
「うん!」
「遠距離の火魔法って言うと!?」
「・・・《ファイアーアロー》か《ファイアーボール》かな!」
「マヤ!マーラは合図を待て!」
「「了解!」」
「全員!合図で隠れろ!」
『了解!』
「マリアは《風載矢》だ」
「何を?」
「《衝撃波》だ」
「分かった。~~~・・・」
大楯の一団が止まった。
「届くか!?」
「えぇ!」
《魔力検知》で視ると火魔法を準備しているようだ。
大楯の上空に火矢が現れた。
大楯が開かれ杖を持った魔法使いが姿を現す。
どうやら視認しないと飛ばせないらしいな。
「隠れろ!」
「《ファイアーアロー》!」
全員胸壁に隠れる。
ガガガガガガッ
誘導されたのか火矢が胸壁にぶつかって消えた。
俺は胸壁から出る。
「くそっ!?発動のタイミングで隠れただと!?」
「マリア!」
ミキが胸壁から俺の横に出て来て弓を構える。
「くっ!」
魔法使いは急いで大楯に隠れるようにするが、
「《風載矢》」
周りの喧騒に聞こえないだろう声と同時に矢が放たれ大楯の一団に向かって行く。
矢は閉じられようとしている大楯の隙間に潜り込んだ。
そして、
ボンッ
「ぐおぉ!?」
「おわっ!?」
「うあぁ!?」
矢がぶつかったであろう箇所を中心に小型の衝撃波が発生。
小型だがしかし密集隊形の一団の中で発生した衝撃波は外殻の大楯装備兵は勿論、中心付近に居た魔法使いを吹っ飛ばしその姿を晒させた。
「マヤ!マーラ!撃て!全員出て戦え!」
「「はい!」」
「「「「了解!」」」」
マヌイとサーヤが隠れていた胸壁から出て弓を構える。
バイヨ達3人も出て元通り戦いだし、ケセラもマヌイのカヴァーに入った。
「「えい!」」
2人の放った矢は起き上がろうとした魔法使いを射抜く。
「ぐあっ」
「ローブで助かったな!」
矢は胸を貫いていた。
革鎧だと弾かれたかもしれん。
「ちゃんと狙ったんだよぉ!」
「よくやった!」
「うん!」
「このまま弓兵を狙い続けろぉ!」
「「「「了解!」」」」
「魔導士がやられました!」
「くそっ!何だあいつ等は!?」
「弓兵が狙われています!」
「まだだ!もう直ぐ突破出来そうなんだ!このままだぁ!」
「ティア!」
「何!?」
「詠唱!油と火種を用意しろ!」
「分かった!~~~・・・」
「マコル!」
「何だ!」
「左の味方は持ちそうにない!」
「くそっ!セリーナ!」
「何だ!」
「2人分カバー出来るか!?」
「弓兵が減ってる!大丈夫だ!」
「エマ!」
「何!」
「セリーナの後ろに入れ!」
「分かった!」
「バイヨは備えろ!」
「分かった!」
「ティア!」
「行けるわ!」
「見えたら掛けろ!そのまま維持だ!」
「了解!」
「うおおおぉぉぉ!」
「《バインド》!」
「ぐあっ!?」
ティアは固まって動けない兵士に向かって油を掛け火を点ける。
「ぎゃああぁぁぁ!」
火達磨になった兵士は断末魔の叫びを上げる。
ティアは《バインド》を維持し燃える兵士の後続はその先へ登れない。
しかしバイヨの横に居た味方兵士の守りが突破された。
バイヨが加勢する。
敵弓兵が数を減らすうちに飛んで来る矢の数も減って俺やケセラ、バイヨは余裕が出来ていた。
それはつまりカヴァーされてるミキ、サーヤ、マヌイ、エマにも余裕が生まれた訳で。
集中力が高まり敵弓兵を狙う矢は命中率が上がっていた。
「ぐあっ」
「くそっ!」
隣の弓兵が矢で射抜かれて倒れたのを目の当たりにして悪態を吐く男。
もう周りは半分やられてんじゃねーか。
全滅だろ、これ。
自分は逃げて安全な所から命令だけしやがって。
男には開戦時の司令官の逃亡が頭をよぎっている。
自分達はもう半分も居なくなってる。
このままだと自分も・・・
指揮官が逃げたんなら自分も逃げて良いはずだ。
お宝や女は諦めよう。
死んじゃ意味ねーよ。
女は女房で我慢だ。
そんな事を思ってる内に喉に矢が突き刺さった。
「あ、あぁ・・・」
声が出ない男は隣の男に助けを求める。
喉に矢が突き刺さってる倒れた男を見て同じ弓兵は逃げ出した。
1人が逃げ出すとまた1人、
更に2人。
弓兵はみな同じ様に思っていたのだ。
遠くの味方が10人殺されても然程特に思う事もなかったが、
直ぐ近くの味方が1人殺されただけで次は自分の番だと思いだす。
1人の逃亡から連鎖が始まり弓兵は全員逃げ出していた。




