⑪-06-299
⑪-06-299
「「「びえええぇぇぇ!」」」
馬車の改良とケセラの《馬術》により通常のラドニウスでは出せない速度を出していた。
荷台左右にそれぞれ長椅子を設けて向かい合うように座っている。
個々の座席を設けるのは重量増加の為に出来ないが、シートベルトを作ってあった。
しかしベルトを装着しても体が斜めになるほどの速度が出ている。
「あっ、あれから更に改良したんだな」
「あぁ」
「ラドニウスでこれだけ速度を出せるとは」
「この分だと2日ほどで着くはずだ」
「「「2日!?」」」
「マルコ!」
「何だ!?」
「風見蛇を!」
ケセラが自身の隣に立ててある2mほどの棒の先端、
鯉のぼりではなくベア・ボアをモチーフにした風見蛇を指さしていた。
大口を開いて空気を食ってたなびいている。
「ルーラ君!」
「はい!」
サーヤ君がマストを収納袋から取り出し帆を取り付ける。
狭いがみんなでテキパキとこなしていく。
その様子を物珍し気に見ているバイヨ達3人。
組み終わって帆を付けたマストを御者台の後ろにある金属の輪に嵌め込む。
輪はその両端を荷車に固定され、輪自体は回転するようになっている。
なので嵌め込んだマストを直立させるように立てて行くとストンと底に嵌り込んだ。
これまたマスト用の受け穴を拵えてあったのだ。
「帆を張れ!」
と言いつつ自分で張る。
俺が1番近い。
当然だな。
バサッ
『おぉー!』
バタバタバタ
良い感じだ。
「速度は上げないのか?」
「あぁ」
「何故だ?」
「ラドニウスの負担を下げるのが目的だ。その分長く走れる」
「なるほどな」
「だろ!?」
「ブオォォ!」
それまでの一連の作業中もベルトを腰に巻いたままこなしていた。
座席用のベルトと床に固定したベルトと2種類用意していた。
これで走りながらでも作業に集中し易いだろう。
ここらは平原、風向きも頻繁には変わらないだろう。
(面白い形ね)
(ジャンク帆だ)
(ほー、アジア的な感じね)
(あぁ、その通り。参考にした。操作しやすい)
新たに開発したラドニウス用に負担軽減させるハーネスや軽量化した荷車のお陰か、野営する頃にはかなりの距離を稼げていた。
そして翌日。
順調に走行していたが、
「むっ!」
「どうしたの?」
「おかしな気配だ」
『おかしな気配?』
「何かこう・・・入り乱れたような・・・」
「争ってる?」
「そう!そんな感じだ」
「でもまだベルバキア領だぞ?」
「でも国境には近いんでしょ?」
「うむ」
「行って見ようよ」
「そうするか」
僕達は馬車を木に繋いで様子を見に行くことにした。
〈きゃー!〉
〈助けてくれー!〉
〈誰かー!〉
〈えぇーん!お母さーん!〉
藪から覗いてみると兵士に村が襲われていた。
「ベドルバクラ兵だ!」
「えぇ!?こんな所まで!?」
「あの兵装は間違いない!」
「どうするの!?」
「どうするったって、殺るしかねぇんじゃねーの?」
「そ、そうね・・・」
「覚悟決めろ」
「「う、うん」」
「数は凡そ30人」
「「「さ、30!?」」」
「村人と入り乱れてて詳しくは分からん」
「そ、そうか」
「とりあえず5,6人ブッ殺せば全員こっちに来んだろ」
「ず、随分適当だな」
「魔法使いは居ない、強そうなのは1、2人くらいだ。油断しなきゃ大丈夫だろう」
「しかし30人だぞ!」
「セラナとバイヨは盾だ」
「「分かった」」
「ジーナ、アヤ、ルーラ、エマは弓で射殺せ」
「「「「了解!」」」」
「ティアは《バインド》だ」
「分かったわ!」
「マルコは?」
「俺は遊撃で数を減らすよ」
「分かった」
ヒュウゥゥゥン
「あぐっ」
村人に斬りかかろうとしていた兵士の頭に矢が突き刺さる。
「ぐあっ」
「ひくっ」
次々に兵士に突き刺さる矢。
頭に喉に。
「な、何だぁ!?」
「どうした!?」
「あっ!あそこを見ろっ「サクッ」くっ」
「冒険者だ!」
「冒険者が来たぞぉ!」
「女だ!」
「女だぁ!」
「俺のもんだぁ!」
「あっ!抜け駆けすんじゃねぇ!」
「俺にもやらせろぉ!」
兵士達が駆け出す。
トスットスットスットスッ
4人が矢を受け倒れる。
矢の弾幕を潜り抜けた男達は、
「おらぁ!」
「ぐふぅ!?」
ケセラのシールドバッシュで弾き飛ばされ、
飛ばされた先は、
「そぉい!」
バイヨの大剣で斬られるのではなくブッ叩かれていた。
斬られれば即死だろうが潰れた体は動けない上になまじ直ぐに死ねないから余計に苦しい。
バイヨも狙ってやってる節が有る。
「おー、怖」
彼女達の戦いを尻目に俺は家に忍び込む。
「ひっひっひ」
「ううぅぅぅ」
兵士が女に跨りお楽しみの最中のようだ。
背後から近付き左手で男の口を抑え右手の解体ナイフで心臓を何回か突き刺す。
「ヒゥ・・・」
動かなくなったモノを脇に投げ捨て女に語り掛ける。
「しー。冒険者だ、助けに来た」
「ぼ、ぼ、冒険者・・・?」
「隠れていなさい。俺はまだ村人を助けないといけないから」
「は、は、はい・・・」
他にも《魔力探知》で引っ掛かる反応が有る。
その家では2人の男が1人の女を押し倒していた。
「は、早くしろよ!」
「待てって!」
「他の女もヤルんだからよぉ!」
「うるせえぇ!だったらそっち行けよ!」
「先ずはこの「ガタン」ん?」
男達が音のした方を見るが何も無い。
俺が気を逸らす為に石を投げたからだ。
「くはっ」
「えっ!?あっ、あっ!?」
マチェーテを脇から刺し込まれ痛みのあまり呼吸が出来ない男を振り返って見たもう1人の男、
「てっ、てめぇ!」
俺が徒手なのを見てやる気が出たのか武器に手を掛けようとするが、
ブサッ
両目に親指を突っ込まれ、
「ぐあっ!?」
俺はそのまま男の口を抑え親指を目に深く深く突き刺していく。
ジタバタジタバタジ・・・タ・・・
男は静かになった。
「は・・・はぁぁぁ!?」
「しー。静かに。冒険者だ、助けに来た」
「冒険・・・助・・・け?」
「隠れてろ。静かに。いいな?」
コクコク
女は黙って頷いた。




