⑪-02-295
⑪-02-295
その日の内にムルキアに帰り、裏庭を借りて舟を研究する。
裏庭は誰も使わないので本当に好都合だ。
夕食後もランタンを点けて作業をする。
《木工》を習得出来るかもしれないので菊池君も熱心だ。
「でも収納袋に入れるとなると・・・5人乗りは無理ね」
「あぁ2人までだろうね」
「じゃぁ・・・3台作るの?」
「いや、双胴舟にして間に板を渡して筏みたいにしたらどうかなって思ってる」
「ふーむ・・・なるほどねぇ。良いんじゃない?」
「先ずは分解して構造を学ぼう」
「そうね」
2つある舟の内、1つをバラして調べていく。
ただ僕等は冒険者だ。
睡眠不足になって戦えなくなってもいけない。
程々にして十分な睡眠時間を取った。
翌朝。
午前中の修行から帰って来た菊池君が上機嫌だ。
『《木工》を習得した!?』
「えぇ!遂にね」
「そうか、良かったな」
「でも修行始めてそんなに経ってないよね」
「でも1年以上前から木には触れていたそうですしね」
「えぇ。笛やら木彫りやら何やら・・・ね。もう直ぐ2年になるのかぁ」
「感慨深いな」
「えぇ」
「後は私だけか」
「マイペースでいけよ」
「うん、ありがとう」
「ケセラはLv4で武技使える天才なんだからな」
「ははは、頑張るよ」
「それじゃぁ午後も舟を作るの?」
「いや。魔石確保に行こう」
「そうね。やっぱり行ける時に行っとかないとね」
「そうだねぇ。なんだかんだで3週間くらい忙しかったもんねぇ」
「そういえば、エウベルトさんに割られた肘のプロテクターは直ったんですか?」
「あぁ、とっくにね。流石トロール装備だよ」
「じゃぁ尚更魔石確保しないとね」
「それと新たに試したい物も作った」
『へぇ』
森の奥に来た。
「マヌイの弓を改造して造った、これだ」
袋から脇に抱えられる程の長方形の鞄を取りだした。
「弓?この中に?」
「あぁ。今見せるよ」
鞄を開けると弓の部位がバラバラに入っていた。
「・・・組み立てるの?」
「「「組み立て式!?」」」
「そうだ。マヌイ、これを持って」
「うん」
「これが握る所だ」
「逆コの字になってるね」
「そうだ。ちょっと菊池君の弓を見てみよう」
『はーい』
「この菊池君の弓は構えて見ると弦が弓の中心に重なるだろ」
「そうね」
「しかしその場合、矢を番えたら矢は弓の中心線から逸れて番う事になる」
「そうだね」
「それだと射た時に矢は真っ直ぐ飛ばない」
「そうですね」
「だからあらかじめ、その逸れた分を計算して射なければいけない」
「そうだな」
「しかし今回作った握る所は金属で逆コの字になってて矢を番えた時、矢は弓の中心に来るようになる」
『ほほー』
「見たまま飛ぶって事ね」
「あぁ」
「狙い易くなるね!」
「後はこの弓の上下のリムを嵌めて・・・と」
『嵌め込み式!?』
「あぁ。これで良し。マヌイ、使ってみてくれ」
「うん!」
ビョーンビョーンビョーン
しなりを確かめている。
矢を番えて木に狙いを定めた。
シュッ
トスッ
「うん!良いね!直感的に狙い易いよ!」
「そうか。じゃぁロングに変えよう」
『ロングボウに!?』
「嵌め込み式だから上下を変えればいけるぞ」
「へー」
シュッ
ットスッ
「良いね!」
「大丈夫そうだな」
「うん!」
「じゃぁこれで良いかな」
「うん!使い易い!」
「薄い鞄に入る大きさだからバックパックにも入る。それだとわざわざサーヤ君の下に行って収納袋から取り出さなくても大丈夫だろう」
「なるほど。戦闘中にサーヤの下に行くのは手間だものね」
「その場で用意が出来る訳か」
「僕等の要は収納袋だ。とはいえ、もし失ってしまったら武器が無くなってしまう」
「リスクの分散ね」
「戦闘用のバックパックはどうするの?」
「勿論併用する。戦うと分かってる時に使用すれば良い」
「今回の弓は旅などの移動中の遭遇戦に備えてって事ね」
「それぞれの大きいバックパックに戦闘用のパックを入れておけば良いんじゃないか?」
「そうだな。大きい方は門衛なんかに探られても怪しまれないように日用品や水食料を入れとけば良い」
「ポーションなんかを戦闘用パックに入れるんだね」
「そうしよう」
「あの!カズヒコさん!」
「ん?」
「私のも組み立て式にしてください!」
「あぁ、それは構わないが、良いのかい?」
「はい!」
「そうね。携帯出来るのは良いわね。私のもお願いするわ」
「うん、私のもだ」
「分かった。折角だ。黒犬の腱を使うか」
その後街に帰るまで弓のテストを兼ねて魔石狩りをした。
その日の夕食後。
「カズヒコ、1つ聞いておきたい事が有るんだけど」
「何だい?」
「結晶魔石よ」
「・・・あぁ、使い道か」
「えぇ、売らないのよね」
「希少だから市場では見ないってムトゥルグのクエイドさんは言ってたよね」
「言ってたわね」
「確かに売れば結構な値になるだろうが、滅多に手に入らないのであれば持っていた方が良いんじゃないか?」
「そうよね」
「少し試してみたんだが」
「何を?」
「あの結晶魔石は風の属性を持っていて魔力を注ぐと風を発生させる」
「でしょうね」
「2種類の風が生まれるみたいなんだ」
「2種類の風?」
「あぁ。生まれる風と作り出す風と」
「どう違うの?」
「作り出す方は風が発生すると反動が有る」
「生まれる方は反動が無い、と」
「あぁ。そして生まれる方は魔力消費が大きい」
「作り出す方は周りの空気を使ってるからかしら」
「多分な」
「ふーん」
「更にイメージすればある程度コントロール出来るようなんだ」
「具体的には?」
「指向性を持たせることが出来る。威力の増減もある程度にね」
「・・・扇風機みたいに使えるって事?」
「あぁ。それで作ってみたい物が有るんだ」
「ふーん。何?」
「飛行機」
「「「ひこうき?」」」
「・・・私乗らないから」
「どうして?ミキ姉ぇ」
「まだ死にたくないからよ」
「どういう事です?」
「空を飛ぶ荷車って所かしら」
「「「空を飛ぶ!?」」」
「ホントに!?」
「飛べるんですか!?」
「流石に無理だろう!」
「試す価値は有ると思うが・・・」
「私は乗らないから」
「・・・パラシュートを先に開発しよう」
「「「ぱらしゅーと?」」」
「高い所から落ちても助かる道具よ」
「なるほど。ひこうき開発中に落ちても助かるようにという訳だな」
「うむ」
「それなら良いんじゃない?」
「・・・まぁパラシュートが信頼出来る物ならね」
「それが大前提だな」
「当たり前でしょ」
「じゃぁ、マヌイとサーヤ君の出番だな」
「「私?」」
「軽くて丈夫な帆を作ってもらう」
「「帆」」
「まぁそれくらいなら」
「えぇ」




