②-12-29
②-12-29
「ではこの皮紙の、マイタケ×1を確認してサインを下さい」
お兄さんは手袋を脱ぎ、皮紙に自ら書き込んだ後渡してきた。
「「しました」」
「それではこれがカードと、依頼報酬6000と魔石買取額1000の合計7000エナです。ご確認ください」
「「しましたー!!」」
その日、コローの街の人達は街中を手を繋いでスキップしていく男女を見かけたという。
僕達は部屋に着いて一息入れていた。
まだ夕方にすらなっておらず夕飯にもまだ時間がある。
「7000ですよ先輩!7000!」
「いやー、マジか~。達成感半端ないなー」
「先輩は文字通り命張りましたもんね!お疲れさまでした!」
「ありがとう。君のフォローのお陰だよ」
「明日休みます?」
「いや、僕は大丈夫だけど。君は」
「私は普段よりも戦ってないので全然疲れてないですよ」
「気疲れはしたんじゃないか?」
「先輩に比べたら全然ですよ」
「ならまた稼ぎに行きましょうかね!」
「そうしましょうかね!」
「いやー、この世界足りないものの最たるものがさぁ、BGMだよね」
「あっ、分かりますー!こう、今高揚してる気分の時欲しいですよね!」
「あと飯食ってる時とかな。風呂は・・・拭いてるだけだからいらないか」
「吟遊詩人とかいないんですかね?」
「見ないなぁ。楽器とか買ってみる?」
「自分で?」
「前世の曲をこっちで広めてさ。俺の曲だぜーって歴史に名を残すとか」
「それだめー!」
「まぁ、著作権は置いといて。楽器を習うってのは有りだな。人生の愉しみ的に」
「そうですね。先輩がやるんなら、やってみようかな」
「作ってもいいしな」
「作れるんですか?」
「リコーダーとか作れそうじゃね?」
「小学校で吹いてた?」
「そう」
「簡単そうですけど・・・」
「まぁ、難しいだろうね。あっ!そう言えば」
「どうしました?」
「笛を買っておこう」
「笛?何故に?」
「もしお互いを見失ったら吹いて知らせるんだ。前世でも防災グッズになってるし」
「なるほど!」
「前世のは、物によっては何百mも届くものも有るらしい」
「そんなに!?」
「こっちのはどれだけ届くか分からんが有った方がいいだろう」
「まだまだ時間はありますから街中に行って楽器含めて見て回りましょうよ」
「さーんせーい」
「参りましたね。まさか楽器自体売ってないとは」
「領都に行けばあるらしいが。まぁ田舎じゃ無理なのだろう」
「笛はどうします?結構重要なアイテムだと思いましたけど」
「う~ん。木材で作れないかな?」
「中を削るの大変そうじゃないですか?」
「う~ん。円筒じゃなくてもいいだろう。とりあえず四角で張り合わせて音が出るかを先ず試そう。音が出る仕組みを探るんだ」
「笛・・・の延長でリコーダーも作れそうですね」
「先ずは笛で音を出せるようにがんばるか」
「BGMの道のりは長いなぁ~」
その後数日は調子に乗ってマイタケを狩っていた。
依頼は無くてもマイタケ自体の買取と魔石買取で6000エナが入る。
そして3日後のマイタケ狩りツアー(ゴブリン魔犬魔幼虫込み)後の街への帰り道。
「なぁ菊池君」
「はい?」
「ここ最近マイタケばかり狩ってたじゃないか」
「そうですね。お陰で懐が温か~いですよー」
「ギルドに注目されてないかな?」
「!!」
「ギルドに」
「ど、ど、どーします先輩?絶対そーですよっ!」
「これからは前のルーティーンに少しマイタケツアーを組み込む感じでいくか」
「そうですね、そうしましょう!」
いつものようにお兄さんに解体査定をしてもらった。
「あっ、因みにこの毒袋が無かったら査定も低くなるんで気を付けてくださいね」
「ほぅ。そうなんですか。因みに幾らくらい?」
「これだけで1000エナは価値がありますからね」
「そんなに!?」
「えぇ、文字通り毒にも薬にもなるんで」
「眠り薬か。因みに人や魔物にも効きます?」
「えぇ、勿論。それで眷属を増やしていってる訳ですからね」
「マイタケは死んでも眠り粉は効用を失わないと」
「そういうことです」
「なるほど」
その後手続きを終えて個室から出るとおっちゃんが立っていた。
「いよう!おめぇら、ちょっと話がって、オイ!待てっ!」
ダッシュで入り口に向かう。
っへ~んだ。俺達ローグ系だぜ。素早さじゃ負けねぇぜ。
あ~ばよ!とっつぁ~ん。またなー!
「カズさん!ミキさん!逃がしませんよ!」
入口に受付のお姉さんが大の字に立っていた。
挟まれた!くそっ、なんでそこまで。俺達が何をしたっていうんだ!
マイタケか!?マイタケなんだな?個人的に欲しいって事か。
滅多に入手できないって話だもんな。
食わせろってことか!
くぅ、食いもんの恨みはすごいって聞いてたがまさか公権力を盾にするとは!
いや正に公権力の正しい使い方か。前世と一緒だな、くそがっ!
俺達は死ぬまでこいつらの為にマイタケを狩らされるんだ・・・ふざけんなっ!
終いには俺達を地下室に監禁してマイタケを生やさせて栽培マンにさせる気だ。
そんなことはさせん!
このまま彼女を突き飛ばして外に逃げ・・・れない。
そんなことをすれば今後ギルドからお尋ね者で賞金首になる。
しかし!栽培マンになるよりはマシか・・・だが。
しかし、やはり女性を突き飛ばすというのは抵抗がある。俺には出来ん。
・・・ここは菊池君に任せよう。同性だから彼女にやってもらってから俺もその後に続こう。そうだ、それでいこう。
菊池君を見やる。
フリフリ
顔を横に振っている。
―――そうか、無理か。
分かった。俺達、これまでなんだな。
短い冒険者生活だった。
最近ようやく稼げ出したと思ったのに。途端にこれだ。
彼女に止められて・・・
このまま止まるのは・・・どうだろう。
このまま彼女の至近距離まで行くと彼女はどうする?
あの大の字は何が何でも止めるという意思表示に他ならない。
だとすれば両手を突き出して俺を止めるよりは抱きかかえて止める方が確実なのではないか?
そして俺は今まさに!
彼女の目の前で止まると彼女は抱きかかえて止めにきた。
「もう逃がしませんよっ!」
「あなたのキノコになるのなら本望ですよ・・・」
「何を訳わからないこと言ってるんですかっ!」
俺より手前で止まった菊池君は俺をジトッとした目でみていた。