⑩-39-289
⑩-39-289
「カズヒコ!」
「カズ兄ぃ!」
「カズヒコ様!」
「カズヒコ!」
「ナーオ!」
「・・・はっ」
「気が付いた!?」
「・・・あぁ」
「「「ふぅ~」」」
「で、デジャヴを見た気がする」
『デジャヴ?』
「あぁ・・・何だったかは思い出せないが・・・エウベルトは」
「・・・大地に還ったわ」
「・・・そうか」
「これが跡に残ってたよ」
「これ・・・は」
「結晶魔石、という物ではないでしょうか」
「以前、ムトゥルグのクエイドさんが言ってたやつか」
「恐らく・・・」
「これも有った」
「・・・鍵?」
「うん、そうだろう」
「今回は既に魔石が嵌ってるね」
「という事は魔力の金庫ね」
「・・・そうか」
「これからどうする?」
「・・・帰ろう」
「フリーエさんに報告?」
「いや、ムルキアへ。ウリク商会へ」
『・・・』
「分かったわ」
「分かった」
「はい」
「うん」
ドドドドドド
ガラガラガラ
僕達は荷車2台でムルキアに向かう。
急造だがハーネスを作り馬4匹で荷車2台を曳かせている。
2台の馬車それぞれで移動するには速度差が有り過ぎる。
ノーマルの荷車を牽引する方が早いだろう。
本来4匹立ては難しいらしいが、ケセラの《馬術》で大丈夫だった。
「エウベルトさんは何で追って来たの?」
「僕等の始末をつける為だ」
「何で?」
「ムルキアの商館で、あいつが僕を見て思い出したって演技をしたが」
「えぇ・・・」
「僕を見てあぁしたんじゃない」
『えっ?』
「僕の肩に載ってたこいつ、黒猫を見てあぁしたんだ」
「この子を見て?」
「あぁ。正確に言うとこいつの紐を見て、だな」
「・・・なるほど。この紐はヨセフが少女に上げた物だから・・・」
「あたし達がブラックドッグの村から帰って来たって思ったんだね」
「あぁ。5人無事で、更に平静に居たという事は・・・」
「私達がブラックドッグを倒したと判断した、と」
「なるほど。諜報や工作の邪魔になる存在、私達を消そうとした訳か」
「あいつが悪魔に殺させようと誘導した。更に念の為、自身でも・・・」
『・・・』
「ウリク商会は関係無いって言ってたけど・・・」
「信じるの?」
「・・・」
「私はカズヒコさんを信じます」
「・・・先ずは僕等の目で確認しよう」
「そうだな」
一泊野宿をして公都ムルキアに戻って来た。
馬車はそのままにウリク商会に赴く。
「あぁ!マルコさん御無事で!」
「オランドさん!」
オランドさんは心配そうに僕達を見回した。
「旦那様が!エウベルト様が御1人で出て行ってしまわれたのです!」
「えっ!1人でですか!?」
「はい!何か御存じありませんか!?」
「・・・実は」
「・・・」
「ムルキアに戻る途中で見慣れた馬車を見たもので、引っ張って帰ったのですが・・・」
「!?その馬車は!?」
「停めてあります」
「見ましょう!」
オランドさんと商会に停めてあった馬車を確認してもらう。
「あぁ!これです!この馬車で出て行ってしまわれたのです!」
「・・・そう、ですか」
「旦那様は!旦那様の姿は!?」
「・・・残念ですが。この馬車を見付けた付近を確認したのですが、何も・・・」
「あぁ!・・・」
オランドさんはその場に崩れてしまった。
「オランドさん、しっかりなさって」
「す、すみません・・・」
肩を貸して立ち上がらせる。
「エウベルトさんが居ない今、あなたが商会を守らないと」
「そ、そうですね・・・マルコさん」
「はい。部屋に戻りましょう」
「・・・えぇ」
オランドさんに肩を貸しつつ応接室に入った。
「旦那様・・・」
オランドさんは顔が青くなっている。
「エウベルトさんが出て行った理由をご存じですか?」
「いえ・・・全く。しかしあの時何か思い出されたのだと思います」
「ですねぇ。私もキルフォヴァ方面から帰って来ましたから」
「・・・そうですか。マルコさんは何をしにキルフォヴァまで?」
「知り合いがルンバキアに居まして。悪魔の情報を届けに」
「なるほど。どうでした、ルンバキアは」
「荒れてましたね。街主の搾取だとか」
「・・・えぇ、聞き及んでいます。なのでキルフォヴァには公都の商人も行かないのですよ」
「なるほど」
「マルコさん、率直に御答え下さい」
「えぇ」
「旦那様が帰ってくる可能性は・・・」
「居なくなって何日ですか?」
「・・・7日です」
「・・・冒険者として言わせていただくと・・・ほぼゼロです」
「・・・そう・・・ですか」
「「「「・・・」」」」
「しかしほぼですから。もしかしたらも有ります。それに備えて商会を維持しないと」
「そっ、そうですな。先ずは私が信じないと・・・」
「「「「・・・」」」」
「僕達に出来る事が有れば言って下さい。お手伝いしますから」
「有難う御座います」
「先ずはいつも通りの営業に戻りましょう」
「はい。そうします・・・今日は御泊りで?」
「えぇ。またしばらく厄介に」
「そうですか。それは私としても心強いです」
「何時でも声を掛けて下さい」
「・・・はい。宜しく御願いします」
エウベルトが乗って来た馬車を返しいつも泊まっていた宿に帰って来た。
「ふぅ~。帰って来たって感じね」
「そうだねぇ」
「ほっとしますわ」
「うん、そうだな」
「これからどうするの?」
「ウリク商会にこの鍵の金庫は無いな」
「視たの?」
「あぁ」
「じゃぁ何処だろ」
「当ては有る」
『えっ』
「夜まで待つぞ」
「夜まで?」
「人に見られないようにな」
「・・・忍び込むって事?」
「あぁ」
「しょうがないかぁ」
「えぇ」
「諜報員だから国に任せるというのも有るが」
「ウリク商会はタダでは済まんだろう」
『・・・』
「信じるの?」
「それを確かめに行く」
「・・・うん、そうだね」
馬を返しに馬車屋に行く。
おっちゃんと話す。
「少し長かったね」
「えぇ。あいつは元気でした?」
「いつも通りだよ」
「それが1番ですね」
「違ぇねぇ」
「よぉ。元気そうじゃないか」
「ブオオォ!」
「こいつ等を返しに来たんだ」
「ヒヒーン!」
「ブオオォ」
「頑張ってくれたから高級野菜な」
「ヒヒーン!」
「ブウゥゥ!」
「お前は何もしてないだろ」
「ブウゥ!」
「ナーオ」
「お前は・・・まぁ、頑張ったな」
「ナーオ」
「ブフゥ!」
「そうだ。ちょっと解体させてよ。ポーションで治すから」
「ブオオォォ!」
「いてててて!」
「だーから駄目だって、カズ兄ぃは」




