⑩-34-284
⑩-34-284
((ふぅー))
お互い相手の呼吸を探る。
お互い意識はしていないが相手の呼吸に自分を合わせていた。
「「ふっ」」
お互い短く吐き出した息に合わせお互い右手で斬りかかる。
「「くっ!?」」
お互い飛び込んで相手の急所を狙うがエウベルトは商人服、
加えて5人全員を殺さなければいけない、
そんな思いが防御に向けさせる。
カズヒコの縦斬りを剣を横に受ける。
カズヒコの左掌底がエウベルトの右手首を狙う。
エウベルトは右腕を押し込んで掌底を受けてステータスの差でそれを耐える。
カズヒコの左前蹴りを右膝蹴りで弾き返す。
そのまま左手を伸ばしてカズヒコの右手首を掴もうとする。
カズヒコは剣の競り合いから逃れ右に払う。
エウベルトは左手を引き右腕を押し込んで斬ろうとする。
カズヒコは左手甲でそれを受け止め左ローキックで右膝を狙う。
エウベルトは右足を上げ脛で迎撃したがカズヒコのレガースに痛みを覚える。
カズヒコは腹に斬りつける。
エウベルトはカズヒコの左手甲から剣を放してそれで受け、腹を守る。
フリーになったカズヒコの左手がエウベルトの剣を持つ右手を掴みに行く。
ガッ
(掴んだ!)
(掴まれた!)
シュッ
「うおっ!?」
掴んだと思った瞬間エウベルトの柄尻から針が飛び出してきた。
人間は意識外からの目に飛んで来る物に反射的に目を瞑ってしまう習性が有る。
掴んだという成功感から油断したのか、
ステータスが高い相手に有利になったと油断したのか、
カズヒコは意識外からの針に目を瞑ってしまった。
(しまった!)
(勝機!)
エウベルトが剣を振るう。
(感知だ!奴は《剣術》で一気に決めに来る!《魔力感知》の範囲を狭めてどこを狙うか感知だ!)
(一気に決める!そのまま女だ!)
エウベルトの《剣術》を乗せた一撃がカズヒコに迫る。
(だろうよ!)
カズヒコは目を瞑ったまま右手甲で首を狙った斬撃を受け止めた。
(何っ!?)
右手からマチェーテを放して落とし、
それを左手で掴んだ勢いのまま右腕に斬りかかる。
小剣で受けるエウベルト。
カズヒコは右手で右目尻に刺さった針を抜いてそのまま投げ付ける。
(剣で叩き落とそうとすれば斬られる)
エウベルトは左の手の平で針を受ける。
カズヒコは踏み込む途中で剣を持ち換え、針を受けた手を斬りつける。
エウベルトは右手の剣でそれを受けた。
カズヒコは左手を伸ばして剣を持つ右腕を掴みに行く。
(これだ!)
(またか!)
一連の攻防がまた続いてゆく。
「な、何だ、あの連撃は!?」
「速過ぎて狙えないよぉ!」
「普通の剣術ではないです!」
「格闘技みたいね!」
(ただでさえステータスで負けてる!)
(その上《剣術》も乗せられたら敵わん)
(奴の剣をなるべく攻撃させずに受けさせるんだ)
(至近距離での格闘技。離れねぇぜ!)
(な、なんだコイツの戦い方は!?)
(剣の間合いを取れん!)
(《剣術》とステータスで圧倒するはずが体術で戦う羽目になってる)
(ステータスで勝ってるはずだが至近距離で剣の間合いが出せず【STR】を活かせん!速さ勝負になっている。そしてそれは奴の・・・)
(力は出せまい!出そうとすれば振りかぶらざるを得ん。そうなったら・・・)
((思うつぼだ!))
エウベルトの横斬りを剣を縦に受ける。
エウベルトは受けられた瞬間弾かれる感覚に身体が少し流される。
(加えてこれだ!)
(止められたと思ったら何故か流される)
(止められるのは分かる)
(だが何故俺が流される!?)
(ステータスは上のはずだ。【STR】も上の感覚は有る)
(俺が押し込むことは有っても流される事は無いはずだ!)
カズヒコの左ローキックをまた右脛で受ける。
パキッ
(くっ)
レガースの堅さに顔を歪める。
右袈裟を仕掛けるが受けられた瞬間また流される。
流される度に態勢を戻さねばならない為、
エウベルトは余計にスタミナを消耗していった。
余計に消耗するスタミナはごく僅かだった。
しかし短時間の連撃の応酬で急速に失っていくスタミナにエウベルトの表情に余裕は無い。
そしてそれはカズヒコにも言えた。
ステータス差から来る劣勢を《カウンター》で補ってるとは言え、
覆せるほどでもない差はどう仕様もなかった。
((考えてる余裕は無い))
((ただ反応して反射して反撃だ!))
振りかぶるスペースも無い至近距離での連撃。
当たっても致命的なダメージにならない。
とはいえ、
当たれば大きな隙が出来る。
今の速度なら追撃で死ぬだろう。
お互いのステータスを出し切った極限の状態で、
2人はただ無心に攻撃し合う。
極限の集中、それは2人を別世界へと導いた。
2人はお互い以外、色の無い世界に居た。
自分達以外見えない。
いや、女達の反応は感じた。
周りの街道や草や空気も感じる。
別世界に来たのではない。
世界と一体となったのだ。
((これは!?))
(ゾーンだ!スポーツでこんな感覚が昔有った)
(入った!軍の任務以来だ)
((凄い楽しい))
無心とは何も感じない事ではない。
2人は自然と沸き起こる感情に身を任せて感覚のままに動いていた。
見ていた4人からは息をのむ程度の刹那の時間だったが、
しかし2人にとっては時間を感じない無限の時間だった。
そしてそれは突然破られる。
カキィン
カズヒコのマチェーテが剣半ばで折れた。
((!?))
エウベルトが攻勢に出る。
(今!)
(来る!)
お互い右袈裟で仕留めに行く。
(奴の剣は折れて半ばまでしかない!浅い!)
(左腕を犠牲にオメェを取る!)
(させん!)
フヒュ
針がカズヒコの左目に向かう。
エウベルトは思う。
(針を左手で庇えばそのまま斬り落とす)
(斬られた衝撃で奴の剣も届かん)
(いける!)
カズヒコは左手甲で剣を受け止める姿勢。
(目は捨てたか)
(どちらにしろ目測を誤って俺には届かん)
カズヒコは視線だけを逸らした。
針は瞳を逸れて白目に突き刺さる。
(な、何!?)
ギイィン
手甲で受けられた小剣の音が響く。
(しかし奴の剣は届か・・・)
手甲に《カウンター》発動。
絡ませながら振り払うように腕を回すと、
右腕につられエウベルトの身体も流されていく。
右腕が振られ、回転して左半身が前に出るように、
(バ、バカな)
シュバッ
折れた半身の剣とは言え、エウベルトの胸を斬り裂いた。
「ぐっ」
だが僅かに目線を逸らした為に目測の加減で浅くなった。
そこに左ストレートで傷口を殴りつける。
更に押し出すような蹴りでエウベルトは吹っ飛ばされ2人の間に距離が出来る。
シュシュシュッ
ドドドッ
3本の矢がエウベルトに突き刺さった。




