⑩-31-281
⑩-31-281
みんなで悪魔を見下ろしていた。
「地面に潜るとか無しだよぉ」
「全くだ」
「前に土魔法使いと戦ったが全然違うな」
「えぇ。人間も潜れるの?」
「いや、無理だろう」
「悪魔が使えるスキルって事か」
「恐らくな。軍でもそんな事出来る魔導士は居なかった」
「同じ属性でも気を付けなきゃいけないわね」
「あぁ。僕達の知らないスキル撃って来る可能性が有るな」
「お爺さんの孫の仇を討てたね」
「・・・あぁ。持って帰ろう」
「ここで野営はしないの?」
「今からなら着いて夜だがあの村だからな。空いた家を使わせてもらおう」
「そうね。野営の準備しなくていいし」
「道中の魔物は僕が感知する」
「急ぎましょう」
「サーヤ君は空飛んでたな」
「少し怖かったです」
馬車に揺られて老人の村に着いたのは、陽も落ちてすっかり暗くなった頃だった。
「灯りが無いな」
「もう寝たのでしょう」
「・・・いや、魔力反応が無いぞ!?」
「ど、どういう事?」
「どっか逃げたのかな?」
「急ぐか!」
「頼む!」
老人の家の戸を開けて家内に入りランタンで室内を照らすと、
照らされた奥には地に足を付けてない老人の体が浮かんでいた。
「ひっ・・・」
「くっ、首を吊って・・・」
「ど、どうして・・・」
僕達は1歩も動けず、老人の背中をしばらく見つめていた。
「降ろしてやろう」
「・・・そうしよう」
「うん」
手分けをして老人の遺体を床に降ろした。
「カズヒコさん」
「うん?」
「テーブルに手紙が」
「手紙?」
「はい」
この手紙を読んでいるという事は悪魔を殺したか、逃げおおせたか、
どちらにしろ生き延びたという事でしょう。
喜ばしい事です。
老い先短いワシの命を捧げた、はなむけの甲斐が有ったというものです。
最後にあなた方に会えて良かった。
街主の搾取で困窮し、
悪魔の出現で打ちのめされ、
孫を失って生きる意味も失った。
20年前の戦争で息子を、ジュゼッペを攫われ、
ワシには何も無い。
生きてる証も、
生きてる意味も、
全て奪われた。
奪われる人生。
生まれた意味とは、
生きる意味とは、
そんなものは無い、生きる事に意味なんて無いんだ。
最後にあなた方に会えて良かった。
会えていなければこの世を、
この世の全てを恨んで死んでいっただろう。
恐らくアンデッドになって人々を襲っていただろう。
ワシと似たような者を生み出した事だろう。
最後に1つお願いが有ります。
ワシを孫と一緒に葬って下さらんか。
よろしくお願いします。
あなた方の人生に幸有らん事を祈って。
『・・・』
「クソがぁぁぁ!」
ガランガランガラン
カズヒコは腕を振り払ってテーブルに乗っていた物を飛ばしていった。
真っ暗闇で大きな焚火がその火の粉を天に昇らせていた。
薪を組んだ大きな物だったのでマヌイの《火炎流》で燃やし続けて着火した。
その夜。
誰も何も話す事は無く、静かに寝た。
翌朝。
老人の庭の石に屈みこんでいた。
「爺さん。依頼は済ませて最後の頼みも聞いたんだ、成仏してくれ」
「お孫さんの仇は討ったよ」
マヌイが石に花を乗せる。
「帰ろう、キルフォヴァへ。フリーエさんの元へ」
「えぇ」
「うん」
「はい」
「うん」
昼にはキルフォヴァの門を潜りそのまま街主の屋敷に向かう。
途中で悪魔の死体を馬車に載せた。
勿論、布を被せて。
門衛は僕達の顔を覚えていてフリーエさんの護衛を呼んでくれた。
護衛に先導され門を通り、別館に向かう。
別館の玄関先で上官を呼んでもらった。
「無事で何よりだが東で合流せずに帰って来たのは何か有ったのかね?」
「はい。目的を果たして参りました」
「何!?」
「馬車に載せてあります」
「見ても良いかな!?」
「勿論です」
「うむ・・・!?た、確かに!」
「中に入れますか?」
「そ、そうだな!玄関に入れてくれ!私はフリーエ様を呼んで来る!」
「畏まりました」
上官が慌ただしく館の中へ入って行って、
僕達は悪魔を玄関の中へ運び込む。
やがて上官におんぶされたフリーエさんが急いでやって来た。
「マコルや!殺ったのかえ!?」
「はい。ご確認ください」
布を捲る。
「おぉ!確かに!よぉやった!よぉやったよぉ!」
「ありがとうございます」
「みんな無事かえ!?」
「はい」
「重畳重畳」
「ありがとうございます」
「ワシが預かるが、構わんかい?」
「勿論です。法に背く気は有りませんよ」
「よかよか。これ、悪魔を運んでおくれ」
「はっ!」
「マコル達は話を聞かせておくれな」
「はい」
以前に会った部屋に案内された。
ソファーに腰を下ろす。
フリーエさんの後ろに上官が控える。
「先ずは悪魔の事を聞こうか。羽も無く鰓も無い・・・」
「土魔法でした」
「ほう」
「土の中に消える魔法を使っていました」
「なんとっ!?」
「潜って人の足元まで来て飛び出して来ました」
「・・・よぉ無事じゃったのぉ」
「・・・本当ですな」
「北の様子はどうじゃった」
「北西から始めて村を3つ確認。1つ目は悪魔の被害は無く、次の2つ目、3つ目は壊滅でした」
「「・・・」」
「・・・そうか」
「生き残った者は東に向かったそうです」
「ん?そうです?」
「これを」
老人の手紙を渡す。
「・・・」
フリーエさんは読み終わって上官に渡す。
上官も読み終えた。
「残念じゃが時間が必要じゃ」
「はい」
「ただ、今回の悪魔討伐で公都からも本格的な調査が来るじゃろう。そうなれば周辺の村々の査察も行われる。街主の施策も明らかになろう」
「はい」
「少ぉし、待っておくれな」
「よろしくお願いします」
「うむ。それで老人は」
「孫と共に」
「・・・そうか。ありがとう」
「依頼ですから」
「ふっ、依頼か・・・すまないんじゃがマコルよ。報酬を払いたいんじゃが手持ちが無いんじゃ。今有るのは今回の旅で使う物での。貸しという事にしておくれでないかい」
「はい。構いません」
「素材も持たせてやりたいんじゃが、呪われておるし、解呪もせんといかん、おぉ、そうじゃ。魔石は持って行っても良いぞ」
「えっ!?でも呪いは?」
「魔石は大丈夫なんじゃ」
「そうなんですか!?」
「うむ」
「そういえばゾンビも変な色してたけど大丈夫だったわね」
「そうなんじゃ。じゃから売れるんじゃけどな」
「そうですか。それは良かったです」
「うん?」
「実は宿に猫を待たせて旅に出・・・た・・・」
「猫か・・・ん?どうした?」
ガタッ
「すいませんフリーエさん!急いで帰らないと!」
「そ、そんなに猫が気にかかるのかえ?」
「また会いに来ます!失礼します!」
「ちょ、マコル!すいませんフリーエさん!マコルー!」
「失礼しますねフリーエ様!」
「全くマコルの奴!失礼しますです!」
「・・・フリーエ様」
「マーラさんや。また会っておくれな」
「はい。マコルさんときっとまた来ます」
「楽しみにしとるでなぁ」
「はい。失礼します。マコルさーん!」
カズヒコ達を見送ったフリーエ達。
「忙しないのぉ」
「猫の為にフリーエ様との会談をすっ飛ばすとは・・・」
「ヒェッヒェッヒェッ。猫みたいに気紛れじゃのぉ」
「しかし。悪魔、魔女、ブラックドッグにまた悪魔。悪魔狩り、デーモンハンターですな」
「目立つのは嫌いらしいからの。大層な二つ名は嫌がるじゃろぅ」
「・・・では飼いならせない猫、”ワイルドキャット”ですな」
「ヒェッヒェッヒェッ。ワイルドキャットかぁ、良いんじゃないかえ?」




