⑩-29-279
⑩-29-279
主人が居なくなった家を野営地とし、協議していた。
「骨ばかりで遺体は無かったわね」
「時間が経ってるんだろうね」
「遺骨も思ったほど、村の規模程に数が有りませんでしたわ」
「逃げたのだろうか」
「恐らくそうだろう」
「でも街には来てないよね。噂も無いし」
「街主の搾取で村は痩せた。街に逃げても一緒だろう」
「別の場所に逃げた?」
「西には行っていない。東だな」
「犯人はやはり悪魔だろうか」
「今は分からん。ただ足の骨が折れている者ばかりだった」
「足が?」
「攻撃によるものでしょうけど、分からないわね」
「遺骨の周りは地面が凸凹でしたわ」
「戦闘の結果か、別の原因か・・・分からんな」
翌早朝に村を発ち東に向かう。
昼にはその村に到着した。
「生き残りが1人居る」
『!?』
先ずその者が居る家に向かった。
ノックをして待つ。
キィッ
戸が開いて男の老人が顔を覗かせた。
「・・・何か?」
「冒険者です。事情を聞かせてくれませんか」
「・・・」
「・・・」
「入りなされ」
「どーも」
老人は戸を開いてそのまま背を向けて奥に引っこんだ。
「それで・・・何を知りたい」
「最初から」
「・・・半月ほど前じゃ。行方不明者が出た。最初は無断で街に行ったのかとも思ったが、街に行っても何も無い。多分魔物じゃろうと、そうなった」
「街に行っても何も無い。街主の搾取ですね」
「あぁ。街も村も・・・なーんも無い。血も涙も無いよ」
「・・・居なくなったのは魔物のせいだったんですか」
「あぁ」
「どんな」
「・・・悪魔さ」
『・・・』
「街主以上のな。本物の・・・悪魔さぁ」
「そいつが村人を?」
「・・・あぁ。何人か行方不明が出たと思ってたら村に現れた。それからは・・・」
『・・・』
「全員殺されたんですか?」
「・・・いやぁ、生き残った奴は東に行ったよ。悪魔は西から来たからな」
「お爺さんは逃げないんですか?」
「悪魔も東に行った・・・それにここはワシが若い頃から居た。孫も殺された。今はもう何をする気も無いよ」
「・・・お孫さんも」
「20年前には息子を戦争で攫われた。もう何も・・・もう何も残っとりゃぁせん」
「・・・村を調査しても良いですか」
「好きにするがえぇ」
『・・・』
僕等は老人の家を出て村付近を調査する。
「人骨ね」
「埋葬は・・・」
「無気力だ・・・出来まいよ」
『・・・』
「この人達も足が折れてるね」
「地面も凸凹ですわ」
「爺さんの所に戻ろう」
爺さんの家に着き戸を開けようとした所、
庭に何か有るのに気付いた。
一抱えの石が置いてある。
来た時は気付かなかった。
「失礼」
「・・・あんたらか」
「あの庭の石は?」
「・・・墓石だよ」
『・・・』
「孫たちのなぁ」
「・・・僕等は東に向かいます」
「・・・悪魔を?」
「えぇ。その為に来ました」
「・・・なんでだ」
「・・・冒険者だからです」
「・・・冒険者、か」
「僕等はベルバキアでも子供を食い殺した悪魔を殺しました」
「・・・ベルバキアで?」
「えぇ。依頼をしませんか、僕等に」
「依頼?」
「えぇ。悪魔討伐の」
「・・・金なんかありゃぁせん」
「一杯の茶を下さいよ」
「茶を?」
「前払いって事で」
「・・・」
「今のあなたが出せる全て、でしょう?」
「・・・ふっ。違ぇねぇ」
「頂けますか」
「・・・良いだろう。ワシの全財産、受け取ってくれ」
老人は立ち上がって冷めた茶を出した。
俺は一口飲み彼女達に渡す。
彼女達も順々に飲み、干して椀を置いた。
僕等は立ち上がる。
「依頼報酬の前払い、確かに受け取りました。必ず、お孫さんの仇を討って墓前に報告するでしょう」
「・・・冒険者。危なくなったら逃げてくれ」
「危ない所に飛び込むのが冒険者ですよ」
「・・・お前らは・・・生きてくれ」
「帰って来ますよ。報告の為にね」
「・・・はなむけを後で送ろう」
「また後日」
僕等は老人の家を後にする。
家から離れる前に墓石を見た。
「・・・あの子にはなむけを」
ドドドドドド
ガラガラガラ
僕等は馬車で東に向かっていた。
村と村を繋ぐ道を進む。
街道なんかではないので殆ど舗装もされていない。
馬車も速度を落とさざるを得ない。
街道ではなく村同士のバイパスだ。
更に悪魔の出現で全く人は居なかった。
舗装すべき人間が居ないのだから悪路も当然だ。
その途中で《魔力感知》範囲ギリギリに引っ掛かるものが有った。
「停めろ!」
「ヒヒーン!」
馬車が停まり彼女達に緊張が走る。
「どうした!?」
「日頃の行いが良かったらしいな」
「じゃぁ!?」
「あぁ。依頼を果たす!」
馬車を近くの木に停め目的地に急ぐ。
周りは土が見える地面。所々草が生えている。
森は少し離れた所に見える。
「ルンバキアに来た頃を思い出すなぁ」
「・・・そうね」
「そうだね」
「はい」
まだ少し遠いが濃い緑色した何かが屈んで何かをしているのが見て取れる。
そして何をしているのかも。
「あ、あれが?」
「あぁ。マヌイとサーヤは連射だ」
「「了解」」
「ミキは短弓」
「了解」
「ケセラは防御に徹しろ」
「了解」
「ミキ、この距離でロングボウで当てられるか?」
「やってみるわ」
「あぁ」
キリキリキリ
ミキが弓で狙いを付ける。
シュッ
ヒューーーーーーン、グサッ
「キョアアアアァァァ!」
「行くぞ!」
『おぉ!』




