⑩-27-277
⑩-27-277
部屋でみんなと話し合っていた。
「宿の食事からして不味いな。いや、不味いんだが」
「経済的にって事ね」
「あぁ」
「ナーオ」
「お前には俺が作った燻製肉やったろ」
「ナウ」
「街の人達も草臥れた表情だったね」
「市場も、活気は有りませんでしたね」
「冒険者も居なくなる訳だな。依頼も無いし」
「街主の程度が知れるな」
「どうやって悪魔を探せば良いんだろ」
「周辺の村を当たるしかないだろうな」
「人手が足らないわね」
「私達しか居ませんしね」
「フリーエさんが来るのを待つ?」
「来るかどうかも分からん」
「手あたり次第行ってみる?」
「少し妙な所もある」
「妙?」
「道中の村には被害が無かった」
「そうね」
「エウベルトさんの話では、帰って来る途中で襲われたらしいが」
「う~ん」
「少なくとも西側にはいなかったですね」
「どういう事だろう」
「分からんな」
「手あたり次第行くしかないんじゃない?」
「・・・そうだね」
「じゃぁ明日からに備えてゆっくり休もうよ」
「あぁ。そうしよう」
「ナウ」
翌朝。
準備を整えて街を出ようと街中に出てみると何か騒がしい。
街の人に聞いてみる。
「何か有ったんですか?」
「あ、あぁ。何でも昨日夕方に公国軍の先発隊が街にやって来たって話だ」
「公国軍の先発隊!?」
「街の査察に来たんじゃねぇかって期待してるんだよ」
「査察。なるほど」
「フリーエさんかしら」
「だろうな」
「どうする?」
「フリーエさんの到着を待ちますか?」
「そうだな、その方が良いだろう」
「フ、フリーエ様にお会いするつもりか?」
「あぁ、当然だろう。鳩飛ばしたの僕達だし」
「それで来たんなら会わないと」
「ケセラは緊張してるのですわ」
「そうか。尊敬してたな」
「あ、あぁ」
「大丈夫。優しい人よ」
「う、うん」
「しょうがない。来るまで情報収集だな」
その日は街で情報収集に専念した。
しかし大した情報は集まらなかった。
その夕方。
「来たぞー!公国軍だー!」
〈うわああぁぁぁ!〉
「南門辺りが騒がしいな」
「来たんじゃない?」
「行ってみるか」
既に南門付近は街民で一杯だった。
「期待の表れなんだろうけど・・・」
「目的が違うと知ったら可哀そうね」
「フリーエさんって決まった訳じゃないしねー」
「そうね。私達もがっかりしなければ良いんですけど」
「あっ!来た様だぞ!」
街の衛兵とは違って少し高価そうな装備の歩兵が門の向こうからやって来るのが見える。
昨日の先発隊の知らせが有ったからだろう。
止められもせずそのまま門を潜り街に入って来た。
2個小隊ほどの歩兵の後ろに騎兵。
その後ろに箱馬車が続く。
そして騎兵、歩兵。
「どう?」
「間違いない。フリーエさんだ」
「来てくれたんだね」
「軍隊といった感じではありませんでしたね」
「そうだ」
「ん?」
「箱馬車の周りに居た騎兵と歩兵。中央軍魔導部隊所属の者達だ。装備が違う」
「確かに他の兵士と違ったな」
「特殊部隊みたいなものかしら」
「しかしフリーエ様の紋章旗が無かったのが気になる」
「まだ悪魔の確証はない。そのせいか」
「そうか、それはあるな」
「本格的な調査じゃなく・・・って事?」
「うん、そうだろうな」
「フリーエさんに会うんでしょ?」
「あぁ。泊るのは宿じゃぁないだろうね」
「うん。街主の別館だろう」
「行ってみよう」
「来て直ぐに会ってくれるかな?」
「時間が無い」
「そうですね」
街民に聞いて街主の屋敷まで急ぐ。
街主の屋敷は壁に囲まれている。
壁の中の街主の敷地には先発隊の影響だろう、既にフリーエさんの護衛が居るのが見えた。
門衛に話しかける。
「軍の方を呼んでください」
「冒険者が来る所ではない!」
門衛は街主に雇われているようだ。装備が違う。
「軍の方を呼んでください」
「帰れ!」
「おぉーい!だぁーれかぁー!」
「きっ、貴様!」
向こうから軍関係者が来るのが見える。
「何事だっ!」
「もっ、申し訳ありません!こいつが!」
「護衛の責任者に会わせてください」
「うん?」
「護衛の責任者を呼んでください」
「うーむ。しばし待て」
「分かりました」
兵士は奥に向かって行った。
待てと兵士に言われたので追い返す事も出来ない門衛は苦い顔だ。
やがて装備から役職のある者であろう男がやって来た。
「何か用か?」
「これを」
相手に手の甲を見せ、指に光る物を認めたようだ。
「むっ!?・・・一緒に来給え」
「はい」
「えっ?えっ?」
困惑する門衛を無視して兵士が門を開け僕達を中に入れて上官が先に立って歩き出した。
そのまま別館に入って部屋に案内された。
戸の前で止まり、
「ここで待て」
ノックしてから部屋に入って行く。
ややあって、
「入り給え!」
「失礼します」
部屋の中では何人かが部屋の模様替えをしているところで、フリーエさんはソファーに座ってテーブルの文書を読んでいたのだろう。
床には足が届いていない。
顔を上げて僕等を出迎えてくれた。
「ヒェッヒェッヒェ。元気だったかえ」
「お陰様で。フリーエさんもお変わりなく」
「あったこうぅなってのぉ。調子が出て来たわぇ」
「のんびり為さったらよろしいのに」
「ヒェッヒェッヒェ。そうしたいんは山々なんじゃがのぉ、誰かに呼ばれてのぉ」
「マーラ君も元気にしていましたよ、なっ」
「ご無沙汰しています、フリーエ様」
「・・・マーラさんもなぁ。まぁみんなお座りな」
「失礼します」
フリーエさんの向かいのソファーに座る。
フリーエさんの後ろにはさっきの上官が立って控えている。
「4人の頭文字で”フォーマ”か」
「分かり易いかなと」
「ふむ。ムルキアでは誰が鳩を送ってくれたんじゃ?」
「・・・名前知ってる?」
「いいえ、知らないわね」
「そういや知らないねー」
「エロいお爺さんとしか・・・」
「あのエロジジイかえ。まぁ~だ生きとるんか」
「ご、ご存じなので?」
「あ~。もぅ長いのぉ。ベルバキアの小さな巨人、リトル・ジャイアントっちゅ-あだ名よ」
「あっ!あれがリトル・ジャイアント!?」
「セリーナ。知ってるの?」
「ももも勿論だ!」
「・・・あだ名持ちって事は凄い人なんですか?」
「君。ムルキアの小さな巨人を知らないとは冒険者としてはどうなのかね」
「「「「そっ、そんなに!?」」」」
「ヒェッヒェッヒェ。この子達は南から来たからねぇ。お嬢さんは初めて会うのぉ」
「わわわ私はケセっはぁ!」
隣のサーヤ君の肘が脇腹に食い込んだ。
「ベルバキアで知り合ったセリーナです。パーティに加わったんですよ」
「そうかぇ。よろしゅぅにのぉ」
「ここここちらこそ、宜しくお願い奉りますです!」
「フリーエさんのファンらしくて」
「ヒェッヒェッヒェ。実物に幻滅しなきゃぁええんじゃが」
「とっとっとっとんでもありません!」
「ヒェッヒェッヒェ。話を聞こうかぇ」
「はい。大丈夫ですか?」
「この子達は大丈夫じゃぁ」
「分かりました。1ヶ月程前、ムルキア北部の村にブラックドッグが出現しました」
『何っ!?』
家具やら書類やらを準備している兵士達の動きが止まる。




