⑩-25-275
⑩-25-275
宿に帰って協議だ。
「どうする?」
「偶然か?」
「ヨセフ?」
「あぁ」
「ブラックドッグが約1カ月前でしょ?」
「私達が来た位ですわね」
「エウベルトさんが襲われたのがその後だから、もしヨセフなら東に向かったという事だろうか」
「その線が強いな」
「ブラックドッグも悪魔の血だった可能性が高くなったね」
「えぇ。ヨセフの名前が出る近くで悪魔騒動。持ってるのでしょう」
「どうする?」
「カズ兄ぃ」
「カズヒコさん」
「カズヒコ」
「このまま奴を野放しにしておくとまた罪の無い子供達が犠牲になる。奴を追う」
『分かった!』
「危険だが・・・」
「今更ね」
「眷属3匹倒したんだよ!」
「承知の上です」
「子供を救わなければ!」
「用意しろ」
『了解!』
「パオーン!」
「いらっしゃ~い、ってお主達か」
「どーも」
「今日はどうしたんかの?まさかもうポーションを使ったのか!?」
「いえ。伝書鳩を使わせてもらおうと思いまして」
「ほぉ。それがえぇ、無事を知らせるんも孝行じゃぞ」
「はい、お願いします」
「で、誰に出すんじゃ?言っとくが高いぞ」
「ルンバキア公国の宮廷魔導部相談役、フリーエ様に」
「ふぇーっ!!」
『ぎゃー!?』
「フ、フ、フリーエって、あのブリッツかや!?」
「そ、そうですよ。パープルウィッチです」
「あのババァを知っとるのか!?」
「はい。この指輪を・・・」
「ふぇーっ!!」
『ぎゃー!?』
「こっ、この指輪はフリーエの!?」
「そ、そうですよ」
「なんとまぁ・・・そうかいそうかい。お主は年上が好みなんじゃのぉ」
「早く使わせろジジィ」
「まぁ待て。暗号は知っておるのか?」
「いえ」
「何じゃ、諜報員じゃないんかえ?」
「諜報員がこんな所の伝書鳩使わないでしょう」
「それもそうじゃな。じゃぁ単なる友人か」
「はい」
「内容を聞いても良いかのぅ」
「・・・」
「・・・恋文か」
「違うわ!ジジィ!」
「分かった分かった」
「爺さんはベルバキア軍に?」
「まぁな。しかし口は固いぞ。内容にもよるが」
「ルンバキア北部に悪魔が出る可能性が有ります」
「なんじゃとっ!?」
『・・・』
「確かか」
「あくまで可能性です」
「悪魔だけに・・・なるほどのぉ」
『・・・』
「先日ムルキアにブラックドッグが持ち込まれたそうじゃ」
『・・・』
「持ち込んだのは女だけのパーティだったっちゅう話じゃが」
『・・・』
「ふむ。安心せぇ。口は固い。良いじゃろう。送ろうぞ」
「お願いします」
「内容は」
「キルフォヴァ付近で出るかもしれないと」
「送り主は」
「フォーマで」
「フォーマ?」
「はい。それで通じるかと」
「ふむ。内容はワシの方で暗号化しておこう」
『!?』
「違う国なのに!?」
「対北部用に共通暗号が有るんじゃ」
「なるほど。ではお願いします」
「構わんよ。金も要らん。緊急じゃからな」
「ありがとうございます」
「それで。お主らぁはこれからどうするのじゃ」
「少し旅に出ようかと」
「・・・」
「・・・」
「生き急がんでも任せりゃぁ良かろうに」
「冒険者なんでね」
「ふん。上級ポーションを仕入れておこう」
「よろしく頼みます」
「帰って来いよ」
「勿論ですよ」
僕達は馬車に揺られていた。
「ケセラ!キルフォヴァまでどれ位だ!?」
「通常の馬車なら5日だがこの馬車なら2、いや3日といったところか!」
「今からだと遅くなるか!」
「そういう訳だ!」
空を見上げる。
幌を付けていないので風が激しい。
「温かいな」
「もう4月だからね」
「森が青い」
「冬から目覚めたんでしょう」
「命の芽生える季節か・・・」
「子供を救わないとね」
「お前も来る必要は無かったんだぞ」
「ノーオ」
「また引っ掻かれるわよ」
僕等は一路ルンバキア公国領キルフォヴァを目指す。
その日の夜の野営。
「街に着いたらどうするの?」
「先ずは情報収集だな」
「悪魔が出てたら何かしら被害が出てるよね」
「そうね。悪魔の眷属は今まで街では出ていません」
「今回も村の可能性が高いな」
「エウベルトさんはキルフォヴァからの帰りに襲われた。街までの道中の村を見てみよう」
「そうね」
しかしその後、道中の村を見て行くが被害の様子は無い。
やがてルンバキア領に入っても結果は同じだった。
村々を見て回ったせいで街に着いたのはムルキアを出て3日目の午後。
かなり高い入街税を払ってキルフォヴァの街に入る。
国境街でもあるからだろう、街壁は高く10mはある。
宿を確保し黒猫を部屋に残して冒険者ギルドに急ぐ。
宿代も高い。
本館に入る。
「臭い」
「臭いわね」
「臭いね」
「臭いですわ」
「臭いな」
そんな事は兎も角、依頼掲示板を見る。
「悪魔討伐は無いわね」
「調査依頼はどうでしょうか」
「う~ん。1つ有るね」
「と、いうより依頼自体が少ない気がするな」
「そうね」
「採集も無いね。春なのに」
「護衛の依頼も無い」
「護衛?」
「ここはベルバキアとの国境街だろ」
「そっか、商人や旅人の護衛依頼が有ってもおかしくないよね」
「ケセラ、キルフォヴァはどういった街なんだ?」
「ベルバキアだけでなく北部との国境街でもあるんだ」
「じゃぁ尚更護衛依頼は数有りそうだけどねぇ」
「そうよね」
「ふ~む」
「どう?」
「周りの冒険者を見てみろ」
彼女達が周りを窺う。
「どうだ?」
「う~ん。あんまり強そうじゃないねぇ」
「装備が少し・・・」
「女性も居ないわね」
「魔導士が居ないという事か」
「ギルドに来るまでに街中を見たが・・・」
「栄えてる印象は無かったわね」
「そうだね。人もそんなに楽しそうじゃなかったし」
「物資も少ない感じでしたね」
「つまり金が無いって感じだろうか」
「しばらくこの街で情報収集だ。登録するか」
「調査依頼はどうする?受ける?」
「いや。悪魔じゃなかった場合時間の無駄になる。ここでは依頼は受けない」
「そうね」
「ここではムトゥルグの時の名前でいこう」
「どうして?」
「フリーエさんと会うかもしれん」
「そっか。その名前の方が会い易いね」
「あぁ。いこう」
受付嬢の下に来た。
「こんにちは。上書き登録と新規登録をお願いします」
「こんにちは。上書きと新規登録ですね。カードをお願いします」
「「「「はい」」」」
「し、Cランク!?」
「どうしました?」
「い、いえ!今は珍しいので・・・」
「珍しい?どういう事ですか?」
「・・・その、今は、街が少し・・・」
「あぁ。そのようですね」
「それで高ランクの人達は他所へ行ってしまって」
「なるほど」
僕達は4人分のムトゥルグカードを受け取り、ケセラ用の新規登録料を払って登録をした。
ムトゥルグカードには今日の日付とキルフォヴァの街の名が新たに書き込まれている。
「よーし。じゃぁ先ずは街の様子を探るぞ、セリーナ」
「う、うん」
「あんまり変わってない気がするけど」
「まぁ良いんじゃない?」
「えぇ」
「そ、そうか」
「先ずは市場「よぉよぉよぉ!」・・・」
受付から振り返ると大柄の男が居た。




