⑩-18-268
⑩-18-268
「し、司祭フィンチ!?」
『!?』
「・・・」
「こんばんはフィンチさん」
「・・・」
「こんな真夜中に森に何の用ですか?」
「・・・そちらこそ、マルコさん」
「僕等は教会の夜番をしていたんですよ、依頼ですしね」
「そうでしたか。私はこの子の供養に」
「供養に森へ?」
「自然から産まれた物は自然へ」
「その考えには共感しますがその子は朝に必要なんですよ」
「辱めに耐えられません」
「辱め?」
「このように殺され、しかも魂が召された後でも・・・」
「しかし、それで犯人が分かれば魂も浮かばれるでしょう」
「この子は望んではいません」
「あなたには分かるので?」
「勿論です」
「愛していたから?」
「・・・」
「愛していたから食った。そういう事ですか?」
「え、は、食った?何を言ってるの!?」
「・・・」
「鈍いですね、マリオンさん」
「えっ?」
「そうだ。その女はモグラだよ」
「し、司祭!?」
「信仰じゃない。盲信だ。人を見ず神のみを見る!」
「フィ、フィンチさん!?」
「周りの村人達と軋轢となろうが神しか見ない!神を引き合いに出せば許されると思っている!」
「えっ、ど、どう・・・?」
「そのくせ何もしない!祈れば食料が与えられ、祈れば金がもたらされると本気で思っているんだ!」
「フィンチさん・・・」
「私だ!私が金も!食料も集めたのだ!神ではなく私が!」
「・・・」
「祈ってばかりで何もしない、何の苦労も知らないお前より私の方が神に愛されている!」
「だから愛する子供を愛しても良いと」
「そうだ!この子達の食い物も!服も!私が与えたのだ!子供は私の物だ!」
「フィンチさん!?」
「小児性愛者」
「何だと!?」
「力の無い、抵抗出来ない子供を力づくで暴行し食い殺した。お前はもはや人間じゃぁない。あっ、もう人間辞めてたんだったな」
「・・・くっくっく。知っててハメたのか?」
「犬の鼻っ先に餌をぶら提げたら1発で掛かったよ。チョロかったな」
「小僧ぉっ!オオオォォォン!」
バリバリバリ
服が破れて身体が大きくなっていく。
「バイヨはマリオンの護衛だ!」
「し、しかし!」
「てめぇが討伐するのが依頼だったかぁ!?」
「わ、分かった!」
「オオオォォォン!」
鼻先が伸びて犬っぽくなってゆく。
毛も伸びて真っ黒になってゆく。
人間の形を失ってゆく。
「セラナ!前へ!」
「おう!」
「森の中だぁ!奴の機動力は活かせん!良く狙え!」
『了解!』
全身真っ黒。
目だけが真っ赤の大きな犬が口からハァハァと舌を出している。
「本性が出たな。お似合いだぜ!」
「抜かせ!人間を超越したのだぁ!」
『しゃ、喋った!?』
「知能はそのままに!身体は人間を超えたぁ!私が神だぁ!」
「欲望も人間の分を超えたなぁ!」
「グアァァァ!」
跳躍して最前列のセラナを狙う。
「おう!」
ガウン!
ケセラが吹っ飛ばされて来たが無事に両足から着地した。
「大丈夫!?」
「体重差が有るからどうしても飛ばされる!しかし大丈夫だ!」
「任せたぞぉ!」
「おぉ!」
「ティア!」
「何!?」
「奴は1度を食らってる!ここぞっていう時に使え!」
「分かったわ!」
「アヤ、ルーラは連射式だ!」
「「了解!」」
「司祭フィンチ!」
「マァリィオォォォォォォン!」
「何故!何故あなたがこんな姿に!?」
「神にぃ選ばれたのだぁよぉ!この私がぁ!お前じゃなくなぁ!」
「お前の神って悪魔だったのか」
「小僧ぉ!」
ガウゥン!
前足、いや手で盾を振り払う。
ケセラも真正面から受け止めずいなす。
シュシュッ
一射目を避けて二射目を飛び退いた。
そのままケセラの右斜め後ろ、俺の右隣のエマに疾駆する。
「グガアァァ!」
「きゃあああ!」
俺は棒ナイフを投げた。
フィンチは四足歩行が成せる業の急激な方向転換で躱した。
同時にエマへの進行もずれる。
そのままの速度で後ろに居たバイヨ達に襲い掛かる。
「横薙ぎだ!」
「うおおぉぉ!」
バイヨは横薙ぎを出したがフィンチは飛んでバイヨの頭上を越す。
後ろに居るマリオンの背後に着地しようとするが、
「ギャウッ!?」
俺が着地点でマチェーテの柄尻を手の平で支えフィンチの腹部に刺し込んだ。
捻じり込もうとするが右手で振り払って来たので刀を腹部から抜きつつ飛び退る。
「グバッハァー」
口から苦しい息と共に血を滴らせた。
「てめぇの血はうめぇかよ」
「ぎざまぁ~」
傷口が見る見る塞がってゆく。
俺は右袈裟を見舞う。
奴はシュタッと伏せるように四つん這いに避けた。
マチェーテを払ったまま左回転し後ろ回し蹴りを食らわせた。
「ギャワン!」
鼻に命中し竦む。
そのまま回転し右袈裟。
右手を斬り落とした。
「ブアッハァ!」
フィンチが左手で右手を拾いつつ飛び退る。
矢の援護が来る。
シュシュシュッ
そのまま連続で飛び退く。
右手の切断面を合わせて結合してゆく。
「キリが無いぞ!」
「このままだ!」
「アオオオォォォ!」
「《呼寄せ》だ!?」
「マルコ!?」
「アヤ、ルーラ、ティアで増援の対処だ!」
「「「了解!」」」
ケセラが走って来てフィンチに対する位置取りをする。
魔犬共が《魔力感知》範囲に侵入した。
「数が多い!エマも増援に当たれ!」
「分かった!」
「グアウッ!」
グァン!
手の振り払いを防いだケセラの盾が唸る。
そのままフィンチは前蹴りを盾に食らわせた。
しかしその程度では吹っ飛ばなかったケセラ。
しかしフィンチは反動を利用し跳躍してから木を利用して更に跳躍、
バイヨの後ろのマリオンの後ろの木に着木して木を蹴りマリオンに飛び掛かった。
「立体移動だと!?」
しかし、
「グアウッ!」
空中で体勢を変えられないせいで俺の突撃を横っ腹に食らった。
衝撃で吹っ飛んで脇腹と口から血を滴らせつつ立ち上がる。
「余程恨まれてるねぇ。祈ってただけがそんなに嫌だったんだ」
「そん、な・・・」
「グルアアァァ」
『バウバウバウ!』
「来たわ!」
「任せたぞぉ!」
「うん!」
「はい!」
「《バインド》!」
「それ!」
魔犬の反応は次々に消えていく。
「グルアァ!」
「《ファイアーアロー》だ!」
フィンチの頭上に5本の燃える矢が発現した。
「バウッ!」
5本の燃える矢が放たれる。
躱すミキ。
盾で受けるケセラ。
叩き落とすバイヨ。
俺も躱しマリオンの下へ。
「きゃあぁぁ!」
マリオンに向けられた火矢をマチェーテで《受け流し》つつ《カウンター》発動。
むっ。
以前受けたよりも手応えが有る。
振り払って目の前に落とした。
魔法の矢だから山刀に魔力を乗せれば弾き易いようだ。




