⑩-12-262
⑩-12-262
4人用のテントに5人居る。
就寝用に4人なので座ってれば大丈夫だ。
「どう?」
「凄ーい!カルドンだね!」
「そう!」
「似てますわ」
「良い出来だ」
菊池君がカルドンの木彫りを披露している。
「次は大ヤスデだな」
「絶っっっ対嫌っ!」
「何でだよ。売れると思うぞ」
「あの足とか」
「確かに、ムカデは1節1対だがヤスデは2対で多過ぎるからな。大変そうだ」
「違ぁーう!気持ち悪いのよ!単純に!」
「可愛そうに。前世では益虫だったのに」
「ガス出すのに?」
「防衛の為にね」
「次は何作るの?」
「何にしようか考え中よ。良いのある?」
「野衾とかどうだろうか」
「・・・良いわね。性格は凶暴だけど、見た目は売れそうね」
「ゾンビとかどうだ?」
「売れるかっ!ボケ!」
「ケセラ姉ぇの薬草はどうなの?」
「うん。やはり人の手に渡ってない方が効果は高いようだ」
「そうなんだ」
「親方達も良い素材だと言っていた」
「やはり純粋魔力かしらね」
「うん、恐らくそうだろう」
「薬草は根元から掘り出すんじゃなく刈り取ってるね」
「うん。また生えてくるようにな」
「その場合、植物は死ぬんだけどある程度の時間は生きてるんだ」
「へぇ?」
「当然呼吸や水も吸う」
「植物も呼吸を?」
「あぁ」
「水も?」
「あぁ。だから人間の近くだと人間界の魔力を吸って純粋魔力を吐き出してるか、生命維持に使用してるかしてるんじゃないかな」
「ふーむ」
「じゃぁ、今の所は収納袋に入れておくのが1番?」
「うん、そうなるか」
「しかし収納袋も不思議だよな」
「今更ね」
「植物の実は入れられるだろ?」
「うん、そうだね」
「えぇ」
「でも実は死んでる訳じゃ無いだろ?」
「そうだね。植えて水をやれば生えてくるもんねぇ」
「そうですねぇ」
「動物は死んでないと駄目とか?」
「植物が生きてればキノコも生きてても大丈夫だと思うんだよね」
「あ、あの寄生キノコも?」
「魔石持ってる奴は駄目だろうけど、持ってなかった奴は・・・分からんなぁ」
『ゾゾォ~』
「成長して魔物になるのかな」
「どうなんだろうね。自然の神秘だな」
「自然に反するブラックドッグは許せないわね」
「・・・あぁ。子供を襲うなど」
「でもオークとかもいるよ。襲うのは人間だけじゃないし」
「オークは生殖行為だろう。自然な行動だ。他の種に産ませるというのが異常に思えるだけで」
「うーん」
「ブラックドッグは暴行して食い殺してる。生殖行動ではない。自然から逸脱した・・・人間のような行動だ」
「今の調子で行けば明日の昼前には村に着くだろう。早く解決しないとな」
「そうね」
「孤児院出身だから気持ちは分かるが、冷静にな」
「うん、分かって・・・は、いる」
「みんなでフォローするから大丈夫だよ」
「マヌイ・・・頼むよ」
「うん」
「依頼も解決しないといけないが、先ずはこれを見てくれ」
「「「「なに?」」」」
「貴族名鑑?」
「あぁ。このページのこの家系」
「ベオグランデの貴族の家ね。これが?」
「姓じゃなく名。5番目の子供の名を見てくれ」
「エルラーマル?これが?」
「次にこの家系の4番目の子の名だ」
「インケルメンセティア。長い名前ね」
「どうだ?」
「どうだって・・・どう?」
「うーん」
「なんでしょう」
「これがどうしたんだ」
「聞き覚えは?」
「「「「うーん」」」」
「次にこの家系の3番目の子の名」
「ンナバイエル」
「ンナバイエル・・・ドワーフ?」
「カルトさんもそんな感じの名前だったわね」
「ンナ・・・カルトもそうだったよな」
「諦めないでよ。たしか、ッナッキャールト」
「確かそうだったよね」
「この子もドワーフ」
「ンナバイエル・・・ンナバイ・・・ヨ?」
「「「!?」」」
「バイヨ!?」
「恐らく」
「エルラーマル・・・エマ!」
「インケルメンセティアはティアか!」
「貴族だったの!」
「しー。近くのテントに居るんだぞ」
「そ、そうね」
「恐らくな。しかし嫡子じゃないから相続出来ない」
「冒険者になって家を興す。なるほどね」
「いつ気付いた」
「気付いたというより気にはなってた。先ず貴族心理に詳しい」
「まぁ・・・しかしそれ位は世間でも知られているだろう」
「ティアやエマは違うがバイヨの口調だ。ケセラに似ている」
「む」
「軍人は簡潔に述べる必要が有る」
「そうだ。戦場など、言い回している暇なんてない。だから自然断定的な言い方になる」
「ケセラの様に?」
「む、そうだ」
「魔導師ギルドのお爺さんも堅いって言ってたねー」
「そ、そうだな」
「じゃぁバイヨは軍人?」
「家系がそうなのかもしれん。軍を辞めて冒険者になったかもしれん。それは分からん」
「そうだねー」
「バイヨはベルバキアとルンバキア。ベオグランデ公国だけ言い方が違っていた」
「今から思えば国に誇りを持ってる言い方や態度だったわね」
「職務上なのか生活上なのか、言っていた時の癖なのかもしれん」
「ふーむ」
「じゃぁ、あのなんちゃって貴族と一緒って事?」
「あいつと比べるのはどうかと思うが・・・まぁ動機は同じだろう」
「そうか。同じ境遇だから気持ちも分かる。余計に腹が立ってた訳だ」
「突っかかってましたしね」
「悪魔の眷属を討伐すれば名が上がる、って訳ね」
「気が逸るかもしれん。いざという時は見捨てる。覚悟はしていてくれ」
『!?』
「パーティの命が最優先だ」
「・・・分かったわ」
「・・・うん」
「はい」
「・・・」
「ケセラ」
「わ、分かっている。分かっては、な」
「相手は単なる魔物じゃない。悪魔の眷属だ。ケセラも魔虫の時に言っていただろ。最悪を想定すると。今回はハッキリ分かっている、眷属だ」
「・・・あぁ」
「でも。あたし達悪魔や魔女も倒してるし!大丈夫だよね」
「いつも大丈夫だと思っていては駄目だ」
「う、うん・・・」
「運よく勝てたのかもしれない。実際初見だったしな。生態も何も分からない。今回もな。不利なのは確かだ」
「うん・・・」
「いいか。動揺せず練習通りやるんだ」
『分かった』
「しかし貴族名鑑を見てると長子が継いでいるのが少ないな」
「病気かしら」
「あぁ。貴族には多いからな」
「近親婚ってこと?」
「そうだ。貴族は貴族と結婚するのが普通だ。祖先を辿れば近縁だったなんてことはざらだそうだ」
「病気は魔法で治んないの?」
「生来のものは治らないそうだ。だから健康な長子は大事にされる。怪我や風邪なんかにも回復魔法だ」
「水魔法じゃないの?」
「痛みや症状が残るだろう?回復魔法は元通りに回復する」
「ふーむ」
翌朝。
昼頃には村に到着した。
聞いていた通り大きな村だ。
建物も今までの村より頑丈そうで道幅なんかも広い。
村人に聞いて村長宅に向かった。
「ムルキアのギルドから来なすったと」
「えぇ僕はマルコ。彼女はバイヨ。2パーティのリーダーです」
「よろしゅう頼みます」
「えぇ。早速お話を聞かせてもらえますか」
「はい。最初は1か月前くらいですわ。孤児院の女の子が。それ以来次々と」
「孤児院の子供だけですか」
「えぇ。そうなんですわ。不思議と、村のもんの子供には食われたもんはおりません」
「うーん。不思議ですな」
「全く」
「間隔は」
「まちまちで。数日空いたと思ったら連日なんて事も」
「うーん」
「これまで10人食われとります」
「性的暴行を受けてると聞きましたが」
「そうなんですわ。中には男の子も」
「男の子も!?」
「えぇ・・・」
「うーん。10人も殺されてる割には村は落ち着いてますね」
「・・・こう言っては何ですが、孤児だけなんで・・・」
ケセラが強張っている。
「まぁ。分かりますよ。誰しも自分の子が可愛いですよ」
「え、えぇ・・・」
「目撃者の話を聞きたいんですが」
「案内させましょう」




