⑩-10-260
⑩-10-260
宿に帰った。
「馬だけ借りて移動するのね」
「それが良いだろう」
「荷車は宿に置いておけば良いしね」
「流石に荷車は収納袋に入りませんわ」
「解体して収納したいって言ってなかった?」
「最終的にはそうしたいね」
「とりあえずって事か」
「ではウリク商会に申し込むのか?」
「あぁ、そうしよう」
「じゃぁ、もう少し滞在するのね」
「荷車がある程度完成するまではそうしよう」
「その間依頼はどうするの?」
「そうだな。改造自体は出来る。前回の依頼の時に確認したしね」
「えぇ。乗り心地も良かったわ」
「そうだね!」
「つまり菊池君が荷車を作れるようになれば良い訳で」
「依頼をしつつ荷車の研究を、って事ね。分かったわ」
「頼みますよ」
「私達も修行をした方が良いですし」
「そうだね!」
「うむ!」
また各自没頭していた。
マヌイとサーヤ君はバックパックを。
ケセラは薬草キットを使っている。
「うーむ」
「どうした?」
「うーむ。やはり効果が高いようだ」
「今日取って来た薬草かい?」
「うん。やはり純粋魔力なのだろうか」
「色々試して色々悩んだら良い。それが理解を深め経験値になるだろうね」
「うん。そうするよ」
「金は惜しむなよ」
「あ、あぁ。ありがとう」
翌日。
午前中はサーヤ君の良い笑顔に癒され昼はみんなで昼食を摂りウリク商会へ赴いた。
「荷車ですか」
「えぇ、オランドさん。扱ってます?」
「売却用ではないですがね。私共も他の街へ行くのに使いますから扱ってはいるのです」
「自分達で整備するんですね」
「えぇ。しかしマルコさん達の要望であれば作らせる事も吝かではありませんよ」
「中古で良いですよ」
「分かりました。どういった物を御要望で?」
「速いの、かな?」
「そうね。荷物用というよりは単なる移動用と言った所かしら」
「では多少狭くても?」
「えぇ。5人が・・・5人でいいかな?」
「うーん」
「8人が良いのかなぁ?」
「マルコさん達は収納袋が有りますが、変に勘繰られない為にも8人用が良いと思いますね」
「でしょうか」
「荷台に何も載ってないと確定ではないですかな」
「ですよねー」
「では8人用の速度優先タイプで」
「あ、車軸と車輪は新しいのを。車輪は大きいの有りますか?」
「では直に確認された方が宜しいですかな」
「そうですね。そうしましょう」
中古の荷台を購入し、車軸、車輪は新規で作ってもらった。
今日中には出来上がるという。
その後は森で戦闘練習と魔石収集だ。
それも終わり街に戻る途中、
「全力攻撃は凄まじいな!」
「みんな一撃必殺攻撃を持ってるからね!」
「マヌイとミキさんは魔法と弓で1度に2発撃てますし」
「サーヤも連射式でケセラを援護しつつハンマーで1撃だしね」
「カズヒコの機動戦は・・・」
「まぁ魔虫でも見たしね」
「ほっとけば倒してくれるから私達は目の前の敵に集中だよ」
「流石です!」
「まぁ、最近は逃走訓練ばっかだから息抜きになったんじゃないか?」
「うん!スカッとしたよ!」
「まぁ、でも、全力出さなきゃいけない相手に会わないのが1番だけどね」
「・・・そうね」
「そうだね」
「はい」
「そうだな」
商会から荷車を受け取った。
宿まで馬を借りた。
返すのは明日で良いらしい。
宿に帰ったら冒険者ギルドから言伝だと言う。
緊急との事だ。
「はぁ、行きたくねーな」
「そうねー」
「良い話じゃないのは確かだよねー」
「緊急だものねー」
「軍でもそうだな」
ギルド本館に入る。
「あっ!マルコさん!」
黒人受付嬢だ。
「お待ちしていました!2階へどうぞ!」
案内されて応接室に入るとバイヨ達3人が居た。
「あれ。君等もか」
「まぁね」
「待っていたよマルコ君。座ってくれ給え」
「はぁ~~~~~い」
「・・・相変わらずだな」
「緊急って、良い事じゃないですからね」
「・・・君。お茶を頼むよ」
「はい」
「マルコ君達に依頼を出したい」
「お断りします」
「早いな!」
「早いわよ!」
「何で僕等なんですか。上位ランカーが居るでしょう」
「居ないのだよ。まだ戻っていないのだ」
「そんなに人居ないんですか?」
「・・・マルコ君達、他言無用に願いたいのだが」
「はぁ~、またですか。分かりましたよ」
「ンナバイヨ君達も」
「あぁ、構わないよ」
「上位ランカーの所在は我々にも知らされていないのだ」
『?』
「そしてここは南部連合最北端国」
「・・・はぁ~」
「マル兄ぃ、どういう事?」
「依頼主は国で依頼は軍事活動、そういう事ですか」
『!?』
「我々には知らされていない」
「強制なんですか?」
「まさか。冒険者から貴族になった者も居るがその話によると良くて半強制とか」
「ランク上げたくねー」
「それだけの実力を持ったら目を付けられるという訳だな」
「お腹空いたんで帰って良いですか?」
「君。メニュー表を」
「はい。マルコさん、ちょっと待っててね」
「帰さない気だ」
「スティーゲンさん、聞いても良いですか」
「アヤ君。どうぞ」
「例えばドラゴンを1匹倒したら即Aランクですか?」
「あぁ。即Aランクだ」
「ふ~ん」
「ドラゴンにはギルドポイントは無いんだよ」
「えっ?」
「ドラゴンは魔物ランク外の魔物なんだ」
「ランク外?」
「ドラゴンはまぐれやラッキーで倒せる魔物じゃない。ドラゴンを1匹でも倒せるのなら冒険者ランク外の実力が有ると見做される」
「ランク外?じゃぁランクって・・・」
「ランクは普通以下の冒険者をランク付けした物だ」
「普通以下?」
「普通やそれ以下の者達の実力を量る為の物だ。人並外れた者を量る物差しなどないんだよ」
「並外れた・・・」
「一般的な冒険者を規格付けする為のランクであり、ドラゴンなど普通じゃ倒せない物を倒せるんなら即Aランクなんだよ」
「あの・・・それじゃぁランク外の魔物って多いんですか?」
「あぁ。山のようにね」
『ひぇー』
「この世の冒険者のほぼ全ては普通かそれ以下の冒険者だ。ランク外の冒険者は一握りしか居ない。ランク外の者達を入れたランク制度だと偏ってしまう。そもそも我々には規格付けすら出来ないよ」
「それでもAランクなんですね」
「そうだマルコ君。それでもAランクだ。ランク外用のランクを我々は創設しない」
「我々は?」
「北部だ。あいつ等はランク外を優遇する為に創設している。貴族待遇でな」
「北部に移るランク外もいそうですね」
「あぁ、残念ながらな。しかし我々南部は特別優遇はしない。同じAランクだ」
「どうしてなんですか?」
「アヤ君。この世の依頼を、この世の魔物を倒しているのはランク外ではない。普通とそれ以下の冒険者達なのだ。実力はランク外の足元にも及ばないかもしれないが、彼らがこの世の人々を魔物から守っているのだ。分かるかね」
「一握りの人だけじゃ、広い世界を守れない」
「その通りだ。何処にでも居る普通の冒険者がこの世界を守る。故に優遇は無い、同じランク内に居るんだ」
「なるほどー。為になるお話、ありがとうございました。では僕達はこれで」
「待ぁーてって、マルコ君」




