⑩-09-259
⑩-09-259
朝食を食べてそれぞれ修行に行った。
俺も裏庭で鍛冶をしている。
その横でサーヤ君が糸車を回していた。
クルクルクル~
「調子はどうだい?」
「はい!凄く良いです!」
良い笑顔!
「そうかそうか」
しばらく回していたサーヤ君がふと萎れたようになった。
「どうしたんだい?」
「実は・・・昨夜ケセラと話されたじゃないですか、《魔力検知》《魔力操作》の事で」
「あぁ」
「私もどちらもLv7になったんですけど」
「凄いじゃないか。たった1年で」
「ありがとうございます。でも・・・最近悩んでいまして・・・」
「うん?」
「ここからどうやって伸ばしていけばいいか・・・」
「なるほど」
「・・・」
「自分で考えるのが1番なんだが」
「はい。分かってはいるのですが・・・昨夜の事を思うと、1度原点に帰った方が良いのかと思いまして」
「うん?」
「2つのスキルで私の中に魔力を感じ操作出来るようになったのですが」
「凄いじゃないか」
「はい。そしてここから伸びているように感じないんです」
「そうか。そういえば君は奴隷だったな」
「はい」
「奴隷時代の厳しい躾やらで常識や因習が邪魔をしているのかも知れないね」
「・・・なるほど」
「もっとみんなと話してみたらどうだい、特にケセラと」
「ケセラと?」
「お互い過去に縛られてる者同士、分かり合えるんじゃないかな。それがケセラに2つのスキル習得を促し、サーヤ君に更なる視野を広げてくれるかもしれない」
「・・・はい」
「これは助言になるか分からないが」
「えっ」
「君の胸に聞いてみて、って感じかな」
「もう!真面目に話してるんです!」
「はっはっは。おっと、そろそろ帰って来るぞ。昼食の時間だ」
「もう!」
「彼女達が帰って来るまでやってみるかい?」
「え?」
「原点に帰る意味で僕の魔力を感じてみるかい?」
「は、はい!お願いします!」
「あ、サーヤ君。上は脱がなくて良いんだよ」
揃って昼食を摂り武器防具屋に行ってケセラの装備を受け取った。
プレートメイルを下取りに出し、以前の4人の装備と合わせて100万エナを支払った。
森の奥で着心地を試している。
「どうかな?」
「あぁ!凄く良い!軽い!動き易い!言う事無いな!」
盾を持って色々動いている。
実戦的に動作確認しているようだ。
「西洋的じゃなく東洋的ね」
「金属鎧じゃないから皮革鎧を突き詰めていったらあぁなった。1枚板じゃなく鱗の様に1枚1枚重なるようになっている。特に日本の具足は弓も撃てるようになってたんで参考にした」
「弓手側が装甲が多いのもその為ね」
「近距離では弓手で盾を持つしね。加えて肩回りも具足に近い」
「ふーん?」
「ケセラ。剣を振りかぶって見てくれ」
「分かった!おぉ!思いっきり振りかぶれる!凄いな!」
「?」
「プレートメイルはチェインメイルの上にアーマーを着るから動き辛い上に肩の可動域も狭まる」
「へー」
「従来は肩で着ていたから尚動き辛い。これは腰で着るから肩の負担も減って更に動き易くなってる」
「バックパックと同じ要領って訳ね」
「そーゆー事」
「兜もフルフェイスヘルメットに近いわね」
「頭部にクッション材を入れてある。少し膨らんでるが元々軽いから問題無い」
「全体的にスマートね」
「僕達のメインフィールドは森だ。日本の鎧は出っ張りが多過ぎる。対弓を意識した戦争用だからそれで良かったんだろうがね」
「見た目は特殊部隊ね」
「木や藪に引っ掛からないよう出る所は最小限に抑えてる・・・胸はどう仕様もない」
「・・・でしょうね」
「どうかな?」
「凄い!素晴らしい!今までで1番の鎧だ!」
「ケセラは元々軽装騎士だったから相性が良いんだろう」
「うむ!」
ブンブン!
素振りをしている。
装備の感触が気持ち良いらしい。
「菊池君」
「分かったわ」
「?」
「木刀を作ってもらった。受け取ってくれ。ケセラとサーヤ君用に」
「私もですか?」
「あぁ。騎士の正統剣術を教えてもらうと良いんじゃないか。《槌術》にも活かせるだろう」
「はい!」
「そうだな。対人戦を考えるのならそれが良いかもしれん」
「2人で対戦すれば実戦での連携もスムーズになるだろう」
「はい!」
「あぁ!」
「所でカズ兄ぃ」
「ん?」
「ケセラ姉ぇのスキル《隠蔽》どうするの?」
「そうだったな」
「私は盾役だから隠すものは少ないと思うが」
「《盾術》《馬術》《弓術》《身体強化》。これを《隠蔽》するか」
『多っ!?』
「盾役なのに《盾術》無いと怪しまれない?」
「盾役なのに《盾術》無いと舐めて来たら儲けものだ」
『・・・』
「《身体強化》は分かるが《馬術》もか?」
「《馬術》だと騎士だとバレないか?」
「うーん。確かに。普段冒険者は馬に乗る機会は少ないな」
「《弓術》も?」
「盾役なのに必要無いだろう」
「そうだね」
「騎士の要素を無くすのですね」
「あぁ。となると《剣術》含め3つだけか・・・不自然ではあるな」
『うん』
「でも僕も2個だし。そういうパーティって思われるだろう」
「射手が3人だしね」
「私が風魔法隠してないしねー」
「飛び道具で仕留めるって思われますね」
「あぁ。あんまり強そうな構成ではない。これが重要だね」
「舐められない?」
「舐めて来たら経験値だな」
「はい!」
「・・・いや、危険でしょ。余計な危険は避けるって言ったでしょ!」
「そもそもステータスを覗ける奴が少ないんだ。僕達の見かけで絡んで来る奴は避けようが無いよ」
「それは・・・まぁ、そうね」
「覗かれて絡んでくるのは?少し強めに見せとけば避けられるんじゃない?」
「その可能性も有るが、対策を立てて襲い掛かってくる可能性もある。僕ならそうする」
『うーん』
「その場合、舐めて何の対策も無く来てくれた方が殺り易い」
「・・・そうね」
「じゃぁ生産スキルは公開した方が良いのかな?冒険者が片手間で職人目指してまーす、って思われるかもよ?」
「そうだな。それはアリだな」
「お金貯まったらお店開くつもりって思われるかもね」
「実際そうですしね」
「じゃぁ生産スキルは公開するか」
「そうしましょう」
「それじゃぁそろそろベオグランデに行くか」
「そうねぇ」
「そうだねぇ」
「そうですねー」
「構わないぞ」
「ケセラ、ここからベオグランデ公国までどれくらい掛かる?」
「どこまでいく?公都か?」
「そうだなー。あぁ、公都にしよう」
「ムルキアから公都ベオグラーダまでなら2週間といったところか」
「・・・遠いな」
「山岳地帯だからな。馬車ならその半分から10日くらいだな」
「うーん」
「山岳地帯なのに半分くらいですむの?」
「勿論遅くなるが歩くより速い。なにより平地でその分を稼げる」
「うーん」
「どうしたの?」
「馬車を、荷車を作るか?」
「あぁ、ミキ姉ぇの《木工》で?」
「あぁ。僕のサスペンションを付ければ良いだろう」
「借りて改造すれば良いんじゃないの?」
「専用に作った方がより速くなるだろう」
「・・・確かにね」
「荷車に軽量化の魔法付与は可能かな」
「荷車の大きさだとどうだろうな。それに魔力の高い木材は希少だ。市場には出回らんな。それに普通は耐久性を上げるものだ、軽さよりもな」
「うーん」
「エウベルトさんに言って荷車を買う?」
「そうだな。それを分解して構造を理解すれば僕達専用の荷車も作れるかもな」
「あくまで専用に拘るんだね」
「最終的にはね。マヌイも揺れは少ない方が良いだろう?」
「うん!それはそうだね」
「じゃぁ荷車買ってみる?」
「あぁ。ベオグラーダは観光だから直ぐに出て行くだろうし。そうなったらまたここに戻って来るか。ベオグランデの西には何が有る?」
「急峻な山々でとても往けないな」
「じゃぁ東に行く?」
「そうするか。サーヤ君?」
「海亀・・・見たいです」
「そうだったな。ケセラ?」
「私は特に行きたい所は無いし、サーヤが見たいと言うのなら」
「じゃぁベオグラーダを観光して戻って東・・・どこだっけ」
「ソルトレイク王国だ」
「そこに行こうか」
「はい!」
森で薬草を採集して僕達は街に戻って馬車屋に向かった。
馬達に高級野菜を貢いでいる。
勿論ラドニウスにもだ。
おやっさんと話す。
「保証金戻って来たって?」
「えぇ。助かりましたよ」
「良かったじゃぁないか」
「えぇ。これで何とか食べていけます」
「へっ。馬達に貢いでんのにか?」
「僕の食費を切り詰めてるんですよ。こいつと約束しましたし」
「ブオォ」
「時に、馬だけ、荷車だけって借りられるんですか?」
「あぁ、借りられるよ。小規模な商会は荷車だけは持ってるけど馬が無いって所も有るからな」
「ほほー。以前村に置いて行くって聞いたこと有るんですが、その場合保証金ってどうなるんです?」
「村に置いて行く場合村長に証明書を発行してもらう。それを持って街へ行きゃ保証金を返してもらえるよ。余所の街へも同様だ。ここで発行する保証書を街で見せりゃぁ良い」
「助かる仕組みですね」
「あぁ。元冒険者の建国王が整備したのさ。これで商人や冒険者の流れが活発になって発展していったんだと」
「「なるほどー」」
「預かってる村も預かり賃やら国からもらえる。拒む理由は無いな」
「馬だけを借りて隣の国まで行くことも可能ですか?」
「途中は野営って事かい?」
「えぇ」
「南部連合なら可能だ。勿論日数分料金は発生する」




