⑩-03-253
⑩-03-253
中央広場近くの店で食事をしている。
「《木工》どうだった?」
「やってみると楽しかったわ。作るのって楽しい」
「そりゃ良かった。家具とか良いんじゃないの?」
「そうねー。何作るか考えるのも楽しいわねー」
「笛作ろうよ!」
「楽器は良いですね!」
「いよいよバンドになってきたな」
「タンバリンとか作ろうかしら」
「木彫りの置物・・・大熊がウォーターリーパー咥えてるのとかどうだ?」
「売れるんかい!って売れるから有名なのよね?」
「上位種シリーズは売れそうだな。冒険者とかギルドに」
「クルトさんは買うんじゃない?」
「そうね」
「マヌイはどうだ?楽しいか?」
「うん!作るの楽しいよ!」
「そうかそうか」
「将来的にはみんなの装備を作りたいね!」
「はっはっは。素材は自分達で確保すれば買わなくて済むからな」
「先ず簡単な物から作っていきましょ。ポーチとか小物類ね」
「売ればお金にもなりますね」
「でもLvが低いから出来た物を売るより素材をそのまま売った方が稼げるよ」
「スキル上げがメインだから気にする必要は無いよ。素材はタダだし」
「うん!」
「ケセラはどうだ?楽しいか?」
「うーん。正直楽しいかと言われると・・・分からんな」
「そうか」
「つまらないという訳ではない。時間が過ぎるのも忘れるしな。今朝もあっという間だった」
「ケセラは学者肌なのかもね」
「うん?」
「熱中してるのよ。楽しいと思う暇もなく」
「ふーむ。なるほどな」
「そういう意味では《薬学》は良かったかもな」
「うん?」
「学者向きだろう」
「そうね」
食事を終えて宿に帰ろうと中央広場を通っていると人だかりが出来ている。
何だろうと見てみると立札が立てられていた。
「何かしら」
「ちょっと見て来る」
代表して俺が見に行った。
「何だったの?」
「先日のカルドンの村の村民の処刑が4日後だって」
『・・・あぁ』
「ここでやるの?」
「あぁ、らしい」
「公開処刑かぁ・・・」
「随分沈んでるな、ミキは」
「前世は公開はしなかったんだよね。そもそも処刑が珍しいしな」
「そうなのか」
「死を遠ざける文化だったからな」
「ふーむ」
「今世は死は身近、隣り合わせだ。公開処刑もある種、ショーだろうしな」
「その側面はあるな。見せしめが大半だろう」
「マヌイは大丈夫なの?」
「うん。バレンダルでもやってたしね」
「マヌイは罪の無い人が苦しむのが可哀そうなだけであの村民には同情は無いだろ」
「うん。子供が可哀そうなだけでね。死刑は当然だよ」
「更生を考えるとね・・・」
「罪を憎んで人を憎まずって?遺族が言うんならまだ分かるがね。恩赦でもされて宿で隣の部屋に泊まってたらどうよ?」
「・・・」
「金で人を殺す奴らだぜ。あっ、金の為に魔物殺してる僕が言う事じゃないか」
「いや、秩序は大事だ。あいつ等は魔物と変わらんだろう」
「人間が1番の魔物ってね」
「真理ではある。だがだからと言って無秩序が良いというのなら人間社会に居てはならんな。余所へ行けと」
「はぁ~。いつの世も、どこの世界も人間に悩むのね」
「人生は人間に始まり、人間で終わるのですわ」
「哲学だねぇ」
「永遠に解けない問題に対する理解できない答え、それが哲学だな」
中央広場を出て病院に寄った。
今回で治療は終了だ。
今日もまたマヌイが熱心に聞いていた。
病院から宿に帰って部屋で俺とケセラはケセラの装備を話し合っている。
マヌイとサーヤは一緒にバックパックを作っていた。
菊池君は木で何か作っていた。
「ふふっ」
「どうした?」
「いやぁ、平和だなぁって、思って」
「・・・そうだな。数日前まで100匹以上の魔虫と戦ってた訳だからな」
「あぁ。こういう時間の為に戦っているって、皮肉なもんだな」
「軍隊と一緒だな」
「そうだな」
「例え私達が平和を願っても、暴力でそれを侵そうとする者が来る。カズヒコは間違っていないぞ」
「・・・勿論だ。俺は常に正しい。間違ったとしても、間違ったと認識出来るのが正しさを証明している」
「カズヒコはそれで良いと、私は思う」
「あぁ。時にビキニアーマーに興味は無いか?」
スコーン!
木片が頭にぶつけられた。
翌日。
午前の修行を終えて一緒に昼食を摂った後、ウリク商会系列の武器防具屋に行く。
「どーもー」
「おっ。聞いたぜまた上位種だって?」
「ホント嫌々なんですよね」
「はっはっは。確かに上位種なんて好き好んで狩りに行く奴ぁ頭のネジ緩んでるな」
「黙っててくださいよ」
「分かってるって。で、今日は?」
「大ヤスデを使った防具を作ろうかと」
「あぁ、聞いてるよ。じゃぁデザインを?」
「えぇ。持ってきました」
「どれどれ・・・これはアーマー嬢ちゃん以外の4人は追加装甲って感じか」
「えぇ」
「仕上げなくて良いのかい?」
「はい。僕等でやろうかと」
「へぇー。で、アーマー嬢ちゃんのは新規で作るのかい」
「はい。外殻の上に更にアーマーを乗せて更に防御力アップの魔法付与をお願いします」
「そうなると今のアーマーじゃぁ魔法付与は出来ねぇぜ?」
「えぇ。新しいのでお願いします」
「分かった。じゃあ後でアーマーを選んでくんな」
「はい」
「では採寸をお願いします」
「いや、前回のが有るから大丈夫だよ」
「いや、成長してるかも知れませんから手伝「スコーン!」いってぇ!」
「はっはっは。じゃぁ素材は商会から仕入れとくからよ」
「えぇ。お願いしますわ」
「あつつ、どの位で出来ます?」
「ん~追加装甲と手甲は2日。アーマー装備は5日くらいかな」
「分かりました。ではお願いしますね」
「あいよ!」
ケセラの片手剣を買って店を出た。
その後、馬車屋に行って高級野菜を馬達に貢ぎ、宿に帰って寛いでいる。
「追加装甲って?」
「君達の上着用だね。あと手甲も大ヤスデのになるから今のより軽くなる」
「上着に」
「あぁ。上着にはサーヤ君に縫い付けてもらおう」
「はい!」
「ははー。スキルの経験値も得られると」
「手甲には樹脂製の矢のハメ込み突起が有る。何本か補充用に取り付けられる」
「「「へー」」」
「でも今は冬用の上着じゃない?夏はどうすんの?」
「夏用のに縫い付け直してもらう」
「なるほど」
「スキル持ちだもんねー」
「えぇ!」
「こういう時スキル持ちだと助かるな」
「ケセラも頼むわよ」
「あぁ。頑張るよ」
「マヌイ用に大ヤスデの素材を少し売ってもらうか」
「そうね。練習用でね」
「ケセラ姉ぇのマスクを作ろっか」
「なるほど、そりゃー良い」
「そうしましょう」
「またケセラとデザインを考えてくれ」
「うん!」
「頼むよ、マヌイ」
「任せて!」
「そうだ。ケセラ」
「うん?」
「武技が無いって言ってたが盾に関してなら何とかなるかもしれん」
「何!?」
「盾に絵を描くんだ」
「絵?それでスキルにどう影響が?」
「目を描く」
「目を?」
「目は特に注意を惹き易い」
「あー、蝶や蛾なんかにある?」
「あぁ。眼状紋ってやつだな。蝶なんかはそれを威嚇の為に使ってるって話だが」
「威嚇って事は注目されてるって事ね」
「あぁ。それで注意を惹けるだろう」
「《ウォークライ》か!?」
「ウォークライ?」
「叫んで注意を集めるスキルだ」
「《盾術》の武技か?」
「いや。主に前衛職のスキルだ」
「スキルか。いや、無言で相手の注意を惹く」
「ふーむ」
「これは男にしか分からんかもしれんが」
「うん?」
「小便器に印を付けるとその印に向かって小便をするようになる」
「私の盾は小便器ではない!」
「・・・例えが不味かったな。弓の練習で中心に点が描かれてる的だとその点を狙って撃つだろう」
「あぁ、撃つな」
「つまり無意識に注目してる訳だ、印に」
「へぇー。じゃぁ目が描かれてると無意識に注意が行っちゃうんだ」
「そうだ。その分、他のメンバーへの脅威が下がる」
「なるほど!」
「でも絶対じゃないでしょ」
「勿論そうだ。しかし、例えばケセラの頭を狙った弓兵は無意識に盾を狙うかもしれん確率が上がる。あくまで確率だが」
「いや、例え僅かでもその確率で生き残れるのならやるべきだ。メンバーの脅威が低くなるのならやるべきだ」
「知能が低い相手ほど効果が有るだろうな」
「魔虫に効果有る訳ね、蝶だし」
「そういや今回の魔虫に蝶や蛾は居なかったな」
「もっと早く描いてればもう少し楽出来たかもね」
「今更さ。それに効果有るか分からんし」
「じゃぁ目を描く?」
「あぁ、マヌイ。そうしよう」
「いいのか?ケセラの盾だぞ」
「何も問題は無い。家族を守る為に盾のデザインなど拘りは無い」
「よーし!じゃぁケセラの盾の目デザインコンテストだ」
『はーい!』
コンテストの結果、マヌイのドラゴンの目が採用された。
ドラゴンを見た事無いのでドラゴンの目なのか分からんが。




