⑩-02-252
⑩-02-252
病院を出て魔術師ギルドへ向かった。
「パオーン!」
「どーもー」
「いらっしゃ~い、おや?あんたらは」
「お久しぶりです~」
「おーおー。元気にしちょったかいの?」
「えぇ。上級ポーションを2つも使って元気元気」
「はぁ~。生き急ぐなぁ言うたのに」
「僕じゃないですよ。通りすがりの女性が魔物に襲われて大怪我を」
「その娘に使ったぁ言うんかの」
「えぇ。お陰で感謝されて。あの宜しかったらうちでお茶でも。いえ、僕を待ってる依頼人がいるので。そんな、せめてお名前だけでも「上級ポーションを2つとスタミナポーションを人数分下さい」、あっ、駄目です、こんな所で。良いではないか良いではないか・・・」
「スタミナポーションもかえ?激戦じゃったのかえ?」
「いえ。念の為に飲んで備えていただけですわ」
「うんうん、それでえぇんじゃ。いざという時じゃなく万一の為に飲むんじゃ」
「いざっていう時は?」
「逃げるんじゃよ。全力でな」
「へぇ~?」
「生きてればやり直せるでな」
「なるほどねぇ」
「流石、経験の蓄積が違うのですかな」
「水晶持ちのお嬢ちゃんも、その身なりじゃ盾役じゃな」
「す、水晶持ちは止めていただきたい」
「ふぇっふぇっふぇ。元軍人さんかな」
「む」
「所作と何より言葉遣いじゃな。堅いよーお嬢ちゃん」
「むむ。そうか」
「マル兄ぃまだやってるよ」
「ほっときなさい。見ちゃ駄目よ」
「あーれー、お止めになってぇ」
「ご老体もベルバキア軍に?」
「ふぇっふぇっふぇ。一応なぁ。でもご老体はなぁ」
「過度な言い回しは逆に失礼だよ」
「マル兄ぃ」
「人にもよるがのぉ」
「現役だしね」
「む。そうだった。申し訳ない」
「ふぇっふぇっふぇ。堅いのぉー。水晶は柔らかそうじゃのに」
「むむっ」
「じゃぁお爺さんで良いのかなぁ」
「あぁ、そんなもんで構わんよぉ」
「じじい、なんか面白い魔導具有る?」
「おみゃーは足りなさ過ぎるのぉー!」
「どんなモンが欲しいんじゃえ?」
「そうだなー。森を移動してる時迷わないように方向が分かる物・・・が助かるな」
「羅針盤は大き過ぎるしねぇ」
「・・・ふむ。魔導コンパスが、適当かのぉ」
『魔導コンパス?』
「あぁ、ダンジョン産じゃ。主にマッピングに使われるが地上でも使える」
「北を指すんです?」
「あぁ。あまり当てには出来んがな」
「意味ねぇーじゃん」
「大体は北を指すのじゃ。指さない時が偶にあると言うだけでの」
「コンパスが?不思議だな」
「それに魔力が強い場所になると針が光る」
「魔力が強い場所?」
「たまーにそういう場所がある。魔力スポットっちゅーんじゃが。そんな所は魔力を強く含んだ植物や動物・・・」
「魔物」
「うむ」
「持っている者の魔力の強さでも光の強弱で変わるんですか?」
「いや、人間や魔物には反応せん、ほれ」
魔導コンパスを取りだして自身に、僕等に近づけて見せる。
(純粋魔力に反応するのかもな)
(なるほどね)
(あの冬虫夏草の繭の在った場所・・・)
(あぁー、かもね)
「小さいですね」
「羅針盤に比べるとな。手のひらサイズじゃ。それに魔石を必要とせん」
「買いましょう」
「うむ。10万エナじゃ」
「人数分ください」
「ふぇーっ!!」
「ぎゃー!?」
「な、何よ!」
「1個10万で50万エナじゃぞい!?」
「えぇ」
「マル兄ぃ。1個で良いんじゃない?」
「駄目だ。もしみんなはぐれた場合を考えると全員持っていた方が良い」
「そうね。買いましょう。みんな持っているのよ」
「うん、分かった」
「分かりました」
「分かった」
「他に何か買う物ある?」
「上級ポーションだけじゃなく各種揃えておこうか」
「そうね。全部上級で済ませる程裕福じゃないし」
「貴族名鑑も買うよ」
「えっ!?買うの?」
「あぁ・・・あの・・・何だっけ?」
「あぁ・・・あの・・・なんちゃって騎士よね?」
「そう!」
「あぁ・・・あの・・・騎士の3男だよね?」
「「そう!」」
「あぁ・・・あの・・・若って言われてましたよね?」
「「「そう!」」」
「ブルバス家か?」
「「「「それ!」」」」
「あいつを調べるの?」
「いや、まぁ、あいつはついでと言うか」
「貴族名鑑は5万じゃな」
「たっか!?」
「ベルバキアだけじゃなくアレク3公国の貴族が網羅されておるからの」
「それは良い」
「?」
「それじゃぁ何だかんだで80万エナじゃ」
「はい」
「毎度ありじゃわい」
「ありがとでしたー」
「分かっておるじゃろうが危なかったら逃げるんじゃぞ」
「分かってますよ。鳩たちによろしくと」
「ふぇっふぇっふぇ」
宿に帰って来た。
「今日は何だかんだで結構歩いたわね」
「ウリク商会行って、中央広場でご飯食べて、病院行って、馬車屋行って、魔術師ギルドで買い物だもんね」
「明日はどうします?」
「朝はマヌイとケセラは修行だな」
「うん」
「うむ」
「早ければ菊池君もだろう」
「そうね」
「僕は鍛冶かな。サーヤ君も縫物するかい?」
「はい!」
「材料を買いに行くか」
「やった!」
「何か作りたい物、作って欲しい物有るかな?」
「防寒マスクは全員分作ったわよね」
「そうだねー。助かったよ」
「あぁ。野外では殊更な」
「スポーツブラとかどうだ?」
「「「スポーツブラ?」」」
「うーん、そうねー」
「熱くなってくるし」
「そうね、サーヤと考えてみるわ」
「応用で男女のスポーツパンツも出来るだろうし」
「えぇ」
「後、全員分の防具を考えようかと思ってる」
「全員分?」
「あぁ、特にケセラのだな」
「私のか?」
「チェインメイルは重いだろ」
「まぁ・・・金属だしな」
「剣を弾いた大ヤスデの外殻を使おうかと思ってる」
「なるほど!軽いしね」
「アーマーは?」
「アーマーはそのまま使おうかと思ってる」
「うむ、そうだな。大ヤスデの外殻の上に更にアーマーが有れば心強いな」
「兜は外殻で良いんじゃないか?」
「うーむ。確かに頭部が軽くなるのは歓迎なのだが」
「防御力に不安が有ると」
「うむ。剣を弾いたとはいえ、な」
「上位種だから魔法付与出来るんじゃないのかなぁ」
『!?』
「そ、そうだな!」
「忘れてたわ」
「じゃぁ、午後は僕とケセラで防具のデザインだな」
「うむ」
「むむっ!」
「病院にも行かないと!」
「そうだな」
「それじゃ午前中は修行してみんなでお昼食べて病院行って、午後は各々やりたい事やるって感じかしら」
『はーい』
翌朝。
仕事が早いオランドさんのお陰で菊池君も《木工》修行に出かけた。
サーヤ君と買い物に来ていた。
「《縫製》かぁ、羨ましいなぁ」
「いえ、そんな」
「でも《身体強化》でスキル枠全部埋まっちゃっただろ?良かったのかい?」
「はい!嬉しいです」
「でも生活スキルが《縫製》の1つだけだろ。辛うじて《解体》か」
「でも、今、幸せです!」
「・・・そうか。ふっ、その笑顔見てるとこっちも嬉しくなるよ」
「え、そう、ですか?」
「あぁ。マヌイの《皮革》、ケセラの《薬学》、菊池君の《木工》でみんなで暮らせば安泰かな」
「はい!」
「《縫製》は服を作るだけかい?」
「いえ、革を縫うにも使えます。金属は流石に無理ですが」
「なるほどねぇ。マヌイと相性が良いんだね」
「はい!」
「《縫製》かぁ。針を使うんだね?」
「はい!」
「針なら作れるかな」
「お、お願いします!」
「うん。革かぁ。人間も縫えるのかな?」
「!?まぁ、皮、ですし」
「今度材料が手に入ったら実験してみるか。輸血の件も有るし」
「はい!」
「もうすぐ1年だね」
「え」
「パーティに入って、もうすぐ1年だ」
「もう、そんなに・・・」
「そんなに?」
「楽しくて。時間が経つのが早いです」
「危険な時もあったが・・・」
「カズヒコさんと一緒なら怖くありません」
「諜報員や悪魔にも、魔女にも戦わせた」
「一緒なら、怖くありません!1年で7つもスキルを習得しましたし。武技も習得しました!」
「君の努力の成果だよ」
「奴隷だった私が武器スキル、しかも武技まで!奴隷時代は希望も何も有りませんでした。でも、スキルを習得して未来が見えてきました。私は幸せです!」
「・・・そこら辺の冒険者なんぞより強いだろうね」
「はい!」
「諜報員は・・・なんとかしたい」
「はい!」
「もう少し、危険な目に遭わせるかもしれないが」
「妹の為ですわ。家族の為に」
「・・・逃げろと言ったら俺を置いて逃げろ。それは約束しろ」
「・・・はい」
「お昼何食べるかなー」
「新しい所を開拓しましょー」
「そうだなー」
「家族の為に、カズヒコさんの為に・・・」




